ホテルのディナーというものを初めて食べて、お腹がいっぱいになった。量よりも質と見た目重視の内容だった気がしたけど、僕の胃が縮んだせいかもしれない。
 腹ごなしに歩こうと言ったと手を繋いでネオンがキラキラ光る駅前を歩いた。
 まだ十九時過ぎだからどこのお店も開いている。足早にお店に入っていくサラリーマンふうの人、一人でショーウィンドウを睨んでいる人、一緒に品物を見てるカップルその他、たくさんの人がごった返している中の一員になる。
 と手を繋いでいたくてミトンの手袋はしていない。コートのポケットからちょっと飛び出た不恰好な形で押し込んだままだ。
「あっち見たい」
 クリスマス雑貨を扱っているお店を指差す。「はいはい」と猫背気味に背中を丸めて歩く彼が僕の手を引く。投げやりな言葉とは裏腹にしっかりと握られている手に頬が緩んで仕方がない。
 彼と女は破局させてやった。二人で食べるはずだったディナーは僕のお腹の中だ。吐き気なんてしない。むしろ気分はいい。これで彼に女はいなくなったのだ。やきもきしなくてすむのだ。

 ずっと追いかけてきた。だから、彼の目を見れば分かる。好きだと告白した僕に何を思っているかくらい。
 僕はちゃんと好きだと伝えたんだ。今度はが、僕を好きだと言う番だ。

「ねぇ、あれが欲しい」
「ええ? あれぇ? そりゃカバーいるなぁって思ってたけど…なぁもうちょっと普通のにしない? トナカイじゃあ十二月くらいしか使えないよ」
 携帯のカバーを指したらやっぱりなことを言われた。そう言うだろうと思ってた僕は気分がよくなる。
「じゃあ今度がいいの買ってきてね」
「えっ? あー、うん。もうちょっとフツーなもの選んでくるわ」
 参ったなと金髪をかき回す彼に笑いかけて「ねぇじゃああれは?」とマネキンが着ているワンピースを指差す。サンタを乗せたソリを引っぱるトナカイが夜の月をバックに空を駆ける、ポップな感じのデザインで、あたたかい起毛生地仕様だ。苦い顔をした彼がワンピースをちょっと撫でて「これもなぁ…十二月しか着れないから却下」とダメ出し。
 ちぇ、と舌を出してが買ってくれそうなものを探してジングルベルの曲が流れる賑やかな店内に視線を巡らせる。
 ああ、楽しい。
 ずっとずっとこんなふうにしてみたかった。恋人みたいにしてほしかったし、してみたいと思ってた。
 何かないかな。今日っていう日を閉じ込めておける、輝かせておけるもの。クリスマスにと過ごしたってことが分かるもの。
「なぁ恭弥、あれは? 似合いそう」
 今度は彼が僕の手を引く、その細長い指を意識する。
 トナカイのシルエットをした小さなペンダントのついたネックレス。シルバーを選んだ彼が僕の首からマフラーを取り払う。「ほら」とネックレスをつけられて、そろりと鏡を覗き込んだ。控えめすぎるくらいだけど、あまり派手なものは普段から使えないし、このくらいの方が妥当かもしれない。「かわいいよ」と言った彼が僕の首筋にキスをするから背筋が震えた。その舌に僕の全部を撫でてほしいという欲望が身体をざわつかせる。
「じゃあ、買って」
「うん」
 吐息が肌にかかって、唇の動きが分かって、拳を握った。下半身が疼きそうだ。あんまり、いじわるしないでほしい。
 会計をすませた彼が僕の手を引いて店を出た。まだ見てない場所があったのにだ。「?」歩き続ける彼に声をかける。彼は前を向いたまま、駅前付近にありながらもあえて照明が落としてある大人のエリアの方へと入っていく。
 この先に何があるのか、僕だって分かっている。そして、それを望んでいた。
 買ってもらったばかりのネックレスが首に冷たい。ケープコートの裾が歩く度に揺れて、マフラーのボンボンが跳ねる。彼のコンパスに追いつこうと僕は自然と早足になる。
