十二月三十一日から一月一日にかけて、と並盛神社をお参りして年越し。
 一月一日、電車で少し行ったところの大きな神社でお参り、おみくじを引いてみた。僕は中吉では小吉。特にアテにもしていないのでおみくじの結果など気にせず、にねだって、お金がないと言うから僕が出すとまで言ってラブホテルへ連れて行ってもらった。今年初めての、姫始めってやつだ。
 が真面目顔でセックスについて語って僕に実践してくるので、身体で覚えればいいんだろ、と喘いで鳴いて、気持ちよくなって意識を手離し、目を覚まして、バスタブの中がライトによって虹色に輝いて見える異空間みたいなそこでも抱かれた。前からじゃなく後ろから初めて貫かれて、これも鳴き叫んだ。前からよりも後ろからの方が気持ちよくてすぐにイッて、目を覚ました頃にはチェックアウトの時間だった。
 一月二日はが好きなブランドが売り出しをするんだとかで街へ行くというから、砕けている腰に鞭打って一緒に出かけて、デパートで服を買い漁った。
 そのときの格好を悩んで女の子の姿で行ったら、デパートでも当然の如く女の子の服をあてがわれた。うん似合う、と笑う彼にじゃあ買うと馬鹿みたいに返して、彼がかわいい似合うと本気で褒めてくれた服の大半を買いあさって、二人で両手に紙袋いっぱいになりながらお茶をしたりして、デート、を堪能した。
 一月三日。明日は店長からの試験だから、とが本気モードで部屋にこもって勉強を始めた。邪魔しちゃいけないと思った僕は、買った服をひと通り着てみたりコーディネートを考えたりすることで時間を潰し、勉強に集中してるのため、今日は僕がおいしいご飯を作ってあげようと思い立って、スーパーへ買い出しに出かけて、彼が好きなカツ丼の卵とじを作ってあげた。
 一月四日からはの仕事が始まったので、一緒にいる時間がぐっと減った。
 彼が仕事に出ている間に僕がすることと言えば、残っている家事をこなすことか、携帯でネットを覗くこと。最近はが僕に教えたことを確かめるためにそういう系のサイトを巡って、自分でちょっと弄ってみたりとか、それくらい。
 そうやってあっという間に冬休みが終了し、学校が始まる。
 一言で言ってだるい、めんどくさい、に尽きる。まだ中一なのに学校という空間に飽き始めている僕は、女子に興味なんて持てないし、以外の男子なんてウザい対象でしかない。
「雲雀くん」
「…何?」
 もちろん。僕を何度も吐かせる事態にさせた女子に対しても、興味の欠片もない。
 そっけない態度を取り続けることで彼女は僕のもとを離れた。何度話しかけられてもはっきり誘われてもその気がないことを示し続けていると、やがて彼女から折れ、その日のうちには僕らが別れたという話が女子の間に広まっていた。
 女はこういうことに目聡い。
 僕がフリーになったと思い込んだ女子の誰がどう言い寄ってこようが、僕が女に興味を持つことなんて、ありえるはずがないのに。
 上の空で授業を受けながら、のことを考える。
 勤め先で受けた試験は散々だったらしいけど、まためげずに勉強していたし、追試でもあるんだろう。勉強が苦手な彼なりには頑張っている。報われると、いいな。
 ぼんやりしながら授業を受け流し、ホームルームを終え、白いふわふわのマフラーとキャラメルとブラウンのミトンの手袋をして、足早に教室を出る。階段を下りると白いぼんぼんが胸の辺りで勢いよく跳ねた。
 途中から我慢できずに走って家に帰ると、はまだいた。コートを着てもう出かける体勢だった。今日は夕方からカラオケ店のバイトで夜中にしか帰ってこれないと言っていたから、間に合ってよかった。
 息を切らせて帰宅した僕に軽く驚いた顔で「恭弥? 何、そんなに息切らして」と首を捻る彼にぼふっと抱きつくと、身体が安堵していた。
 学校、教室というある種の密閉空間、僕にしつこく構ってくる女子生徒、そんな不快な存在を忘れさせてくれる手が僕の頭を撫でている。
「ただいま」
「おかえり」
