朝食を食堂で自由にしてもいいと許可をもらったのは今朝のこと。
 決められた時間以外は病室を抜け出すこともせず、決められたリハビリメニューをこなし、栄養滋養の高い苦いスープや薬をきちんと飲んできた結果だ。
「いいんですか?」
「甘いものだけ、なんて偏った食事の仕方はしないように、しっかり栄養のあるもの食べてきてちょうだいね。それならいいわ」
「はい」
 てきぱきとベッドのシーツを取り替える婦長に苦笑いで頷いた。
 カーディガンに袖を通して、ゆっくり歩いて病室を出る私の前にはユウの広い背中がある。今日も今日で朝からお見舞いに、というか、会いに来てくれたのだ。
 こっちを振り返った彼に差し出されたのは左手。私は口元を緩めてその手に右手を重ねた。
 左はギプスが外れた。もちろん首からさげたままで治ってなんてないんだけど、ギプスは窮屈だから外れてくれた方が嬉しい。
 頭の傷はだいぶよくなってると思う。あとは腕を残すのみだ。これが完治してようやく筋トレやトレーニングメニューに励めるようになる。もうちょっとだ。
「あれー、じゃん! とユウちゃんもおはよーさん」
「ラビ。お早う」
「もう出歩いて平気なのか?」
 食堂に行くとラビと会った。ぺちと頭を叩いて「うん、こっちはもうちょっとなの。婦長がご飯自由でいいって言ってくれたから」「そりゃよかった。回復傾向ってことだもんな」「うん」ぽんと軽く私の頭を叩いたラビが笑う。ほんとによかったって安心してる顔だ。ラビのそういう飾らない表情っていうのは私も見ていてこそばゆいというか、照れるっていうか、なんていうか。
 そこで隣から殺気がぶわっと滲み出してびくっとする。私の手を離したユウが「注文してくる。お前は」「えっと、じゃあ栄養ありそうなものにしとく。あとミスティーのご飯もお願いしてね」「ああ」ぎろりとラビを睨んでから足音荒くカウンターに向かうユウの背中を見送る。腕をさすったラビが「おおコワ、相変わらず怖いなぁユウは」とぼやくから私は困ったなと笑う。
 怖い。うん、怖いときは怖いね。怒るときとか。でも普段はそうでもないんだよ。ユウって案外と優しいんだよ。多分ね。そんなことを思いながら彼が私の分の注文もしてきてくれることを期待して、ラビに背中を押されるまま一歩を踏み出す。
「こっちこっち! つーか今みんなで朝ご飯食ってたんだ、ナイスタイミング」
「みんな?」
「リナリーとかミランダとかアレンとかさ」
「ほんと?」
 ぱっと顔が輝くのは、病室でもそもそ食べる栄養滋養たっぷりの一人のご飯が寂しかったからだ。やっぱりご飯はみんなで食べたい。何気ない会話をしながらおいしいねって笑い合うだけで食べ物の魅力は増すものだ。
 それに、アレンの様子が気になる。元気かな、大丈夫かな。無理をしてないかな。
 分かりやすく空になったお皿が山積みになっているテーブルの一角で、アレンの白い髪を発見した。相変わらずたくさん食べてるようだ。私には背中を向ける形になっている彼は食事に夢中でこっちに気付いていない。
 そこでぴーんと思いついた。唇に指を当ててしーとラビに示してから、そろそろアレンの背中に近づく。
「アーレン!」
 がばちょと背中から抱きつくと驚きのあまり彼は食べていたチャーハンを喉につかえさせて「ごふっ!?」と咳き込んだ。ごほごほ咳き込む姿に慌てて背中をさする。食べてるうちはまずかったかな、ごめんアレン。
「だ、大丈夫? ごめんびっくりさせすぎた?」
「げほっ、ごほ! って、、すごくびっくりしました…」
「ごめん、大丈夫?」
 びっくりさせようと思ったんだけどそんなにびっくりさせちゃうとは。ごめんねアレン、もうしないね。