 ああ、この格好、足がスースーして本当に寒い。せめてヒートテック仕様のタイツとか選ぶべきだった。寒くて凍えそう。ニットワンピの下だって背中を見せるためにチューブトップしか着てこなかったから寒い。風が吹くと本当に凍える。
 くしっ、とくしゃみをこぼした僕を見てが笑う。それだけで好きだと身体が爆ぜるようだ。寒くて凍えている身体が彼の笑顔に熱を帯びて、少しだけ熱くなる。
 HOTEL、という字が控えめに掲げられている地味な建物に入る。最近のラブホテルっていうのは外観が地味なものが増えているらしい。秘め事をするのに派手である必要もないってことだろう。場所さえあればそれでいいって人は確かにいそうだし。
 でも、との手を思いきり引っぱって足を止める。
 こんなこと自分から言い出すなんて恥ずかしいけど、初めてなんだから、もっときれいな場所がいい。
「もっと、きれいなところがいい」
「え? あー…分かった」
 無人の受付からくるりと反転した彼が僕の手を引いて建物を出た。追いついて、隣に並んで横顔を見上げる。いつものくたびれた金髪に耳に光るピアス。ぽこぽこブーツを鳴らしながら彼に続いて歩いて、吹き抜けた風にコートを押さえた。寒い。
 足早に暗い界隈を抜け、駅前から少し距離を開けたところにひっそりと派手に佇む南国の建物をイメージしてるんだろうHOTELに入った。ここもやっぱり無人だ。
 受付の仕方がよく分からない僕に比べて彼はぱっぱと置いてある機械の画面にタッチする。「恭弥どれがいい?」と言われて背伸びして画面を覗き込んだ。一番高そうな天蓋つきのベッドの部屋を指す。彼が細長い指でピ、とタッチして部屋を選んで支払いをすませるとカードキー型の鍵が出てきた。部屋番号が書いてある。この部屋に行け、ということらしい。
 手を引かれ、ブーツをぽこぽこ鳴らしながら、外見の派手さのわりには中は案外と普通のホテルのようだ、ときょろきょろしながら歩いていると、途中にある自販機を見て彼が足を止めた。…大人の道具がたくさん並んでいる卑猥な自販機だ。
 手を離した彼が財布を引っぱり出してお札を入れた。顔が熱くなってきたのでぷいとそっぽを向いてラブホテルの内部を観察する。
 見れば見るほど普通のホテルみたいだ。普通のホテルにこんな自販機はないと思うけど。
 ガコン、ガコン、と何度か自販機から音がして、何かしら購入したらしいが紙袋を抱えて「恭弥」と呼ぶから慌ててついていく。いくら普通のホテルに見えるとはいえ、あくまでラブホテルなのだ。こんなところに一人でいる勇気はない。
 エレベーターに乗って五階で下りて、一番奥の部屋の前に着いた。ポケットからカードキーを取り出した彼が扉の横の機械に通せば、カチ、と鍵の外れる音がした。
 どきどきと心臓がうるさいくらいに鼓動している。
 僕は、抱かれたいからいい。痛くたって我慢するつもりでいる。でもは男である僕を抱けるのだろうか? あんなに女ばかり抱いていた人が。
 今の僕は見た目だけは女になれてるかもしれないけど、どれだけかわいく見せたとしても、男でしかない。男以外にはなれない。胸はないし彼と同じものがついてるし、セックスだって、女を抱いたくらいで抱かれたことは。
 思い出しそうになって堪え、南国風の部屋の風景の中に飛び込む。鳩尾が気持ち悪くなる前に、目の前のことで頭の中をいっぱいにする。
 まるでグアムにでも来たみたいだな、と両手を広げてくるりとその場で一回転。
 白いカーテンのついた大きなベッド、オレンジの淡い光源、南国に生えてそうな緑の植物の植木鉢に、濃い色の木目の床、床と同じ色の木を使った鏡の机や椅子があって、どこか遠くへ旅行に来たような気分になる。
 空調設備のスイッチを押したがジャケットを脱いでハンガーにかけた。「恭弥」と呼ばれてもたつきながらコートを脱いで渡す。そんな僕を上から下まで眺めた彼に、ニットワンピ一枚同然の自分の格好が今更恥ずかしくなってきた。