 抱き締められたことが嬉しくて笑うと、ちょんとキスされた。それがまた嬉しくて、馬鹿みたいに頬が緩む。

 夢見ていた日々は確かな現実となって僕の日常を彩っている。
 罪を犯し、男を捨ててでも、幸せは手に入る。
 幸せになろうとすることを諦めなければ、貪欲な人間は、いずれ、欲しいと思ったものを手に入れて、笑うだろう。

「今日遅いの?」
「フツーに帰ってくるつもりでいるけど…成長期の子は寝てなさい」
 前髪を撫でつけらてふるふると頭を振って髪を払う。「起きてる」「寝なさい」「嫌だ」「あー。じゃああれだ、帰ってきたらただいまって起こすから、寝てなさい」ぶすっと頬を膨らませると参ったなぁと金髪をかき上げる
 十分ほどで彼は急ぎ足でバイトに出かけていった。
 門の敷居をまたいで消えた彼を名残惜しく見つめたまま、はぁ、と息を吐いて家に戻る。
 …宿題を片付けよう。それから、聞いてなかった授業の振り返りで教科書に目を通そうか。どうせ暇なんだし。
 そう思っていたはずが、宿題を片付けた頃にはすっかり集中力が途切れていた。頭はそうでもないけど、身体が、じっとしているのはもう限界だと言っている。
 疼いている、と感じるソコに自然と手が伸びる。なぞると、僕の意思とは関係なく反応してヒクついた。
 こんなにしちゃって、やらしいね恭弥、と囁いた声が耳を掠める。
 椅子を蹴って立ち上がり、階下に下りて、トイレにこもって浣腸という少し気持ちが悪い作業を経て中をきれいにして、洗濯機から昨日が着ていたTシャツをつまみ出す。仕事着の制服の下に着ていたんだろう、ほんのりと香水とお酒臭さが混じっていて、ほんの少し、のにおいもした。そのTシャツを手に部屋に戻ってローションのボトルを手に取る。のTシャツに顔を埋め、彼の指と自分の指を重ねながら、ベッドの上で自慰行為に耽る。
 俗にアナニーとか呼ばれるやつを自分でするようになったのは、に一から面倒をかけている状態が続くのが忍びなくて、少しは自分でやろうと思ったからだ。
 慣らすことくらいなら一人でだってできる。
 彼を受け入れやすい身体にしたい。もっとたくさん揺さぶられてみたい。その一心で、見られていないところで自分で自分を追い込んだり、身体をもっとやわらかくしようとストレッチを始めたりした。
「ん…っ、とどか、ない…ッ」
 中を抉る指先に自然と力がこもる。それでも届かないものは届かない。
 切なさで涙が出てきて、喘ぎながら、もっと奥へいけ、と指を伸ばす。限界まで伸ばしても欲しいところには届かなくて、余計に切なくなる。
 一番長い中指を限界まで自分の中に埋めても、気持ちよくなる前立腺という場所をどれだけ刺激しても、もっと奥に欲しいと身体が言う。これじゃあ足りないって。前と後ろ一緒に触ってぐちゃぐちゃにしてるのに、これでも足りないって言う。
 一本を二本にして二本を三本にして、ローションをたっぷり垂らして、指を抜き差しする。に抱かれているのだと自分を錯覚させるためにTシャツに顔を埋めて「あ、ぅ、…っ、」と縋るように彼を呼ぶ。抱かれているのだと身体に言い聞かせる。だけど、やっぱり、もっと奥に欲しいとお腹の辺りが熱くなるだけで、満足することはない。
 抱かれたい。今すぐに。
 馬鹿みたいに欲情している身体を笑ってと縋って喘いだとき、「あー、ごほん」といるはずのない声が扉の外から聞こえて、びくりと震えた身体が固まって、思考も固まった。
 バイト。だって。夜中まで帰ってこないって言って出て行ったはず。まさか僕はそんな時間まで自慰に耽っていたのかと時計を見れば、そんなことなくて、まだ十八時だった。出て行ってから一時間しかたっていない。
「出社したら、明日空けたいから今日交代してくれって言われて、さ。帰ってきたんだ」
「……っ」
 かああと一気に顔が熱くなって指を抜く。
(聞かれた? どこから? 彼はいつ帰ってきたんだ? 玄関の音が聞こえなかったのか僕は。それほどまで、溺れていた?)
