忘れられない夜になる

 駅前の大きなホテルでも普通の部屋はもういっぱい状態で、仕方なく、ワンランク料金が上の部屋を選んだ。キョーヤがそれでいいって言うから。
 お値段的に初日から予想費用をオーバーしてるわけだけど。もういい時間だし、今から他のホテルまで回って部屋を取るのもしんどいってことで、俺もオーケーしてフロントで受付をすませた。
 三十五階、置いてある家具が豪華で窓も大きくベッドも広め、という部屋に入って、とりあえず荷物を置いた。
 なんだかんだと買ってて初日から結構な荷物になってしまった。計画性がないな俺。ちょっと反省。
「お風呂入りたい」
「はい、はいはい。ちょっと待って」
 ぼすっとソファに座り込んで疲れた顔をしてるキョーヤに急かされてバスルームに入る。バスタブは大人二人が余裕で入れそうな広さだった。バスタブとは別にシャワールームまであるし、なるほど、ワンランク上なわけだ。
 きゅ、とコックを捻って熱湯と水を混ぜて適温より少し高めにして部屋に戻る。疲れたと目を閉じているキョーヤのところへ行って、お風呂入ったらこのまま寝ちゃうんじゃないかな、とそっと手を伸ばして黒い髪を撫でた。
 ホテルの照明までやわらかい色をしてるせいで、キョーヤがいつもよりやわらかい生き物に見える。あれ、俺の日本語これで合ってる?
 ぱち、と目を開けたキョーヤが俺を見上げた。「」「ん」「買ってきて」ん? と首を傾げて主語のない文の意味を考え、キョーヤの伏し目がちの顔を眺めて、あ、と思い当たる。途端に俺の視線も迷うわけです。「えっと、疲れてるでしょ? 今日はもうお風呂入ったら寝ようよ」「嫌だ」…きっぱり断られた。あーと意味もなく天井を見上げる俺。
 だからキョーヤさん、なんでそんなにエロいんですか。
 いや、エロいのが悪いとは言わないよ。俺だってエロいことするの好きだよ、男の子だもん。でもですね頻度ってものが。お前の身体がいくらやわらかくても腰とか痛くなるもんでしょうが。
 と、胸のうちで言い訳してる間にキョーヤの手が伸びてダイレクトに俺の股間を撫でるからばっと距離を取った。キョーヤが恨めしそうに俺を睨めつけている。
「嫌なの?」
「…嫌じゃないけど。キョーヤの身体が心配だよ。痛くない? 二日前だってシたよ」
「……今日シてくれたら、こっちにいる間は我慢する」
 ぶすっとした顔でぼそぼそこぼしたキョーヤにじっと視線を注がれると、俺は、折れるしかないわけで。
 別にするのが嫌ではなくて。今日機嫌が下降してばっかりのキョーヤを気分よくさせるならするのが一番いいとかさ、わかってるんだけど。どうせならイタリアの夜景見ながらイかせたいとか思うことがないわけでもないんだけども。
(あーもう優柔不断だなぁ俺も。キョーヤがシたいって言うんだからシよう。それでよし)
「じゃあ、買ってくる。キョーヤお風呂止めて入ってね」
 デニムのポケットに財布を突っ込んでチェーンで繋ぐ。ここは日本ほど平和じゃないからこうでもしないとスられたりするので。
 まだじっとこっちを見てるキョーヤがいたから、そばに立って額にキスをした。「すぐ戻る」「…ん」きゅっと手を握られるとなんだか離れがたい。服装のせいか、やわらかい色の照明のせいか、今日のキョーヤは女の子っぽい。
 駄目だ俺しっかりしろ、と自分を奮い立たせて、キョーヤの手を握って離す。唇にキスするとそのまま深みにはまりそうだったので、あえて額に口付けただけでそばを離れた。ホテルのカードキーをジャケットのポケットに入れて部屋を出て、ガチャン、と重い音を立てて施錠された扉にはーと脱力して背中を預ける。
 ぼやっとしてる時間はない。ゆっくりしてたら店が閉まるかも。
 えっとこの辺りでそーいうものを扱ってるお店、お店はっと。
 エレベータでロビーまで降りてホテルを出る。カードキーと財布があることをしっかり確認して、護身用に持ってきた銃がジャケットの内ポケットに入ってることを意識した。別に物騒なことに巻き込まれる予定はないんだけど、そういうのは望まずして巻き込まれるものなので、一応ね。