「寒くなかった?」
「今も寒い」
「だよなぁ」
 笑った彼が僕の前に立った。まだ162しかない僕から見ると彼の目線はどうしたって上になる。
 じっとこっちを見つめる彼の瞳から逃げない。僕に、堕ちてしまえ、と願いながら見つめ返す。
 耐え難いような静寂も、稼働し始めたエアコンの音で埋まっていく。生暖かい風が足を撫でて、髪を揺らす。
 渇いている、と思う喉でごくんと唾を飲み込んで、口を開く。
「僕を、愛して?」
 手を伸ばしてに抱きつく。さらりと上品な生地のシャツに顔を埋めて僕より大きな背中に腕を回してひっついた。彼の細長い指が、僕の背中から太腿までをゆっくりと撫でていく。
「うん。愛そうか」
 ぽつりとこぼれた声に顔を上げる。「本当?」「うん。まぁ、やってみないと分からない部分が多すぎるけど…」前髪をかき上げた彼が僕の額に唇を寄せた。
 僕を抱くと言った彼にほっとして、嬉しくなって、ぎゅーと抱きついて離れないでいると、よっこいせと抱き上げられてびっくりした。お世辞にも軽いとはいえない体重があるのに。「あー重い」と笑いながらベッドまで行った彼が僕を抱えたままどさっと倒れ込む。
「恭弥」
 頬にキスされて、「唇がいい」と訴えて金髪の頭に腕を回す。
 ベッドに上がった彼が覆い被さるように僕にキスをする。細長い指が、ニットワンピの中に入ってきて、チューブトップをずり上げた。頬に熱が集まる。それでもキスをする。舌を出して彼を求める。平らな胸を撫でた掌が乳首を押し潰すようにして刺激してくるのがむず痒い。執拗に、何度もこねるように擦りつけられて、固く尖った頃にあの指が触れてきた。つまんだりつねったり、指の間で挟んで弄んだり、爪を立ててきたり、僕はすっかりその指に翻弄されている。
 やってみないと分からないと言った
 彼は僕を最後まで抱けるだろうか。
 …いや。分からないと言ったのだから、そんな彼を引きずり込むつもりでいなくては。僕を抱かせたいって思わせてやるんだ。声の限り喘いで鳴いてやる。ここはそういう場所なんだ、恥ずかしいなんて思うものか。
 その細い指が僕に触れて全てを蹂躙すればいい。
 彼の熱く昂ったものが、僕を貫いて、よがらせて、喘がせて、鳴かせてくれることを、ずっと夢見てきたのだ。もう誰にも譲ったりしない。男なのに抱いてほしいと思っている自分を拒絶されるのではないかと恐れたりしない。
 目を見れば分かる。彼も僕に欲情している。
 ほんの少しの躊躇いが、迷いがあるというのなら。僕がそれを断ち切るまでだ。
「お祝い、あげるって言ったでしょ」
「あー、三番取ったあれね」
「うん。僕、が欲しい」
 肌を撫でる掌を感じながらそう懇願すると、彼は参ったなという顔で笑った。
✙  ✙  ✙  ✙  ✙
 恭弥とレストランでディナーを食べて、駅前で少し買い物をした。まるで小さい頃に戻ったようにはしゃぐ恭弥の女の子の姿が素直にかわいいと思った。
 あれ、なんか俺余裕なくない? と気付いてラブホに連れ込んだはいいものの、やっぱり余裕ないな俺、と改めて思う。
 そりゃあ男の子だからね。妄想の産物でしかなかった女の子の恭弥を見たら、余裕もなくなるってもんです。
 ネクタイを外して放り、ワイシャツもヒートテックも脱いでソファの背もたれに引っかける。カチャ、とベルトに手をかけた俺を蕩けた表情で見つめている恭弥がいる。指と舌で愛撫しただけなのにすっかり頬が薔薇色だ。
「そんなに俺の見たい?」
 じっとデニムの股間辺りに視線を注いでるから思わず苦笑いでいじわるなことを訊いた。全部脱ごうかと思ったけどやめておく。ベルトだけ外してソファに放った。恭弥があからさまに視線を逸らして膝頭をこすり合わせ、「だ、って」とこぼして上目遣いにこっちを見上げる。
