「あーあー…高級ホテルの最上階がぁ……」 ザンザスが放った本気の銃撃、その爆破で吹き飛んだ最上階は、見るも無残な瓦礫の痕を残すのみで、豪華な内装も家具も全部を吹き飛ばした。もちろんレストランも。戦闘中にディーノが避難を促してくれたってことでこのせいで被害者とかは出ていないはずだけど、ボンゴレの金額的被害は、甚大だ。 バサ、バサ、と頑張って俺を支えて飛んでるツァールに気付いて瓦礫の中に下り立つ。 煙の中に人影が見える。キョーヤもザンザスも無事だ。直前に俺が防御を施したこともあってキョーヤに致命的な傷は見当たらない。 ただし、腕時計は壊れてしまってる。 俺のが無事でも、キョーヤのが壊れたらこの代理戦は敗退、か。 チィリリ、と左手首の腕時計が鳴って戦闘終了を告げた。チームとしては負けちゃったけど俺もキョーヤも大きな怪我はしていない。そこのところは三重丸をあげたい。 「キョーヤ」 駆け寄るとキョーヤはフラつきながらも立ち上がって俺の手を払った。「大丈夫」と。爆風で傷ついてるしマーモンの幻術で出血したところもあるし、早く手当てしてやりたい。 キョーヤはぶすっとした顔で壊れた腕時計を睨みつけた。「壊れた…」「うん、壊れたね。残念」残念の言葉と声が合ってなかったようでじろりと睨まれてあははーと空笑い。 うん、ほんとは壊れてくれてほっとしたんだ。これでもう物騒な人達と戦わずにすむ。風には申し訳ないけど。 バサリ、と翼をはためかせたツァールに腕を伸ばす。戦闘は終わったし出番はおしまいだ。ゆっくり休むといい、と小さな頭を撫でると、ツァールの姿が光の粒になって空中に霧散した。 「フォーンごめん、負けちゃった!」 向こうの方にいる風に手を振って声を張り上げる。小さい手で応えられた気がしたけど確かかわからない。 ディーノが念のためにと持ってきた救急箱を瓦礫の中から探し出した。「いい、大丈夫」と遠慮するキョーヤを座らせ、消毒液を染み込ませた綿を押しつけると沁みるとばかりに顔を顰めて目を瞑る。「全然大丈夫じゃないだろ」と裂傷のある腕を舐めたらばっと振り払われた。いっきに顔が赤くなってる。 「き、汚い」 …こんなときだけどあれだよ、キョーヤかわいい。 「お前の血だし、だいじょーぶ」 「何が。理屈になってない。手当てするならちゃんとしろっ」 怒られた、と肩を竦めて、消毒液と唾液による手当ての同時進行は諦め、顔から順番に消毒してテープを貼ったり包帯を巻いたりして応急処置をすませていく。 そういえば学ランがないな。あの爆風でどこかに飛んでしまったのかもしれない。「学ランは?」「知らない」「予備あるの?」「ある」じゃあ、まぁいいか。どこに飛んでいったかわからない学ランを捜す気力は残ってない。 途中、人が集まってる向こうでどよっと空気が揺れたけど、ここからだと話の中身までは聞こえなかったので流した。どっちみち俺達は敗退したし、対戦結果を知ったところでキョーヤの戦闘本能を刺激するだけというか。 ビッ、とテープを切って包帯をしっかり止める。よし、とりあえずこれでいいか。 ボロボロになってところどころ破けてるシャツの肩に俺のジャケットを被せて一息。 俺も結構死ぬ気の炎ってやつを消費したけどキョーヤの比じゃないから、まだ元気。 「おぶってこーか」 「馬鹿じゃないの」 フラついてるキョーヤはきっぱり一言で切って捨てて、フラつきながらも一人で歩いていく。 ちらっとディーノ達の方に視線をやって、帰っちゃっていいかな、と迷っていると「」とキョーヤの声に急かされた。帰ろう、と。 ああ、結局腹ごしらえできないままだったな、ってことを今更思い出して、帰り道でファミレスにでも寄ろうと決めながら「今行くよ」とキョーヤの背中を追いかけた。 疲れたから早く帰りたいとキョーヤが譲らないから、コンビニで余り物っぽい弁当を二つ買ってすぐに雲雀家に戻った。「ああ疲れた」とこぼしてぐっと伸びをする。バイクの後部座席って地味に響く。 バン、とヘルメットを座席の下に入れたキョーヤが欠伸をこぼした。「僕も疲れた」と目をこする姿がかわいく見える。俺のジャケットを着てるってところがミソです。そしてツボです。背丈分ちょっと丈とか袖とかが長いみたいで余ってるところがなんともかわいい。 さあ我が家だ、と帰宅して、お風呂の準備をしつつコンビニ弁当を片付けて、キョーヤ先に入っていいよと疲れてるキョーヤに先に入浴を促して、自分の方は片付けをすませた。明日はプラゴミプラゴミ、と。 朝のゴミ出し準備まですませて、くあ、と大きな欠伸を一つ。 久しぶりに炎なんて使ったから眠いなぁと目をこすって、眠気を誤魔化すためにテレビをつけた。