 さて、と改めて顔を上げてネオンが眩しく賑わっている駅前に移動。この辺りならそういう店もあるだろ、と目星をつけた通りをうろつくと、いかにもいかがわしい感じのお店を発見した。よかったあった。
 あんまり出入りしたことないので、コソコソ不自然にならないようにを意識する。
 じゃあ今までどこで買ってたんだって、主にドラッグストアです。薬局です。そっちで買った方が健全でしょ。してることが健全でないとしても。変なものとかも置いてないしさ。
 さっさと買って帰ろうと入店しようとして、ディスプレイに思いっきりプレイ用の危うい感じのコスプレ衣装が置いてあって、ガーターベルト付きランジェリーセットとかあって、これをキョーヤが着たら、とか想像しそうになってぶんぶん首を振った。いかんいかん、いらんこと考えてないでいるものだけ買って帰ろう。
 …こういうとこにキョーヤ連れてきたらどんな顔するんだろ、と想像しかけてやめた。だから、今は、目的果たしてホテルに戻ることだけ考えよう。うん。
 大人の玩具とか男女のセックスのエチケット用品がずらっと並んでる中で、目的のものが置いてある棚を見つけた。新作マークのあるやつがでかでか『いちご味』とかなってたからちょっとビビる。
 香りならまだしも、味つきとか。どういうこと。口に入ること前提なの? そりゃあそーいう大人のお店だから用途がわからないわけじゃないんだけど、味って。
 ぐるぐるする頭で、どうしよう、と無駄に悩む。味つきの衝撃に手がそっちに伸びかける。無味無臭の透明ないつものにすればいいのに、それかすずらんとか石鹸とか清潔そうなやつにすればいいのに、いちご味とか、ちょっと舐めてみたい。かも。
「あー、イケナイんだ」
「っ、」
 その声に反射で手を引っ込めた。
 いや別にスろうとかしてないよ? でもですね、自慢じゃないけど大人のお店に入ったことは数回なんです。それまで考えてたことがことだけあって、ドキッとしてしまったわけです。
 ぎこちなく振り返った俺は、そこに立っている人物を認めて、呆けてしまった。
 …ビャクランだ。ビャクランがいる。未来での戦いで解り合う時間もないまま消えてしまった人がいる。
「ビャクラン…?」
「そーだよ
 にこっと笑みを浮かべたビャクランが俺の手を引っぱった。「ねぇねぇソレ買うの?」「えっ」ソレ、で示されたのはいちご味のローションである。「いや、えっと」としどろもどろになる俺にビャクランはにこーとした笑みを浮かべて「じゃあさ、買ってあげるから僕に使ってシてよ」とか言ってくるからぶっと吹き出す。
 ちょっと待てい、何を言ってるんだお前は。突然現れて言うことも突然すぎるだろ。
「いや、えっと、それは無理っていうか駄目っていうか。キョーヤに殺される」
「…なぁんだ」
 途端にちぇっと拗ねた顔をしたビャクランが俺の手を離した。「さっさと買ってきたら? お店の人変な顔してるよ」と言われて、訝しげに眉を顰めてるいかつい顔のおじさんにはははと空笑いを向ける。
 がし、と掴んだのはいちご味のソレである。
 もういいよこれで。ちょっと気になるしさ。っていうかそれよりも気になることができちゃったし、とっとと買って、ちょっとビャクランと話をしよう。
 ビャクランは質素というか簡素というか、そういう格好の上下白っぽいスウェットを着ていた。さすがに夜の街では寒い格好だったので、アダルト店を出た向かい側のV系の服がぎっしりの店で、ピンセットがたくさんついてて背中には大きく髑髏が描かれているパーカーを買って着せてあげた。「風邪引くってば」とチャックを閉めてフードを被せる俺に、ビャクランはきょとんとした顔をしている。
「…僕、お金ないんだけど」
「いいよ。あげるよそれくらい」
 白を選んだのは、やっぱり白い色が似合うと思ったからだ。黒はほらキョーヤっぽいし。
