ここを制した方が勝つ

 ツナ達はどこへ行ってしまったのか、夜まで捜して回ったのに見つけることができなかった。あれから真6弔花にも遭遇しない。敵に会わないことはいいんだけど、味方に合流できないのも困った。
 ざくと土を踏み締めて、木を隠すなら森の中、という言葉を思い出しつつ、夜の闇に沈んで鬱蒼としている森の入り口で足を止めた。あと捜してない場所なんて限られている。だけど今から夜の森に入る元気はない。キョーヤも疲れていたんだろう、「ちょっと休憩しよ」と座り込んだ俺に文句は言わなかった。
 場合じゃないってわかってて喫茶店でティータイムなんかして、紅茶と甘いもので回復したつもりでいたんだけど。死ぬ気の炎の消費ってのは結構身体に響くらしい。
「…ツナ達どこ行ったんだろうね」
 ぼへっと月を見上げながらそう漏らしたら、キョーヤには「知らないよ」と一蹴された。特別興味もないと言いたげな声だ。うん、そう言うだろうと思った。
 気のせいではなく眠くなってきた。今日だけでもう疲れた。チョイス戦に続きビャクランからユニを守るために逃走して、真6弔花とのバトル。休憩を挟んでツナ達を捜してるけど見つからないし、夜になっちゃったし。眠いし。寝たい。
 さく、と足音がして、キョーヤが俺の隣に座った。こてんと肩に頭を預けられて、何度か瞬いてからキョーヤの髪を撫でる。
 ああ、そうか。二人きりなんだ、本当に。他に誰もいないんだ。そう思ったら余計に気持ちが緩んだ。
 目を閉じて黙って俺に撫でられるキョーヤはきれいな顔をしていた。おおよそいつもどおりの、緊張も恐れも何も見えない顔。喧嘩が好きで、一匹狼で、群れるって表現をして誰かと一緒にいることを嫌ってて、並盛を裏から牛耳ってて。だけど、俺のことになると頭に血が上ってキレたり、逆に弱々しくなって泣いたりしちゃう天の邪鬼。俺の知ってる雲雀恭弥って子がそこにいる。ここにいる。俺の隣、手の触れられる位置に。
「キョーヤ」
「何」
「んーん。呼んだだけ」
「…何それ」
 瞼を持ち上げて俺を見たキョーヤは呆れた顔をした。その顔に笑いかけて唇を寄せる。キスをする。場合じゃないとわかってはいたけど、ツナ達は見つからないし、手がかりもないし、真6弔花もあれから見かけないし。だからさ、少しくらいは、いいよね。こうしても。
 キョーヤの頬に手を添えて角度を変えて何度もキスをした。そのうちキョーヤに押し倒されてどさっと背中から地面に転がる。俺の胸に手をついて体重をかけてくるキョーヤにそれでも口付けた。
 揺れる灰色の瞳を見ていると襲いたくなってくる。でもさすがに外で、この状況下ではできない。もっと落ち着いてから心置きなくキョーヤを抱きたい。
 むい、と頬を挟んだ掌でキョーヤの顔を上げさせる。月明かりに俺とキョーヤの唇を繋いでいた銀の糸が光って消えた。
「終わったらね」
「……それ、いつの話」
 むすっと拗ねた顔をしたキョーヤがぐいーと俺の頬をつねって引っぱった。痛いですキョーヤ。困ったなと笑う俺に、キョーヤはむすっとした顔で頬をつねり続ける。だから痛いってば。
 そりゃ、いつになるかわからない話なんだけどさ。ビャクランを倒せたら終わる、のかな。ビャクランを倒すことは過去に帰ることに繋がるんだよな。ユニが出てきて守ってくれって言ってみんなで逃走してから色々ごちゃごちゃだけど、そこはブレてない、はず。