 引力に引き寄せられるまま恭弥の額にキスを施した。うん、メイクの味がする。女の子を舐めるとする味。
 丸まったタイツだけがベッドの脇に放ってある。そわそわ落ち着かない恭弥がかわいいなぁと思いながら膝を合わせて女の子のように座り込んでいる足を撫でる。ぴく、と震えた恭弥の膝から腿を掌で、指で遊んで、「ほら、俺に見せて?」と甘い言葉を囁けば、俺より小さなの手がそろそろとニットワンピの裾を持ち上げた。
 恭弥が顔を赤くしている、その理由がよく分かる。恭弥は女の子がつけるようなレース地の下着を穿いていた。羞恥心からだろう、俺と目を合わせることなくベッドのシーツを睨みつけている。
 外見が女の子だけじゃなく、アンダーまでなりきってきたのか。やるなぁ。なんか、本気だ、って感じが伝わってくる。
「こんなにしちゃってさぁ。やらしいな恭弥」
 膨らんでるショーツを掌でなぞると恭弥の身体が小さく震えた。前戯するまでもなく昂ぶっている。目を合わせようとしない恭弥の耳に顔を寄せて「ホントやらしい」と再度囁き、レースのショーツをずり下げた。
 …うん、と自分の中で一つ頷く。ワンピを握り締めて恥ずかしそうに俯く恭弥に、拒絶みたいなものは感じない。やっぱり細いし、男だけど。うん。
 ……俺ってもしかして昔っからわりと変態だったのか? 恭弥に対して。そんなことを考えつつ放置していた紙袋を引っぱり寄せた。さっき自販機で買ったやつだ。
 小さいチューブの入った箱を開封する。途端にローズのにおいが香った。女の子の好きそうなやつだな。
「…それ何?」
「きもちよくなるアイテム」
 蓋を取って少し考え、小豆粒くらいを指先に出した。ベッドに上がって足を広げて座り、ぽんと足の間を叩いて「おいで」と言えば、ベッドを軋ませながら恭弥がにじり寄ってきた。大人しく俺の足の間に座る。その恭弥の硬いのに小豆の大きさのホットローションを擦りつけるようにして塗った。びくっと大きく震えた恭弥が「ふぁ、」と声をこぼして身体を捻る。
「やだ、ぁ、なんか、熱い」
「そーいうやつ。前よりきもちいいだろ」
「アぁ、やだ…んン…っ! ぁ、だめ、だめぇッ」
 少し扱くだけで腰を震わせる恭弥があっという間に昇りつめてイッた。ひくん、と震えて俺の腕の中でくたっとする姿にごくんと喉が鳴る。達したばかりでまだ熱い恭弥の芯をそれでも扱くと、びく、と細い身体が震えて「あぅ」とエロい喘ぎ声が上がる。
 駄目だな。余裕ないな。いや、頑張れ俺。今までさんざん女の子相手にシてきたんだから、だいじょーぶダイジョーブ。っていうか敏感な恭弥にこれはいらなかったろうか、と思いながら普通のローションを取り出し、ニットワンピを引っぱってくたっとしている恭弥を脱がせた。チューブトップもベッドの下に落とす。ショーツも膝まで追いやれば、自分から脱いでくれた。
 恭弥をベッドへと押し倒して細い身体にとろりとしたローションをたっぷり垂らす。胸から腹まで。マッサージするように肌を撫でてやる。白い生地に銀糸で南国の花を描いたシーツで恭弥の黒い髪が緩く跳ねて散らばる。白に黒。そのコントラストが眩しい。いつもより輪郭をやわらかく見せる部屋の照明が憎い演出で恭弥の肌を魅せる。
 喘ぐように呼吸するその姿が理性を削いでいく。
 かわいいなぁ恭弥。昔も今も、かわいいままだ。
、も…、いい。もぅ、ほし…ッ」
 熱に浮かされて揺れている黒い瞳に懇願されて、尖った乳首を弄んでいた指をするりと滑らせる。
 細い腰よりもさらに下、恭弥の雄の向こう。男は孔なんて一個しかない。つまり、ココを使ってするしかないわけだ。
 ゆるりと後孔を撫でると恭弥の長い睫毛が震えた。「ココ弄ったことある?」と訊くとふるふると首を振られ、黒い髪がシーツを打った。
 よーし頑張れよ俺の理性。先は長いぞ。でもそうだな、ちょっと物寂しいし。