 きょとんとした顔から一転してふふっと笑みを浮かべたビャクランがパーカーのポケットに手を突っ込んでその場で一回転した。「ねぇ似合う?」と笑うその顔が未来で見てきたどのビャクランとも違っていて、素直に、いい笑顔だなと思った。「うん、似合う」と言うとビャクランは嬉しそうに一つ跳ねた。
 …なんか子供みたいになってるな、と首を捻ってから、未来で見たビャクランより十歳若いからだと理解した。
 それは、まぁいいとして。
 そろりと視線を流して路地の左右を見やる。そこには覚えのある感じの空気を纏ったスーツ姿の男が二人ずつ、計四人が通路の脇に立っている。それだけでビャクランの状況がだいたいわかったけど、一応確認しておく。俺はリボーンからその話を聞いてないから。
「お前、今どうなってるの」
「ん? んー、そうだな。ボンゴレに監視・管理されてる。二十四時間」
 なんでもないことのようにそう言って、ビャクランが俺の腕に絡みついてきた。「でも別にいいんだよ。都合のいいように飼い殺しにされてるんだとしてもね」とこぼして俺を見上げると、にこっと笑顔を浮かべる。嫌味でもなんでもない、未来では見ることのなかった笑みで、なんか、ちょっと、気が惹かれる。
 お前もそういうふうに笑えるんじゃないか。だったらそっちの方が全然いい。何か企んでるような悪い笑顔じゃなくて、背筋が寒くなるあの笑顔でもなくて、そっちの方が全然いい。
「あのね、今日はね、特別なんだ。君がこっちに来てるって聞いたから、一日前から絶食して無理を言ったんだ。会わせてくれないならずっと食べないって。で、三十分だけ時間をもらえた」
 俺の腕に絡みついて嬉しそうにそんなことを言うビャクランに、不覚にもぐっときた。
 俺に会うために絶食とか。たったの三十分だけの時間なのに、そんな嬉しそうにされたら、こっちが申し訳なくなる。
 わかってるよ。ビャクランが未来でしたことはなくならない。九代目とかにも伝わってるって話をリボーンから聞いた。だから、この措置を取った。わかってるんだよそんなことは。
 シモン戦で、タケシを治したのがビャクランだって話を聞いてから、俺がリボーンに確認を取らなかったのは。未来で消えたお前がここでも消えているような気がして少し怖かったからだ。
 正直な話、ビャクランほどまっすぐ躊躇なく俺を求めた人とか今までいなくて。ほら、キョーヤもアラウディも最初は曲がってたし、二人ともツンデレだしさ。いい意味も悪い意味も含めて最初から全力だったのはビャクランだけなんだよ。だから俺の予想以上に無意識下で気にしていたみたいで、さ。
「…ごめんな」
 ぽつりとこぼして謝って、ビャクランの白い髪を撫でた。あはっと弾けて笑ったビャクランは「何が?」と明るく笑うだけだ。
 ボンゴレの一員として、ボンゴレが取った措置には逆らえないし、仕方がないと思う面もある。だけど俺はこういうの好きじゃないから、申し訳ない気持ちを抱いてしまう。
 本当に気にしてないのか、仕方がないと諦めているのか。俺の腕を引っぱったビャクランが「ねぇ、あれ食べたい」ぴっと指さした方を見れば、どこにでもある夜の屋台がある。素直に財布を引っぱり出した。俺にできることがあるならしてやりたい、と思った。
「何食べる?」
「じゃあねぇホットサンド! あったかいのがいい。カロリーあるやつね」
「甘いのでなくていい?」
 さらりと口にしてからあれっと気付く。なんで甘いのって言葉が出てきたのか自分でよくわからなかったのだ。
 俺の言葉に呆けた顔をしたビャクランがくしゃっと顔を歪ませて、泣くものか、とばかりに笑う。「あったかいのでいい」「…ん」素直にベーコンと野菜とチーズのホットサンドとドリンクを二つ注文してビャクランにあげた。子供みたいに頬を上気させてホットサンドにかぶりつくビャクランを眺めつつ、ホットのカフェラテをすする。紅茶はなかったから仕方がない。