なんかやってないかなと探すけど適当な番組がない。仕方ないからサスペンスドラマにしておいた。何もないよりはいいけど、やっぱり、眠いな。 (他のチームはどうなったかな…。あ、ビャクラン大丈夫かな。あいつユニのチームだったよな……やっぱり対戦結果聞いとけばよかったかな) ふう、と吐息して、つけっぱなしだった腕時計を外した。これもお役目ごめん、と。 あのとき。マーモンの幻術で捕まりかけたとき、アラウディが俺を守ったけど、本当に一瞬で、誰にも見られなかった。それがよかったのかもしれないけど…これを機にキョーヤに俺の本当のことを話そうと思ってただけにタイミングを逃してしまった気がしないでもない。 無駄に悩んでいるうちにキョーヤが戻ってきた。濡れた髪をタオルで拭いながら「、入って」と言われて腰を上げる。「消毒、するんだよ」「はいはい」面倒くさそうにしつつもちゃんと救急箱を取ったキョーヤに満足して脱衣所に向かう。 気持ち長めにお湯に浸かって、筋肉とかをほぐしつつ、さっぱりしたーと着物を着て居間に戻る。テレビがつけっぱなしで、キョーヤが食卓の黒いテーブルに突っ伏すようにして眠っていた。部屋に戻って寝てればいいのに、俺のこと待ってるうちに寝ちゃったんだな。かわいい。 今日の戦闘は相手が相手だったし、濃い30分間で疲れたんだろう。 細い腕を肩に回してそろっと抱き上げる。うむ、未来で鍛えたおかげか抱き上げられたぞ。やった。地味に嬉しい。これからも暇を見つけたら筋トレとジョギングに励もう。 よっぽど眠いのかキョーヤは寝入ったままだったので、そのまま二階に上がって、キョーヤの部屋のベッドに運んだ。 「お疲れさま」 頑張ったね、とこぼして黒い髪にキスをして顔を離す。 さて、俺達はこれで代理戦争から外れたわけだけど、リボーンに現状確認するくらいはしておこう。 …でももうちょっとキョーヤの寝顔見てるくらい、いいよな。 キョーヤの黒い髪を指でつまんで絡ませ、スルスルだなぁと一人で満足していると、ぞくりと背筋が寒くなって窓の方を振り返った。誰もいない。いないけど、ここまで届くこの炎の感じは憶えがある。つい最近知った第八属性の炎とかいうのだ。これを使えるのは D・スペード。あいつを覗いて考えた場合可能性は一つ。 「復讐者…」 今は代理戦争中だ。投獄されてたムクロだって正式に牢を出たんだから、あいつらがここに現れる理由なんてないはず。 「このかんじ、しってる…」 ぐっと俺の腕を握ったキョーヤが眠さを引きずったような声をこぼして起き上がった。炎の気配に目が覚めたらしい。 ぺたんとベッドに座り込んだ姿がダイレクトです。こんなときだけどかわいい。「復讐者だと思う」「それ、なんだっけ」「んーと、マフィア界の掟の番人、かなぁ」「ふーん」さして興味なさそうに流された。ぎ、とベッドを軋ませて下りると「それは別にいいけど。並盛に、いるね」とこぼしてぱちっと目を開けた。あれだけ眠そうだったけどこの攻撃的な炎を感じて意識が覚醒したらしい。 「行こう。なんかやな予感がする」 一番近い場所に行くとツナとハヤトとタケシが復讐者と戦っていた。「ツナ!?」「、か!」ごっ、と遠慮なく復讐者の顔に回し蹴りを叩き込んだツナが「奇襲だ。奴らルールを掻い潜って攻撃してきたんだ!」「え?」急なことに頭が追いつかない。復讐者がルールを掻い潜って奇襲、って、このタイミングなら代理戦争のことなんだろうけど、じゃあ復讐者が代理戦争に参加してるってこと、か? そんな話知らない。今日あのあと決まったことなのか。しまったな本当話聞いとくべきだった、反省。 びっとトンファーを振るって展開したキョーヤが「僕の並盛で暴れないでよ」と着物の走りにくさもなんのそので駆け出すし、あーもう! ここ住宅地だよ! 住宅地なんて関係あるかって勢いでボムを放るハヤトに「これどういうこと!?」とぶつけると、「ああ!? 見てわかれよ、代理戦争に復讐者率いるバミューダって奴が参戦したんだ!」と怒鳴り返された。 状況からしてそれくらいしかないと思ったけどやっぱりそうなのか。だとしたら、なんて強敵だ。今もツナ達四人の攻撃で少し押されてる程度で不利というところまでは傾いてない。 「リボーンはっ?」 「アルコバレーノ同士の会合だって、出てるんだ!」 ガキン、と刀で復讐者の鎖を跳ね返したタケシが叫ぶ。 思考を巡らせながらツァールを呼び出す。あの鎖くらいなら炎と同化させて相殺できるはず。 ツナはルールを掻い潜った奇襲だって言ってたなということを思い出し、改めて復讐者の腕を見ると、時計がなかった。場外乱闘、闇討ち。