 私達のやりとりを見ていたリナリーが苦笑いしながら「お早う。傷はどう?」と声をかけてくれる。笑顔で「お早うリナリ。だいぶ治ってきたよ」と頭の方をぺちと叩いて示した。遠慮がちに「お早うちゃん」とミランダに声をかけられて笑顔で「お早う」と返してゆっくりアレンの隣に腰かけた。入院生活が長いから急に動くとたまにふらっとする。そんな自分が嫌だけど、退院するまでは何事も我慢だ。もうちょっとで全快するんだから、治ってから、全部やるんだ。
 ラビが一つ頬をかいて「そこオレの場所…つか、それだとダメなんじゃね?」と言うから首を傾げた。「何が?」「何がって…」ラビが何かを言い渋っている。言ってくれないと分からないのに。
 コップのジュースを飲み干したアレンがおてふきで口元を拭ってから、にっこり笑顔で私に挨拶をくれた。「遅れました。お早うございます、」その笑顔に同じく笑顔で「お早う」と挨拶を返す。
 …よかった。元気そうに見える。
 私が知らないだけで、彼はとても辛い道を歩んでいた。私が知らないだけで、イノセンスが形を変えた理由や、彼がさらに強くなった理由が心に沁みた。
 同じ立場に立ったとき、私は彼のように強く在れるか、自信はない。私のそばにはいつもミスティーがいたし、なんだかんだでユウとも一緒だったし、リナリーって親友もいたし、ラビや、仲間や、みんながいたから。支えられてきたから。
 信じているもの全部が掌からこぼれ落ちたら、私は立ち直れるだろうか。
(大変だったねアレン)
 白い髪を撫でると、きょとんと不思議そうな顔をしたアレンが「?」と首を傾げるから、緩く頭を振る。「何でもないよ」と。
 そこで、背筋がぞっとする寒い殺気にぎくっとする。
 そろそろと振り返れば、殺気を隠そうともしないユウが蕎麦のお盆と私の分の朝食のトレイを手に、背後に鬼をたたえて立っていた。
 こういうときのユウは私でも怖いと思う、というか、ぞっとする、というか。
「何してる」
「え、あ、えっと」
「こっち来い」
 がちゃんと乱暴にお盆とトレイをテーブルに置いたユウ。アレンがユウを一瞥して「なんですか神田、嫉妬ですか」「ハァ? 寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞモヤシ」「アレンです」「二人とも喧嘩しないの!」リナリーがばんとテーブルを叩いて注意すると二人ともふんと顔を背けて静かになったので、そろそろ席を立って向かい側に回った。大人しくユウの隣に腰かけなおす。
 ユウが持ってきてくれたのは、どうやらジェリーさん特製のモーニングセットのようだった。いつものメニューと違うものっぽい。ジェリーさんが気を遣ってくれたのか、はたまたユウが何か頼んでくれたのか。ちらりと彼を窺ってみるけど、黙って蕎麦を食べている。「ミスティーのご飯は?」「できたら持ってくっつってた」「そっか」フードから顔を出したミスティーがお腹空いたって顔でテーブルにぱたぱた下り立つ。「ごめんね、先に食べるね」「ぎゃう…」小さな羽をしょんぼりさせるミスティーにごめんねともう一度謝ってから、ぱちんと手を合わせていただきますをした。
 金の瞳がじいっと私のご飯を見ているので、サンドイッチ一つくらいなら…とあげようとしたらユウに睨まれた。お前はお前でちゃんと食え、ということらしい。
 もうちょっとの我慢だよミスティー。ジェリーさんがいろんなものを詰め込んだカートを用意してくれてるはずだから。
 ゆっくり、よく噛んで、を意識して食事していると、ガラガラガラと聞き慣れた音がした。ミスティーがぴょこんと顔を上げて飛び立つ。
「神田ちゃーんお待ちどーん!」
「俺のじゃない」