 適当にカフェラテをすすっていると、ビャクランがホットサンドを食べ終えた。その間特に会話はしなかった。ぴったり俺に寄り添ったビャクランはそれだけで満足そうだったから、余計なことを言うのもな、と憚られたのだ。
「あの、さ」
「うん?」
 それでも一つだけ気になって、確認しておいた。
「お前、今でも俺のこと好きなの?」
「うん」
 実にさらっと肯定された。さっきの抱いてくれ発言といい、予想はしてたけど、まっすぐだなぁ。
 視界にかかった前髪をくしゃっとかき上げる。「わかってると思うけど、俺は」「知ってるよ。それでも君が好きだ」「…えっと」「二番目とか愛人とか後釜とかでもいいんだ。僕のこと、考えておいてよ」さらっとそんなことを言われてさすがに戸惑う。いや、後釜ってお前。何その前提。二番目とか愛人って表現ならわかるけど、後釜って。
 ちょっと拗ねた顔をしてみせたビャクランが「そりゃあほんとは一番がいいよ。でも、無理なんでしょう?」とぼやいてじっと俺を見つめた。う、と視線が泳ぐ。
 俺にはキョーヤがいるし。アラウディだっているんだ。これ以上抱え込める器用な人間ではない、と思うし。そもそもそれって浮気だし。
 こほん、と一つ咳払いして、ビャクランの頭をぐりぐり撫でた。こういうのはずるいだろうと思ったけど、これだけは言っておく必要もあると思った。
「俺は、お前のこと嫌いじゃないよ」
「でも、好きでもない?」
「…………」
 肯定も否定もできないでいると、あはっと明るく笑ったビャクランがカフェラテを飲み干して俺に空のカップを預けた。タイミングを見計らったように左右の通路からスーツ姿の男四人が距離を詰めてくる。
 後ろ手を組んでくるっとこっちを振り返ったビャクランはあくまでにこっとした笑顔を浮かべていた。
「そういう優しいトコ、大好きだよ。ねぇ、最後にキスして?」
 かわいく小首を傾げるビャクランに、左右から歩み寄ってくるスーツ姿の男四人。逡巡してる時間はなかった。あとで思いきりキョーヤを甘やかそうと決めて、ビャクランの手を掴んで引っぱり寄せてキスをした。最後だなんて悲しいことを言うビャクランをぎゅっと抱き締めた。
 ああ、なんか、哀しいな。
「…悪いオトコ」
 くすくすと耳元で笑う声に、「そうだよ」と返したところでスーツの男の一人に手を掴まれた。強い力でビャクランと引き離される。恐らく約束の三十分になったのだ。ビャクランは抵抗もせずスーツの男達に囲まれて路地を歩いていく。
 そうだよ。俺は悪い男なんだ。町から町へと渡り歩いて夜の営業をして、アラウディにとっ捕まってたくらい悪い男なんだよ。そんなこと今更だ。俺は自分の芯を思い出した。
 だから、めげない。
「ビャクラン!」
 声を張り上げると、ビャクランが俺を振り返った。「絶対また会おう!」と叫んだ俺に、ビャクランは表情を歪ませて笑った。泣きそうなのを堪えて無理して笑った、そういう笑い方だった。
 スーツの男達とビャクランが大通りの人混みの中へと消えて、俺は紙袋片手に路地の壁に背中を預けて、一分だけその場で目を閉じていた。
 …帰ろうか。キョーヤが待ちくたびれてるから走って帰ろう。何も考えないでいたいから、走って帰ろう。
 財布と部屋のカードキーがあることを確認して、紙袋片手に夜のネオン街を疾走する。
 走って帰ったために息を乱している俺に、キョーヤは機嫌が悪そうな顔を訝しげに顰めた。「遅い」と毒づかれて「ごめんなさい」と素直に謝る。「お店探しながらだったから。なかなか見つからなくて」っていうのは嘘で言い訳だ。ごめんねキョーヤ、ビャクランに会ってたなんて言ったらお前の機嫌がものすごく悪くなるだろうから、言わないね。
 ぶすっとした顔をしてるキョーヤはバスローブ姿でベッドに腰かけたまま、ぷいっと顔を背ける。キョーヤの機嫌を窺うしかない俺は、そっとそばに歩み寄って、淡い照明に照らし出されているやわらかく見える手を取った。感触はいつもと変わらない。今日だけで振り払い続けたからだろう、もう拒否されることもなかった。「おいで」と耳元で囁いて手を引くと、キョーヤは素直に立ち上がって俺の腕の中に収まる。