掟の番人が随分と卑怯なことをしてくるじゃないか。 飛んできた鎖の矛先をツァールの炎で灰にしたところで「お前達!」とリボーンが飛び込んできた。途端に『撤退する』と復讐者がその場から消えた。たった少しの攻防でどっと背中に汗が。 おいおいどんだけヤバいことになってんだ代理戦争。公平の立場のはずの復讐者まで出てくるなんて。 「はー…」 脱力して肩を落とす。ここ以外にも複数の場所で炎を感じたけど、消えていた。 気に入らないって顔で復讐者が消えた虚空を睨んでいたキョーヤがあふと欠伸をこぼして戻ってきた。折りたたんだトンファーを着物の袖の中にしまうと「帰ろう。ねむい」と寄りかかってくるから、転びそう、と肩を支える。 できれば説明とか聞いておきたいところだけど、キョーヤを放っておけないし。 「ごめんリボーン、帰るよ。電話する」 「ああ、わかった」 バカップルはさっさと帰れとしっしと銃を振られて肩を竦めて返し、今にも寝そうなキョーヤを連れて一度帰宅。ベッドに寝かしつけてから携帯を取り出す。キョーヤの部屋を出て自室に戻りつつ上司にコールした。 今日の代理戦争の対戦結果、バミューダ率いる復讐者がスカルチームを倒して腕時計を奪い参加資格を得たこと、さっきのはルールを掻い潜りアルコバレーノが集まっている間に起きた奇襲攻撃であること、などなどの説明を受けて、溜息を吐いてベッドに転がる。 そうか。本当に変わったんだなビャクラン。今は入院してるらしいけど、大丈夫かな。あいつの力なら自力で怪我を治すってことも可能なのかな。 「残ったのは、ヴェルデんとことリボーンとことマーモンとこと、バミューダチームか」 『そうなるな』 リボーンの声はいつもと変わらない。慌ててもいない。予想外の参加者が現れたっていうのに。眠気を訴える目をこすって「そういや、敗退したチームは大丈夫なのか? ユニんとことか」『ああ、心配ねぇぞ。あくまで現存するチームに対する攻撃だしな』「そっか…」じゃあビャクランは大丈夫か、なんて考えてから頭を振った。キョーヤが知ったら怒るって。 現状の確認はしたし。眠いし、向こうも疲れてるだろうし、俺も寝よう。 「じゃあ、えっとー、頑張って。手伝えることがあったら手伝うけど」 『そうだな。そんときはまた声を、』 リボーンの声に被さるようにチィリリと音が鳴った。はっとして時刻を確認すれば、ジャスト0時、日付が変わっていた。確かに理屈としては日は変わったけどこれはないだろ。チェッカーフェイスとかいう審判さんよ。 ち、と舌打ちしたリボーンが『立て込むみてぇだ』とこぼしてブツッと通話を切った。ツー、ツー、と音を鳴らす携帯を切ってはーと深く息を吐く。 寝たいんだけどな。俺もキョーヤももう部外者だし。だけど。 ぞくりと背中が寒くなる炎にいても立ってもいられず外に出た。「あっちか…」とこぼしてツァールを呼び出そうとして、「どこいくの」と眠そうな声に呼び止められる。半分寝かかったキョーヤが戸口に肩を預けて半目でこっちを見ていた。 「いや、ほら、また復讐者が…」 「さわだたちのところにいくんだろ」 「うん、多分」 「ならいい。かんけいない。なみもりには、きがいはいかない」 基本がそこらしい。苦笑いする俺に頼りなく揺れる手を伸ばして「ねむいんだ。」、と呼ばれて、くそぅごめん! とリボーン達に心の中で謝って大股でキョーヤのところに戻ってぎゅっと抱き締めた。 かわいい。俺悶死しちゃう。 ちゅう、と額にキスすると気怠そうな手で払われた。手つきとは別に眠そうな目が伏せられていて、照れてるなっていうのがわかる。 「寝よっか。今から行ったとして、俺達にできることないもんな」 浅く頷いたキョーヤの背中を押して家の中に入れながら、複数の炎を感じる方を睨む。いつもと変わらない空に煙が上がったのを最後に、「」と眠そうな声に呼ばれて肩を竦めて引き戸の扉を閉めて施錠した。 (今回はなんの力にもなれないけど、負けるなよ、ツナ) 気怠げに伸ばされた手を取って抱き上げる。よっぽど眠いのかうんともすんとも言わないキョーヤは俺の肩に顔を押しつけてだんまりだ。 ぎ、とベッドを軋ませてキョーヤを下ろす。布団を被せたところで手を取られた。睡眠にじわじわ支配されていく濡れた瞳が俺を見上げて「いっしょにねて」と言うから、一瞬どきっとしてしまった。普通の意味なのに。「あー、うん」生返事をしてからベッドに上がる。男二人で狭いことこの上ないシングルのベッドで身体を寄せ合って、細く息を吐いて目を閉じたキョーヤの髪を指で梳いた。 明日、起きたら一番に電話して、とりあえず全力で謝る。これでいこう。 |