 ぎ、とベッドから下りてデニムを脱いでボクサーのアンダーも取っ払った。ああ俺変態なんだなぁとおっ勃ってる自分に苦笑いをこぼして恭弥を振り返る。はぁ、と熱っぽく吐息した恭弥が物欲しそうな顔で俺を見つめていた。
 ベッドに戻って、ローションで濡らした指先で恭弥の孔を撫でる。「力抜いて、」言いかけた俺の雄に恭弥がかぶりついた。躊躇うこともなく口に含んで「ふ、ぅ」と吐息をこぼしながら懸命に口と舌で奉仕し始める。エロいことこの上ない姿だ。
 なんて淫乱なんだろうと薄く笑ってから恭弥の孔に指を埋めていく。
 キツいな。こっち使ってシたことないからよく分からないけど、感じるとこってのがあったはず。それを探さないと。
 本来受け入れるために作られた場所ではないから、恭弥の中に埋めていく指にはかなりの抵抗がある。痛くないかな、と恭弥の顔色を窺いながら少しずつ指を入れていく。
 中が熱いのは同じだ。いや、ひょっとしたら、圧迫感が強い分濡れた女よりもよっぽど熱いのかもしれない。
 前を触って気を紛らわせたり肌を撫でたり乳首を弄ったりしながら、肉の壁を指で刺激する。眉を顰めて耐えてる顔をしてる恭弥の舌が熱い。
 えーっと確か十円玉くらいのしこりっぽいやつがそれだとか、そっちの趣味の知り合いが言ってたような。
「ンんっ」
 ある一点を掠ったとき、びく、と恭弥が大きく震えて声を上げた。ここかな、と内壁をなぞる。確かにちょっと膨らんでるような気がする。指で押してやると恭弥が大きく震えた。喘ぐように息をしながらも俺のを咥えたまま離さないところがエロい。
 感触をよく確かめてから一度指を抜いて、ローションをたっぷり含ませてずぶずぶと指を埋めていく。恭弥が「ふぁっ、んぅ」と声を漏らしながら一生懸命俺のに舌で愛撫する姿がすごくソソる。
 あ、理性がやばいですねそろそろ。ちょっと焼き切れそうかも。
「痛くない?」
「ん…ッ」
 頷いた恭弥に、二本目の指を挿入。二本の指で前立腺を中心に中をかき回す。
 びくびくと反応する身体がとってもやらしいです。もうちょっと肉づきがいいとさらに言うことはないんだけど。
 最低三本入らないと俺のは入らないと、分かってるんだけど。なんかもう挿れたいな、と指を抜いた。
「恭弥」
 俺のを咥えたままの恭弥の頬を挟んで離させる。初めてだけに上手とは言えないフェラだったけど一生懸命な姿がプライスレス。
 ちゅ、とキスをしてから恭弥の膝を開く。とろとろ蜜を溢れさせてるのを隠してたようだけど、そうされてるとやりにくい。促されるまま足を開いた恭弥の顔が赤い。
 中をきれいにするって手順をすっ飛ばしているので、今回はコンドーム着用です。念のため。
「力、抜くこと。いい?」
「ん…」
 こくりと頷く恭弥の入り口に男相手にすっかり興奮してる自分のものをあてがって、焦らすこともできず、先っぽを埋めた。小さく喘いで目を瞑った恭弥の中へとゆっくりと自身を埋めて、
 その辺りでプチッと理性のちぎれる音がした。
(あ、もう我慢できないわ)
 経験からそれを悟った俺は恭弥の薄い胸にキスをした。両膝を大きく割って恭弥の身体に押しつけるようにする。苦しい姿勢なんだろう、若干眉根を寄せて薄目を開けた恭弥に先に「ごめん」と謝っておいた。
 ごめん、ここからはもう丁寧にできない。乱暴になる。痛かったりしたら、ごめんね。
✙  ✙  ✙  ✙  ✙
「ふぁあ、アっ、や……っ! やぁ、、やっ、アん、んっ」
 ぎ、ぎ、ぎ、と規則的にベッドが軋んだ音を立てる。その規則に沿ったように喘ぎながら必死で息をした。霞んでいる視界に天蓋のカーテンと木目の天井が揺れている。
 やっと僕の夢が叶ったという現実を味わうよりも、女相手に性交して対して感慨も覚えなかった自分がに貫かれてこんなにも感じているという性感が強すぎて、何も考えられない。