 ジェリーさんが持ってきてくれたカートいっぱいの食べ物に、さっそく上からがつがつ平らげていくミスティー。満足そうな顔だ。

「そういえば、のイノセンスは修理が終わったんだって。時間があったら科学班のみんなのところに行ってあげるといいかも」
「え、ほんと? ラビとユウのは? 大破しちゃったって聞いたけど」
「二人のは粉々だったから、もう少し時間がかかるみたい」
「ちっ」
「まぁしょうがねぇよな…つかさ、の剣修理しても自身がなぁ。まだまだ怪我人じゃんかよ」
「私なら大丈夫」
「いけませんよ無理は。それに、悪く言えば、イノセンスが使えれば怪我に関係なく戦闘に出されるってことですし。心配です」
「でも…」
「無理はいけません。怪我に響きます。酷使したらせっかく塞がった傷が開く可能性もありますから、甘くみちゃだめです」
「う、うん」

 力説するアレンの真剣な顔に思わず頷く。そう、だよね。怪我は治り終わりが肝心って、言ったような、言わなかったような。
 あとでイノセンスを取りに行こうと思いながらデザートのメロンを口に放り込んだ。果物がおいしい。入院生活のお見舞い品であれもこれも食べ尽くした気がするけど、自然のものは飽きがこない。偉大だ。
「そういえばリナリー、足の方はどうなの?」
 イノセンス絡みで思い出したことを訊いてみると、リナリーはまだよと緩く頭を振った。「近いうちヘブラスカに診てもらう予定なの。今は教団内みんな忙しいみたいだから」「そっか…」ぱく、と桃を頬張るとじゅわっといい果汁が滲み出した。おいしい。
 リナリーの足、大事ないといいんだけど。強制開放の影響はそれだけ大きいってこと だ。
 強制開放。私は今回そんなことはしないですんだ。レベル3、難しい能力の相手でないなら一対一で撃破できる自信もついた。戦う覚悟はできている。
 ただ、リナリーのように強制開放できるのかどうかには、自信がない。
 守りたい人がいる。守りたい世界がある。帰ってきたい場所がある。そのために戦っている。
 私の小さくて精一杯な背伸びは、この戦争の時代にどこまでいける覚悟だろう。
「おい」
 ぼそっとぼやくような声に「はい?」と首を傾げてユウを見ると、彼は湯のみを傾けつつ「ケーキはいるのか」と訊いてきた。ぱちぱちと瞬きして、彼の口から出てきたケーキという単語を理解するのに数秒。しっかり噛んで食べて平らげたにせよ、甘いものは別腹なのが女の子という生き物なのだ。
 ケーキは、確かに食べたい。でも、気になる点が一つだけ。
「でも、カロリーが…」
 そう。朝食の時間が終わったら私は病室に戻るのだ。ベッドの中に。ケーキなんて高カロリーなものをエネルギーとして消費する予定がない。食べた分だけ身になる…そう思った方がきっといい。
 ケーキの甘い誘惑と闘う私にユウは呆れ顔で「くだらねぇもん気にしてんじゃねぇよ。病室じゃ絶対食えないぞ」「う…」「ムースとか、そういうもんなら気にするほどもねぇだろ」「う…うん」ジェリーさんのムース仕立てのラズベリーケーキを思い浮かべて思わず頷くと、ユウはさっそく注文に席を立った。「紅茶は」「じゃあ、レモンティー」ん、とぼやいてさっさとカウンターに向かうユウにラビが呆れたような感心したような顔をしている。
「ふーん…ユウちゃんにしては頑張ってらぁな」
「え?」
 その言葉に首を傾げる私の代わりに、うんうんと頷いたのはリナリーだ。「神田の口からケーキのムースなんて言葉を聞く日が来るなんてね」「のためならやりゃできるんだな、ユウも」「のためなら、ね」ね、とリナリーにウインクされてなんとなく笑って誤魔化す。うん、あれだよ。こそばゆい。
 アレンが納得いかない顔をしてたけど、私と目が合うと笑いかけてくれた。その笑顔にふにゃっとする。なんていうか、安心する? みたいな。