 諦めたように俺の頬から手を離したキョーヤを抱き寄せる。大人しく俺の胸に頬を預けてキョーヤは黙っている。
 頭上には月明かりが。周りには灯りのない森が広がっている。
 状況はあまり芳しくない。でも俺は笑っている。どうしようもなく口元が緩んでしまってる。
 キョーヤが腕の中にいる。体温を感じる。存在を感じる。だから、俺は、笑っていられる。
 無意味に動き回っても疲れるだけだから、とキョーヤに言われて、その夜は二人で眠った。
 瞼の裏に朝陽が射し込んだことで目が覚めて、ぼんやりした意識で目を凝らす。木の幹に背中を預けて座ったまま眠ったんだった。身体が凝り固まってるわけだ。
 ぬくもりを感じて隣へと視線をずらせば、俺の肩に頭を預けて寝ているキョーヤがいる。手を伸ばして長めの前髪を指で揺らして、寝顔もきれいなキョーヤに笑いかけたとき、爆発音がした。反射で顔を上げる。キョーヤもぱちと目を覚まして軽く頭を振ってから立ち上がった。
「なんだろ」
「炎の感じがある。…沢田達じゃないの」
「ってことは、敵か。行かないとっ」
 寝起きの身体でキョーヤと一緒に走り出す。何度か足がもつれそうになったのをぐっと堪えて走る。先の方で煙が上がり、爆発音が続く。そしてそれが別のところでも起こった。ざざっと地面にブレーキをかけて息を切らして二方向に目をやる。どっちにも敵がいるってことか。ならここは分散した方が、と考えたところでキョーヤが俺の手を掴んでぐいと引っぱった。強い力で。「う、わっ」突然すぎて身体が追いつかず、どさっと地面に尻餅をつく。痛い。
 何すんだよキョーヤ痛いじゃないか、と抗議しようと顔を上げた先では、キョーヤが険しい顔で茂みを睨んでいた。
 まさか、敵なのか。慌ててポケットの匣に手を突っ込む。助けに行く前に敵と遭遇なんてついてない。
 開匣しようとして、腕を突き出したキョーヤに止められた。「出てきたらどう」と棘のある声にがさりと茂みが揺れる。一番最初にひょこっと現れたのは蛙、の頭だった。その次に現れたのは見憶えのある顔。どこだっけ、どっかで見たぞ。あのオッドアイみたいな目はどこかで。
「そうトゲトゲせずとも、彼を取ったりはしませんよ。雲雀恭弥」
「…あ。えっと、チョイスのとき助けてくれた、ムクロ?」
 ぽんと手を打った俺にクフフと独特の笑い方をしたムクロが「そのとおりです」と笑みを浮かべる。その後ろからがさっと茂みを揺らして出てきた蛙頭の子が「ししょー、あまり時間がないですー。道草食わずにさっさと行きましょうさっさと」「少し黙りなさいおチビ」二人の会話に苛々してるらしいキョーヤのために立ち上がってズボンを叩いた。「今回も助けてくれるの? ムクロ」と話しかけるとオッドアイの目が俺を見て不敵な笑みを浮かべる。
「僕以外の人間に世界を取られるのは面白くありませんからね。仕方がないので手を貸すまでです」
「はぁ…」
 仕方なく手を貸してくれるのか。それも二回も。
 じゃきんとトンファーを展開したキョーヤの腕を握って止めて、「キョーヤ」と呼びかける。ぎらぎらした目をしてるキョーヤはムクロを睨んでいた。キョーヤの視線なんてなんのその、涼しい顔をしてるムクロが「幻覚を使って敵を惑わします。あなた方は少し下がっていてくださいね」と言うから「あ、うん。ありがとう」一応お礼を言って、納得してない顔のキョーヤを抱き止めつつ、先を行くムクロと蛙頭の子を見送った。