 めいっぱい甘やかしてあげよう。明日に響かない程度に。
 細さのわかる腰に手を回して、大きな窓の前に行く。俺達が反射して映るその向こうにイタリアの夜景が広がっている。
「…っ、
 するりとバスローブの中に手を滑り込ませた俺に、キョーヤが緩く頭を振る。「ねぇ、ベッド」「どうして? せっかくいい景色なんだから、今日くらいはココでシよう?」首筋から鎖骨をなぞって胸の突起を指でつまむと、わかりやすく身体が震えた。そばの椅子に紙袋を放って、両手でキョーヤの身体を刺激する。片方は胸を、片方は腰周りを、ゆっくりと、焦らしていく。「ん」とこぼして吐息するキョーヤの髪はいつもより艷やかで、刺激に震える唇も艶かしい。
「だ、誰か、見てたら、やだ」
「何それ。ここ三十五階だよ? 向かい側にビルもない。ないよ、そんなこと」
 細い腰をつつつと指でなぞって、穿いてないのか、と小さく笑う。どうせ脱がしちゃうからいいんだけどね。本当ヤる気満々だなぁキョーヤ。
 ふ、と息をこぼすキョーヤのものを緩く扱って、刺激を誤魔化したいとキスを求めるキョーヤに応えて唇を奪う。バスローブの間から太腿が覗くと余計に煽られた。照明効果って大きいんだな。憶えておこう。
「ん…ッ、ン、」
 くちゅ、と水音を響かせながら舌と舌を絡め合ってキスをして、キスしてるとキョーヤは俺ばっかり見てしまうことに気付いて顔を離す。乳首をきゅうとつねると「ぁッ」と声を上げたキョーヤが悔しそうに口に拳を押し当てた。突起を弄んでた手を離してキョーヤの顔をイタリアの夜景へと向けさせる。
「ほら、ちゃんと外見て。この景色を見ながらシたんだってこと、憶えておいて」
 キョーヤが何か言う前に、すっかり固くなってる先っぽを指の腹でこすった。びくんと大きくキョーヤの身体が震えて、必死に口に拳を押し当てているキョーヤがばんとガラスに手をつく。快感に涙を滲ませながら、ガラスに映る俺と、その向こうの夜景を視界に入れる。それを確かめてからキョーヤの首筋にキスをしてさらにキョーヤを追い込んだ。何度も指の腹で刺激を加え、掌で扱き、イかないイケないギリギリのところで焦らしてやると、「も、や、イきた…っ」とガラス越しに涙目で訴えてくるから、お望みどおりイかせた。
 びくんと跳ねた身体と、散った白濁が窓ガラスを汚す。
 は、は、と息をこぼして窓に額を押しつけたキョーヤの身体が淡い輪郭を帯びて浮かび上がってみえる。
 きれいだな、キョーヤは。本当に。
「キョーヤ。愛してるよ」
 心から告げて、バスローブの腰紐を解く。ぱらりとはだけたバスローブの向こうには何度も愛している身体があって、俺のことを誘っていた。
 ふ、と息をこぼしたキョーヤが「僕だって、愛してるよ」と素直に笑う。嬉しくて笑う。その笑顔がまた嬉しくて、愛しくなる。ずっとそうやって笑っていてくれればいいのに、と心から思う。
 ばさりとバスローブを落としたキョーヤがキスをねだったので、唇を重ねながら、買ってきたいちご味のローションの蓋を開けた。ふわりと甘いにおいが香る。いちご味らしくいちごっぽいにおいだな、と思いながらとろりとしたそれを指ですくってはキョーヤの中に沈めて緩くさせていく。
「これね、いちご味なんだってさ」
「ん…ッ、な、にが?」
「これ。今使ってるの」
 は、と吐息をこぼして笑ったキョーヤが「どおりで、甘い、におい…ッ」指を一本から二本に増やしてぐるりと中で動かす。噛み切る勢いで唇を噛んでるキョーヤがかわいい。そのうち我慢するのなんて忘れちゃうくらいの快楽で追い込んであげるよ。
「そんなの、味ついてても、仕方ないじゃない。混ざっちゃうだけだ」
「まぁね」
 キョーヤが笑うから、俺も笑う。
 まぁそうなんだけどね。抜いたあとお前が舐めてきれいにしてくれるし、変な味になるかもね。まぁ物は試しってことで、今回はこれでゴーです。