 アレンはいい笑顔する。元帥はそういう笑い方はあんまりしてなかった気がするよ。
 そういえば元帥。元帥にも会いに行きたいな。
 今頃豪快にワインのボトルでも開けてるんだろうあの人を思い浮かべる。元帥職の人はみんな本部にいるはずだ。イノセンスを受け取りに行くついでってことで、あの人を探してみようかな。
 見慣れない制服を着た人が、アレンの監視だと言って現れたのはそのすぐあとだった。
 リナリーがすぐにコムイさんに事情を訊きに席を立って、アレンは中央庁のリンクって人と書庫室へ。
 なんだか大変なことになりつつある。妙な話だけど、昨日のうちにアレンと話しておいてよかった。
 あの監視役の人が本当なら、これからアレンには四六時中あの人がついて回るってことになる。当分昨日のように二人で話をするなんて時間はきそうにない。
 アレンは私よりも年下で、いつも強く立っているけど、少し頼りないところもある。私の方がお姉さんなんだから支えてあげたいところなんだけど、コムイさんに掛け合うならリナリーが一番だろう。今はアレンのことは彼女に任せて、私はイノセンスを受け取りに行くため、忙しなく人が行き交う大理石の床を蹴る。
「なー、アレンだいじょぶかなぁ。あのホクロ二つに質問攻めにされてんじゃね?」
「興味ない」
「大将、それはちょっと切り捨てすぎさ…」
 ゆっくり、それでいてなるべく大股で歩く私の後ろにはラビとユウがいる。治り始めているとはいえ、まだ怪我人の私を案じてくれているみたいだ。
 急いで科学班のフロアに行って扉を開け放つ。「すみません、私のイノセンス直ったって聞いたんですけど」忙しそうに書類をめくっている白衣の人に声をかけた。元帥が任務で持ち帰ったアクマ製造プラント、それを調べるために大勢人が出払ってしまっていて、いつも人と機械でいっぱいのフロアは半分ほど空間が開いている。
 応じてくれた人がリーバー班長を呼んできてくれた。「おー。思ってるより元気そうでよかったよ」「リーバーさんは、なんだか目の下のクマがひどいですけど…」「いやぁまぁしょうがない。で、イノセンスだったな。ほれ」鞘に入った剣を渡されて、受け取って柄を握った。左手で刺激しない程度の強さで鞘を握ってゆっくり剣を抜く。
 無機質な光の下できらりと煌めく剣。私のイノセンス。ドラグヴァンデル。
「打ち直そうって案も出たんだよ。それ、とりあえずくっつけただけだから、あんまり安心するなよ」
「え、そうなんですか?」
「手抜きかよてめぇら…」
「ないよりはいいだろうって思ったんだが、やっぱりきちんと頼むべきかなあはは」
 疲れた顔をしたリーバーさんがはぁと溜息を吐いて「そういうわけだから、希望決めといてくれ。きちんと打ち直すなら支部の人に頼むから」「あ、はい」「なぁ早くオレの槌も直してくれよー」「そうしてやりたいのは山々なんだがなー」続く会話に耳を傾けながら、左腕を疼かせる痛みに唇を噛んで堪える。やっぱり動かしたら痛いか。だよね。
 とりあえずくっつけただけらしいドラグヴァンデルは、受け取っておくことにした。何かあったときのためにもイノセンスは手元にあった方がいいだろう。
 右手に鞘を持って、忙しい中顔を出してくれたリーバーさんにお礼を言って科学班のフロアを離れる。
 私に並んだユウが「無理して握るなよ」とぼやくから苦笑いで返した。我慢したのにお見通し、かぁ。
「今度爺さんに言って打ち直してもらおう。それが確実だ」
「えっとー、アジア支部のズゥおじいさん?」
「そうだ」
「うん…?」
 ユウからそんなことを言うとは思ってなかった私は首を傾げてしまった。