 最初は自分の中に押し入ってきたものに対する異物感が否めなかった。当然だ。僕は女じゃない。外から入ってくるものを受け入れるようにはできていない。それでも彼が欲しくて仕方がなくて、何度も抜き差しされているうちに、不快感はどこかに消え去って、代わりにやってきたのは快感だ。
 擦られる度に感じる部分がある。執拗なまでにそこを刺激されて、僕はすっかり女になっていた。女のように喘いでよがってそれでも突いてくれと彼を求めている。
 じぃんと頭を痺れさせるような、お腹の奥を熱くするような、そんな場所がある。指で刺激されても気持ちいいと思ったそこをの硬くて熱いのが擦ったら、もう、たまらない。
 熱い。擦られてる部分も、彼の熱も、それを包む自分の内側も。
 意識すればするほど彼を感じた。いやらしく内側が収縮したのが分かる。片眉を顰めた彼が「恭弥」と低く掠れた声で僕を呼んでキスをしてくる。自分で自分の膝を抱えた苦しい体勢で舌を伸ばしてキスをする。キスをしながら腰を掴まれ、打ちつけるような激しいピストンで犯される。
「ふぐ、うんん、ン…ッ! ンっ、んん、んうぅ」
 じゅぶじゅぶと鼓膜を刺激する水音。ふいに彼の顔が離れて舌が逃げた。「アっ、あぁ、は、あっ、ああァ」舌が離れてあられもなく鳴く。
 強く突かれて少しゆっくりめに抜かれるのがたまらなく気持ちいい。
 喘いだまま閉じられない口から唾液が顔を伝った。飲み込む暇なんてない。
 円を描くように攻められる。もう何度もイッてるけどまたイッた。
 息を吐く暇もない。閉じられない口から嬌声が漏れても女みたいな高い声が漏れてもは止まらない。
 ぐっと強く根本まで押し込まれて、彼の熱くて硬い先端が奥を擦った。「ああ!」と鳴いた自分は確かに女だった。
 角度を変えながら何度も腰を打ちつけられて、強く激しく抜き差しされて、その度に僕の中とのが擦れ合ってお互いを刺激して、意識が、曖昧になってくる。
 もう自分がどんな声を上げているのかも分からない。どんな顔をしているのかも分からない。
 分かるのは、彼が僕を抉っているという感覚だけ。
「…っ!」
 びく、と大きく腰が震えて達した。ぎゅっとのを締めつける。それで、彼もイッたのを感じた。
 反り返っていた背中が力尽きたようにベッドに沈む。
 は、は、と大きく呼吸しながら、力の抜けた手が膝を離した。彼がシやすいようにとずっと抱えていたせいで腕が痺れている。
 普段しない体勢をしたから、腰とか背中とかが痛い。
 痛い。でも、気持ちがいい。
 はー、はー、と意識して息を深くしながら「恭弥」と呼ぶ声に視線を彷徨わせる。僕を覗き込んだくたびれた金髪の持ち主の耳で淡い照明の光を受けたピアスが光っていた。
「かわいい」
 ちゅ、とキスされて、そうか、僕はかわいかったのか、と他人事みたいに彼の言葉を反芻する。
 あなたを堕としてやろうと最初は意識してたけど、途中からもう無我夢中で、そんなこと考えてもいなかった。
 …あなたがかわいいって言うなら、それでいいんだろう。かわいい僕っていうのがの望んでいることなら。僕はいくらだってかわいくなる。
「きれいに、したい」
 掠れた声でそう言うと、自分の中を圧迫していたものがゆっくり抜かれた。何となく、何かが足りなくなったように感じて寂しくなる。
 彼は苦笑いで僕の顔の横に座ってコンドームを丸めて放った。「そういや腹大丈夫? 吐きそうとかない?」「大丈夫」ぺろ、と精液で汚れてる彼のを舐める。全部舐めてきれいにして、無骨な膝に頭を預けた。
 なんだか、疲れたな。眠たい。セックスって体力いるんだな。知らなかった。
「寝てもいいよ。身体きれいにしとくから」
「…ん」
 頭を撫でた掌に甘えて目を閉じる。

 そうして、僕の夢は聖夜に叶う。