(……空気が。ぎこちない)
 とりあえず一番に言いたいのはそれ。
 俺の右側にはルピ、左側にはジオ。どっちもふてくされたような顔をしてお互いを見るもんかってくらい顔を背けてる。にも関わらず俺の腕はどっちもに握られてるやら絡められてるやらで動くに動けない。
 そんな微妙な空気と動けない位置でそろそろ何分か過ぎようとしている。俺に。どうしろと。
「…あのー二人とも。俺仕事」
「「知らない」」
 見事声が重なった。それに二人が二人して気に入らないって顔をして睨み合う。だからはぁと息を吐いて「あのさ、一応藍染サマんとこに行かないといけないんだよ俺」と言うもルピが俺の腕を離す気配はさらさらないし、ジオにいたっては痛いくらいに手首を握り締めてくる。つまりやっぱり動けない。参ったなぁ。
(……どーしよう)
 どっちに視線をやってもふてくされた顔をしてる。まぁいきなり抜刀とかそういう展開にならなかっただけでも歓迎すべきなのかこれは。前向きに考えたら。よくよく考えたら。
 俺は仕事で藍染様んとこに行こうと思ってて、そしたらジオと鉢合わせした。ちょっと喋ってたところへルピが来た。無言の睨み合い。なぜか跳ね上がる二人の霊圧。仕方ないからそばにある空の部屋を指してとりあえずあそこ行こうねと言ってみたはいいものの。なんか結果、オーライなのかそうでないのか。
 二人の頭をぽむと叩いて「あのさ、俺仕事なんだってば。今日じゃなくてまた今度ってことに」「「うるさい」」それでまた二人にハモってきっぱり言われる。それでお互いが気に入らないって顔をして睨み合って、先に口を開いたのはジオ。
「このショタ」
 かちんときたらしいルピが「うるさいなぁ僕とそう身長変わらないくせに君なんかに言われたくないね」と返し。それにかちんときたらしいジオが「お前こそうぜぇよその誘ってるみたいな格好でをたぶらかしやがって」と返し。それでさらにかちんときたらしいルピが「誰が誰をたぶらかしたって? 僕からを取り上げようとしてるのは君の方でしょ」とルピが刀の柄に手をかける。「俺の方が昔っからを知ってんだよばーか」と舌を出したジオがきんと抜刀した。あーやばいよねこの展開はまずいよね。そう思って二人の手を掴んで「ちょっと待ってストップ。ほんとにストップ!」と声を上げるも二人にじろと睨まれる。俺、悪くないよ。うん。
「喧嘩は駄目だってば。ほらジオ」
「うるせぇ」
「ルピも、蔦嬢しまう」
「やだ」
「…もー」
 はぁと息を吐く。一体全体どうしてこんなことになっちゃったんだ。俺は二人に喧嘩なんてしてほしくないのに。
 かと言ってじゃあどちらかを選ぶ、なんてことも、俺はできないでいるわけだけど。っていうか今現在ルピとお付き合いなわけだから。ジオとの話はそのー、浮気って表現をしたらあれだけどまぁ浮気。なんだろうな。多分。
 だから俺にはえらいことなんて何も言えないわけだけど。強いて言うなら二人ともなんでそんなに俺がいいのみたいな。
「…あの。仕事行かしてよ」
「やだ」
「俺と仕事どっちが大事だ」
「いやそりゃジオだけどさ。でも俺しご」
「僕は? 僕よりそいつが大事だって言うのっ?」
「いやルピのことも大事だよすごく大事だよ! 大事だから泣かないでってばっ」
 じんわり瞳を潤ませるルピに慌てる。腕を離して腕を。抱き締めようにも腕がこれじゃあ。
 もう片手をジオがぐいと引っぱって「俺は」と棘のある声で言う。「そりゃお前のことも大事だけど」と顔を向ければこっちはなんだか射殺しそうな勢いで俺を見てる。だから俺どうすれば。お前らにどうしてやればいいんだ俺。

「…何してんだてめぇら」

 そこで救いの声がした。ぱっと顔を輝かせて「グリムジョー!」と呼べば顔を顰めてポケットに手を突っ込んでるグリムジョーがいる。偶然通りかかったって顔だ。両手が拘束状態なので「ちょっと助けて手伝って。俺藍染様のとこ行かないと」と訴えれば「へぇ」と興味なさそうな声が返ってきた。がんとショックを受けて「ちょ、助けてってば!」と声を上げるもひらと手を振られて「両手に華でよかったなおい」といかにも適当そうな言葉で流された。
 さっさと歩いて行ってしまうグリムジョーの背中に「この薄情者ーっ!」と罵倒するもひらひら手を振られただけ。ちくしょーグリムジョーめ今度会ったら憶えてろ。
「…何であんなガラの悪い奴と仲いいんだよお前」
「え? ああグリムジョー? 別にそんなガラ悪くないと思うけど」
 気に入らないって顔でグリムジョーの背中を睨みつけるジオにそう返す。ルピなんかべぇと舌を出して「あいつを狙ってるんだよ。僕知ってるもん」とか言う。なんだか話がおかしくなってきた。あれ、これでいいんだよね俺。
「狙ってる? まさか夜這いか?」
「は? ちょっと待ってなんでそんな話になって」
「それは僕が気をつけてるからない。じゃなくてこう何気なく狙ってるんだよあいつ。今のだって声かける必要なかったのにわざわざさ」
「確かにな。前々からガラ悪ぃし気に入らないとは思ってたがこれで決定だ」
「ちょっと二人とも俺の話聞い」
「っていうかは僕の。君のじゃない」
「うるっせぇよ。そんなこと俺が知るか。お前のでもねぇ」
「ぼ・く・の。僕とが何回したか教えてあげよっか?」
「わーちょっと待ったルピそういうことは他人に言っちゃいけませんっ」
 慌ててルピの口を塞いだ。不満そうな目が俺を見上げる。いや何その目。俺間違ったことしてないよ。
 ジオがじとっと俺を見て「おぃ」と言うから「はいはい何でしょう」と返す。自分の笑顔が引きつってると感じるのは多分ほんとだ。
「俺だって我慢してるんだ。そいつ抱けるんなら俺も抱けるだろ」
「いやいやちょっと待って。話がおかしい。方向がおかしくなってる。ジオ落ち着こう、はい深呼吸」
「別におかしくなってない。前々から思ってたんだ、俺と寝ろ」
「いやだからなんでそっちの話に」
 ルピの口を塞いでる手がルピの手で握られて「縊れ」と声。ジオが反射で自分の刀の柄を掴んで宙に放った。「喰い千切れ」と声。俺は無意味に「あー」と呻いて天井を仰ぐ。
「蔦嬢!」
「虎牙迅風!」
 声に声。どんと音。ルピの蔦嬢八本が狭い廊下をうねる。がっと俺を掴んだ蔦一本。それを切断するようにざんと爪を振るったジオ。どっちも目が本気だ。そんな二人に俺は何を言えば。
「うぜぇぞこの触手! さっさとを俺に渡せ!」
「触手じゃない蔦! っていうか誰が渡すもんかは僕のだっ!」
 合計七本の蔦の攻撃の嵐をすばしっこいジオは避けて切ってまた避ける。俺は蔦一本に捕まったままはぁと息を吐いた。
 とりあえず。藍染様には謝らないといけないだろう。理由、どうしようか。

結局悪いのは、
(こんな俺、なんだよね)