 あんまり人を評価しないユウがおじいさんのことを挙げるなら、ユウなりに、おじいさんのことを信頼しているってことなんだろう。ズウおじいさんの人柄か、それとも刀匠としての能力か、何を評価しているのかは分からないけど、ユウにもそういう人がいるってことだ。そこには安心した。
 私の肩に腕を回してひっついてきたラビが「なぁ何の話? オレも混ぜ」全部言い切る前にラビの襟首を掴んだユウが「離れろ」と怒りオーラを全開でラビを突き放した。剣を持つ私の手を掴んで大股で歩く彼にどうにかついていく。
「ちょ、っと待ってユウ、ああいうのは駄目だよ」
「あ?」
「つっけんどんすぎるでしょ。ラビは別に悪いことしたわけじゃ」
「うるせぇ。俺が気に入らない」
 少し歩調を緩めた彼。どうにか追いついて隣に並ぶ。苛々してるその横顔を見上げて「どうして?」と訊くとじろりと睨まれた。彼は何か怒っているようだ。何に怒ってるんだろう。
「お前、俺が他の女と話してたらどう思う」
「え。えっとー、話してるなぁ…?」
「…………」
「ごめん、だって想像つかなくて」
 不機嫌さを滲ませる彼に困ったなと笑う。
 強く手を握られて、ちょっと痛いなと思ったけど言わない。余計に不機嫌にさせたくはないから。
 無言になってしまったユウをちらりと窺ってから、頭を働かせて想像してみた。誰にでも仏頂面でつっけんどんな反応しかしないユウが、たとえば、私の知らない人に笑いかけてたとしたら。
 想像力を総動員するも、上手くいかない。私にだってそうそう笑ってくれるわけじゃないのに、ユウが私以外に笑いかけてる姿なんて。
「だー二人とも待つさ! ひでぇよユウちゃんオレとくに何もしてないじゃんかよっ」
「俺のファーストネームを口にするんじゃねぇよ。刻むぞ」
はユウって呼んでるじゃん! ケチだなぁもー」
「喧嘩しないのっ」
 ラビの胸倉を掴んだユウの手を叩いて顔を寄せると、その分仰け反ったユウが舌打ちして顔を逸らした。ユウの手から逃げたラビが私の左側にさっと移動して「相変わらずこえぇ」とぼやくと、ユウが剣呑な目つきでラビを睨みつける。
 手が片手だけしか動かないっていうのはすごく不便だ。満足に二人を止めることもできやしない。
 ともあれ、用事の一つは終わった。次は…二人が微妙な顔をするかもしれないけど、クロス元帥を捜したいな。私が会って話をしたいだけっていうのもあるけど、アレンのことを相談したい。中央からの監視のことを元帥は知ってるんだろうか。知ってるんだとしたら、私はどうしたらいいのか、何かできることがあるのか、訊いてみたい。
 可能性が高いのはあの人の自室だ。定期的に掃除していたからそうひどいことにはなってないはずだけど、埃っぽいだろうな。元帥捜しの任務についてから今日まで一度も出入りしていないし…。
 お酒の瓶がいっぱいあるあの部屋なら可能性が高い、と足を向けた先からぱたぱた黒いゴーレムが飛んできた。ん? と首を捻ったのも束の間、『あーなーたーたーちー』と婦長の絶対零度の声が聞こえて三人揃ってぎくっと固まった。
 し、しまった。病室に戻るのすっかり忘れて、た。
「げっ、婦長」
 さっと青い顔になったラビががしと私の肩を掴んだ。「今から連れてく、なら帰っから! なっ?」「う、うん。すみません婦長マッハで帰ります」「ちっ」舌打ちしたユウがラビの手をばしっと払って私の手を引いてずかずか歩き出す。「うわユウちゃんひどいっ」「ユウって言うな殺すぞ馬鹿ウサギ」「喧嘩しないのっ」『五分以内に帰らなければ…』「「はいい帰りますっ!」」私とラビが揃って返事をして、ユウはまた舌打ちした。
 婦長怒ってる、怖い怖い。早く戻ろう。
(元帥のところへは行けなかったな…また明日、捜してみよう)