「キョーヤ。行こう?」
 ムクロの背中を睨んで動かないキョーヤの手を引く。じろりとこっちを見た灰の瞳はまだぎらぎらしていた。どうやらキョーヤはムクロのことがあまり好きではないらしい。
「キョーヤ」
 手を伸ばして、長めの前髪を指先で揺らす。「今回は味方みたいだし、大丈夫だよ」笑いかけると、キョーヤは唇を噛んだあとにすっとトンファーを下ろした。
 俺の手を掴んでざくざく歩き出すキョーヤに続いて茂みをかき分けてムクロ達のあとを追うと、ヴァリアー勢を見つけた。瞬間ビビってしまった俺はやっぱりチキンなようだ。ここにいるってことはイコール俺達を助けに来てくれたんだろうけど、さ。
 晴の炎で照らされるハヤト達を発見して駆け寄る。「ハヤトっ」「てめ…おせーぞ。何してやがる」「ごめん、捜したんだけど見つからなくて」どうやら怪我をしてるらしいハヤトの声は弱い。ラルも怪我人だし、このスーツの人も怪我をしている。視線を上げると真6弔花と戦っているヴァリアー勢が見える。スクアーロの姿は見えない。ってことはディーノはまだなんだ。無事だといいけど。
 状況を確認するために彷徨わせた視線の先で、湖の方にロールを伴ったキョーヤが立っているのが見えた。はっとする。しまった、手を離してしまってた。真6弔花を前に喧嘩好きの血が騒いでるのか、キョーヤは笑っている。
(ああくそ俺の馬鹿、ムクロが下がってろって言ったのに、キョーヤを止めるのは俺の役目なのに!)
「き、」
 声を上げて止めようとして、ぱしと口を掌で塞がれた。「僕はここだ」と囁く声に振り返ると、キョーヤがいた。何度か瞬きしてからぺたとキョーヤの頬に触れる。
 なんだ。あっちは、幻覚か。焦った。
 ふうと息を吐いたキョーヤが手を離した。幻覚のキョーヤの左腕が恐竜みたいなものによって食い潰される。リアルだ。リング争奪戦のときとは比べ物にならないリアルさに背筋が寒くて腕をさすると、視界を掌が塞いだ。「あんなもの見なくていい」とぼやく声に小さく笑ってキョーヤの手に掌を被せた。
 うん、そうだな。見なくていい。気にしなくていい。気にしてしまうのなら、見ない方がいい。
 そのうち、キョーヤやヴァリアー全員がやられて倒れる、という展開になった。この幻覚を見せているらしいムクロをちらりと窺う。わざわざ倒される展開まで見せてるのは、敵のデータを引き出すためだろうか。デイジーはとかげだったけど、残っている三人は恐竜と合わさったような外見をしてる。最早人間以上というか、人間以外というか。
 握っていたキョーヤの手を離す。相手方もこっちがやられたのは幻覚だったと気付いたようだ。
 さて、そうなれば、ここからが本番ってことになる。
 じゃきんとトンファーを展開したキョーヤが俺の隣に並んだ。「あなたはあまり前に出ないでよ」「俺も戦うよ。総力戦なんだから」「…戦うなとは言わないから。サポートだけでいい。あなたが怪我でもしたら僕が、」「はーい気をつけます!」皆まで言わずともわかってたから大きな声で返事をしておいた。予想どおりというか、キョーヤはやっぱり俺を戦わせたくないらしい。
 リングに炎を灯して匣を開匣する。キョーヤが納得してない顔をしつつリングを匣に押しつけた。ツァールが飛び立ち、ロールが球針態になって高速で回転し始める。
 そこから先は、ヴァリアーと俺達ボンゴレ側VS真6弔花の、戦争が始まった。