 鍵もかけていなかった扉が押し開けられる。隠す暇もなかった。ベッドを汚して一人で喘いでいた僕を眺めたの目が、僕を愛でるときの少し鋭くて危険な色を宿す。
 どさ、肩掛け鞄が床に落とされ、ジャケットも脱いで落とし、「きょーや」と卑怯なくらいやわらかい声で呼んで、僕に触れる。その指に身体が反応する。欲しい、とただ貪欲に。
「どこまでしたの?」
「…中、きれいにして、指、三本入れて……」
「痛くない?」
 浅く頷くと、「そっか」とこぼした彼が脱ぎもしないでぐいと乱暴に僕の腰を掴んで引き寄せ、入り口に熱いのをあてがった。欲しいと思っていたものを。
 ずぶずぶと僕の中へ押し入ってくる彼の硬いのに身体が悦びの悲鳴を上げた。「あッ、…ッ!」悦びで震える身体で後ろから貫かれて、ここは家なんだった、と喘ぐ声を押し殺す。唇を噛んで堪えるだけでは我慢できなくなって、ベッドに顔を押しつけても、殺しきれない声が漏れてしまう。
 ぽた、と落ちたのは汗か、濁った欲望か。
「やらしー」
 薄く笑った声に身体中を撫でられてぎゅっと内側が収縮したのが分かった。顔が熱くなる。の声だけで身体が反応している、なんて。
「ほら、みんな見てる」
 みんな、と言われて視線を彷徨わせると、ベッドに転がっているかつての彼の戦利品達がいた。様々な形の人形達の目が僕を見ている。に抱かれて悦ぶ僕を見ている。
 ぐっと強く抉られて「あぅ!」と声を上げて腰を震わせた僕は確かにやらしい。に言われるまでもない。
 そこでTシャツを取り上げた手が僕の口にそれを押し込んだ。口いっぱいにシャツを押し込まれてさすがに惑う。は何がしたのだろう、と思ったら容赦なく突き込まれて「んぐッ!」とこもった悲鳴を上げた。
 ああ、そうか、声を上げないようにと口に詰め物をされたわけか、と遅れて気付いた。
「なんかだいぶシやすくなってる。もしかして恭弥、俺がいない間ずっとこんなことしてたの?」
「ん…ッ、んンぅ、んぐ…ッ、ん、ンんっ」
「すっごいグチャグチャいってる。聞こえてる? きょーや」
 腿をカタカタ震わせながら何度も頷く。
 ベッドに転がっているテディベアと目が合った。ふぐ、とこもった息を吐く。その目にもやらしいねと言われている気がした。「前触ってイくこと憶えたの? 手つき、やらしーね」指摘されて、びく、と濡れている雄を扱いている手が震えた。深く考えもせずに触れていたと気付く。
 やらしい。女よりも、よっぽど僕の方がやらしい。
 ぱん、と腰を打ちつけられて「んぅ!」と悲鳴を上げる。何度も何度も連続的に強く打ちつけられてはゆっくり抜かれを繰り返されてどろりと手が濡れた。あ、イッた、と分かったけどは止まらない。何度も下から上へと突き上げられてこもった悲鳴を上げ、奥に欲しい、中に出して、と浅ましいことを願ってぎゅっと強く締めつけると、「キツい」とこぼしたが息をすることも許さないような激しさで僕を犯し始める。
「ん…ッ! ンぅ、んーッ! ぅぐ、ん…ッ!」
 びくん、と大きく身体が跳ねて、お腹の奥で自分のものとは違う熱が生まれたのが分かった。
 懸命に息を繰り返す。どくん、どくん、と断続的に中に吐き出された熱に、目の前がくらくらと揺れた。
 押し込まれていたTシャツが引っぱり出されて、それが唾液まみれになっていることに頬が熱くなる。汚してしまった。こんな、染み込むまで。
「…ああ。シちゃった。ラブホでしかシないって決めてたのに…帰ってきたらオナニってるとか、俺の理性殺す気だろ恭弥」
 ずる、と僕の中から熱が逃げていった。は、と息を吐き出して薄く笑う。
 へぇ。僕が一人で弄ってたら、あなたの理性を殺せるのか。じゃあ今度からそうしよう。どうしても欲しいって思ったときは、の目の前で前も後ろも弄って誘ってやろう。そうしたら抱いてくれると言うんなら、簡単でいい。
 息を切らせながらどさっとベッドに横向きに倒れてを眺める。白っぽく濡れている彼のを舐めたいなと思ったけど、直接入れたから駄目だって言うだろう。
 はぁ、はぁ、と大きく息をしている僕に、彼の喉仏がごくんと上下する。
「口で抜いてやるよ」
 そうして僕が何か言う暇もなく濡れそぼっている僕の雄が彼の熱い口内に招かれて、「ああ」と切ないような声音で喘ぐ自分が女のようだと思う。
 指と掌ですらあんなに熱いと感じたのに、先端に吸いついたざらりとした舌に愛撫されたら、弄ばれたら、我慢なんてできなかった。快感で滲んだ視界に、吐精した僕のを飲み込んだの喉仏が上下する。
 ようやく顔を上げた彼が参ったなぁと笑う顔が好きだった。
「かわいいよ恭弥。かーわいい」
 ちゅ、と額にキスされて、達した余韻で震える身体で息をこぼして笑う。
 あなたに愛されるためなら、いくらだって、かわいくなろう。それであなたが僕を抱いて、僕に夢中になって、僕だけを見てくれるというのなら。いくらだって。
 ぎし、とベッドに腰かけた彼が「でも今度はラブホで。思いきり鳴きたいだろ?」そう問われてこくんと頷く。
 口に詰め物しながらするのは息苦しいし、やっぱり鳴きたい。こんなの僕じゃないって思うくらいあなたに乱されて、あなたの理性をぶち壊して、二人で果てたい。
 そんな僕にはーと息を吐いて顔に手をやったが「お前、ほんと、エロい」とぼやいて脱力した。

続きはラブホテルで