 戦いの最中で確認したのは、ここにはツナがいないってこと。リボーンと怪我人と非戦闘員がいないところを見るに、恐らくユニと違う場所にいるんだと思う。ツナが最後の砦ってわけだ。
 動けないハヤト達に流れの攻撃がいかないように、ツァールの調和能力をフルで使う。守護者やヴァリアーなんかと比べたら俺の攻撃力なんて知れたものだから、こうして防御側に回った方がいいだろう。
 オレンジの炎を爆ぜさせるツァールの翼を見つめながら、意識半分でキョーヤのことを考える。少しでもキョーヤのためになれるように、と考える。
 飛んできたアンモナイトみたいな石にツァールの焔をぶつけて炎上、灰にすれば、ロールを足場に跳んだキョーヤが空いた空間へと突っ込んだ。トンファーを振り回して全力で叩きつけているキョーヤの口元は笑っている。やっぱり戦うの好きなんだな、キョーヤって。
 戦えない怪我人を除いても、数ではこっちが上回っているのに、状況はあまりいいとは言えない。みんな出し惜しみせずに戦ってる。でもいい勝負。ってことは、まだ加勢がいる。
 木の影から顔を出して、あまり前に出るなと言ったキョーヤの言葉を思い出した。
 キョーヤの足を引っぱる真似はしたくない。でももう少しくらい手助けしたい。せめてもう少し。だから一歩くらい前に出たって、いいよね。
 ざく、と地面を踏み締めて右の拳を意識する。リングを意識する。ツァールの焔が燃え上がった。大きく翼を広げたツァールにキョーヤのサポートを任せようと思ったとき、ジジ、と音がした。閃光のようなものが走ってとっさに伏せる。何かが来る。「ツァール」囁き声で飛び立とうとしていたツァールが戻ってきた。
 バチバチと何もない場所が帯電している。何か来る。でも、何が。
 顔を出そうとしたハヤトをむぎゅと押さえて引っ込ませる。「おいてめっ、」「何か来る。リョーヘイもバジルも隠れて」「お、おう!」「はいっ」近くにいるみんなに声をかけ、四人で木の幹の後ろに隠れたとき、ドンと大きな音がして、止んだ。さっきまであれだけ戦闘音が激しかった場所は静まり返っている。
 そろりと顔を出すと、戦地の真ん中に大きな人がいた。発光、してるように見える。大きさから言ってもあれは人間じゃない。気になるところがあるとすれば、ビャクランに瓜二つの顔をしてるってところか。
「んだあれは。白蘭か?」
「いや…目の下のアザが左右逆だ。違うと思う」
 遠目の相手をじっと観察する。急に現れて、何をするでもなくのんびり歩いている相手に先手必勝とばかりにベルがナイフを投擲した。嵐属性の分解の炎を纏ったナイフだ。当たればタダじゃすまないだろう。
 そして、歩いている相手にナイフは狙いどおり命中した。ただし、全てがすり抜けて地面に突き刺さった。目を細めて歩き続ける幽霊のような相手を見つめる。「通り抜けた?」「そんな感じだな…あれはなんだ? 幻覚なのか?」ハヤトが顔を顰める。俺はわからないと肩を竦めた。攻撃が効かないってことはその可能性が高いけど、どうだろう。俺は幻術使いではないし。ムクロならわかるのかな。
 のんびり歩いている相手に対し、レヴィは遠慮なく匣兵器の雷を浴びせた。幽霊のように半透明な相手には効かず、地面が抉れるばかりだ。
 ナイフでの実体攻撃でも駄目、炎攻撃でも駄目で、すり抜ける。当たらない。ってことはあれはやっぱり幻覚の類なのか?
 もしそうだったと仮定して、もう一つ気になる点がある。マーレリングをつけてる辺りあれはビャクラン側の戦力なんだろうけど、同じくビャクラン側の真6弔花が動揺している、というところだ。攻撃の手もすっかり止まって幽霊のことを見てるし、気になる。彼らにとってあれは味方じゃないのだろうか。
 そこで、今までただ歩いているだけだった相手から急に何かが飛び出した。細い光線のようなものだ。反射でハヤトを掴んで押し倒して光線の一撃を回避する。「でっ」「ごめん」怪我人を下にしてしまったのはちょっと間違いだった。ハヤトは痛そうな顔をしてる。ごめんハヤト、あとでちゃんと謝る。
 ごろりと転がって肘をついて起き上がろうとしたとき、真6弔花の一人の女の子が光に触れたのが見えた。正しくは光線が当たったっていうのかな。それで、その子はあっという間にミイラみたいになって朽ちた。その光景にぞわりと背筋が泡立つ。
 なんだ、あれ。
 レヴィのエイが光の光線に貫かれて砕ける。ザンザスが銃から炎を発射して元凶の相手にぶつけたけれど、効いていない。
 なんだこれ、どういうことだ。とりあえず落ち着け俺、と騒いだ胸に手を当てて一つ呼吸したとき、ぼうっとリングに勝手に燃え上がって、炎が漏れ出した。あの幽霊みたいなのに吸収されるようになびいている。
(そうか、そういうことか。あれは死ぬ気の炎を吸収してるのか。あの修羅開匣っていうので全身を匣兵器にしてる真6弔花は、死ぬ気の炎を奪われてあんなミイラみたいになってしまったってわけか。ザンザスの銃撃が効かないのも炎だからか)
 たとえ実体攻撃でもすり抜けるだけなのはもうわかってる。それならあいつはどう倒せばいい?
 ツァールを匣に戻して、少し躊躇ってからリングを外した。炎がだだ漏れ状態よりはマシなはず。
 周囲から無差別に炎を吸収しながら、幽霊みたいな相手はどこかへ歩いている。手をついて起き上がったハヤトが「やべぇ、あのヤローはまっすぐユニの元へ向かってやがる! くい止めねぇと!」身体が痛むんだろう、ふらついたハヤトを受け止めて視線を投げる。そうか、あの幽霊はユニのところへ向かおうとしてるのか。それなら止めないと。でもどうやって。
 ぎゅん、と音を立てて迫った光の一閃が動けないハヤトに迫った。反射でハヤトを抱き込んで庇ってしまってから、当たったらこれ痛いのかな、キョーヤ怒るかな、なんて思う。
 ハヤトを庇った俺をさらに庇ったのは、スクアーロを探しに基地に戻ったというタケシだった。よかった、無事だったんだ。
「タケシっ」
「わりぃ、遅くなったな」
 俺達を庇って刀の刀身で光の線をやり過ごしたタケシが膝をつく。やっぱり炎が吸われたようだ。それに、あれは相当疲労するらしい。
 向こうの方からスクアーロに肩を貸してやってくるディーノが見えた。スクアーロは負傷してるようだったけど生きていた。そのことにほっと息を吐く。
「ディーノ、スクアーロも、無事だったね」
「おう、お前も大事なさそうだな」
「うん。ただ…」
 ちらりと幽霊の方に視線を投げる。リングを外したのに炎を持ってかれてる気がする。
 そういえば、キョーヤは。キョーヤは大丈夫だろうか。光線の走る景色の中視線を彷徨わせる。どこかにいるはずだけど、どこにいるかわからない。
 キョーヤ、と声なしに呟いたとき、幽霊がまた帯電し始めた。最初に現れたときと同じような感じに。何かする気だ。
 あいつはいきなりここへ現れた。まるで瞬間移動でもしたかのように。となれば、奪った炎をエネルギーにしてまた移動する可能性がある。一気にユニのもとへ行く可能性もある。
「まずい…どうしよう」
 気持ちは焦っているけれど、声に力が入らない。炎が持っていかれたせいでかなり疲労感があった。力の入らない膝に手をついてどうにか立ち上がる。いくら頭を巡らせても幽霊を止める方法は見つからない。実体攻撃も炎攻撃も効かない相手に、どうすれば。
 肩で息をして、外したリングをぎゅっと掌の中で握り込んだとき。ちかっと目に眩しいオレンジ色が見えて視線を上げた。
 空にオレンジの炎が見える。あれは、ツナだ。ツナが来た。
 ツナなら。どうにかしてくれる。ザンザスのときもそうだった。未来に来てからもツナはどんどん強くなってる。ツナが来たなら、大丈夫。なんたって次期ボンゴレボスなんだから。
 ああ、こんなふうに言ったら、ツナは嫌がるかもしれないんだけどさ。