恭弥が座布団に座ってちゃぶ台の上に宿題の冊子や筆記用具を広げ、無表情に取り組んでいる。俺はといえば、ベッドに転がって携帯をいじりつつあぢーとダレていた。
 何もしてなくても汗が滲んでくるこの暑さ。田舎とはいえ、昼前になれば三十度を上回る。すぐそこに緑がある分目に涼しいかと思ったけど、蝉の声がうるさくて涼しさなんてどこへやらだ。扇風機だってあまり意味もない。
 今日は出かけないで家のことを手伝ってみるという日にしたので、片付けるべき宿題もない俺は暇である。
「扇風機だけで集中できるー?」
「…ちょっと、暑い」
 じわり、と額に汗を滲ませている恭弥にピッと冷房を入れた。足を伸ばしてガラガラと窓を閉めてカーテンも引く。少しして、稼働し始めたクーラーから二十八度設定の風が吹き始めた。狭い部屋だからすぐに涼しくなるだろう。
 ごろんと再びベッドに転がって携帯の画面に指を滑らせる。
 暇潰しに適当にショッピングサイトを見てるけど、帰ったらバーゲンセールに付き合う予定でいるし、そのとき一緒に買えばいいしな。っていうか着なくなった服を処分しないとなぁ。恭弥が着るものあるならあげてもいいし。
 ごろん、とまた転がって恭弥の肩に顎を乗っける。汗の浮いてる首を舐めると恭弥の肩が跳ねた。「…集中できない」「へぇい」ごろん、と転がってまた携帯をいじる。
 花火も見たし夏祭も行ったし海も行った。あと夏らしくて行ってないとことかあるかなぁ。
(プール…はな。海行ったし。またあの水着着られたら俺の理性が…。っていうか、さすがに顔見知りがいる並盛では着ないだろうし。うーんあと夏らしいことといえばなんだ? 俺が女の子と付き合ってたときは、海だろ、プールだろ、花火だろ、お祭だろ、ショッピングの荷物持ちに…)
 ぶつぶつ考えつつゴロゴロしていると、おふくろがやってきた。「今日は手伝ってくれるんでしょう? 」と扉の外から呼ばれて「へぇい」と肩を竦めてベッドを下りる。そろそろ昼飯作りか。手伝うと言った手前それなりにやりますよっと。
 顔を上げた恭弥の頭を撫でて「いーよ、宿題してな。昼飯できたら呼ぶよ」ぽんと頭を叩く。恭弥がちょっと不満そうに唇を尖らせたから、しょうがないなーと触れるだけのキスを交わす。
 視線で窺ったところ、宿題の方は何気に残り四分の一だ。さすがです。俺なんか宿題なんてポーイだったよ。最後の日になって必死にやるタイプでした。
 あとで、と囁いて部屋を出てリビングに行けば、おふくろが冷蔵庫から材料を出してるところだった。
「何にすんの?」
「男の子が二人もいるんだから、お好み焼きかしらねぇ」
「恭弥そんなに食わないよ」
 キャベツ、ネギ、豚肉などなどを言われずとも刻み始めた俺に母親がきょとんとした顔をする。「恭弥くんは食が細いの?」「まぁ」トントントンとキャベツを粗みじん切りに。その間にかーさんが食卓にプレートを奥の方から出してきた。この暑いのにプレートで焼いて食べるつもりでいるらしい。
 額を伝った汗を手の甲で拭う。
 ぶっちゃけた話、俺よりも恭弥の方が料理が上手いんだけど、ここは頑張ってみよう。早めに宿題片付ける秀才恭弥のために。
 俺が暑いダルいながらも頑張って調理をしてる横で、おふくろは聞いてようが聞いてなかろうが一人で喋っている。
「お節介とは思ってるんだけど、あんたからもそれとなく話をしてやってね。恭弥くんの進路、私もお父さんも心配してるの」
 …またその話か。もう五回目くらいじゃないか? 半ばうんざりしながらトントンと包丁でねぎを刻む。
(進路、ね)
 確かに大切だ。恭弥は中学二年生。俺という馬鹿な前例があるせいで恭弥の進路について親がピリピリしてるのは分かるけど…恭弥は高校行ってどうしたいとかあるのかな。中学も帰宅部で退屈そうに帰ってくるしなぁ。
 ネギを刻み終えて豚肉を適当にぶつ切りにし、具の準備は完了。別のボウルに小麦粉と片栗粉を合わせ、水を加えつつ混ぜて、具を投入。適当にぐるぐる混ぜる。まぁこんなもんだろう。
 あちー、と辟易しながら手を洗い、ボウルを食卓に置いた。しばらく見ないうちにちょっとふくよかになったおふくろが鉄板に油を垂らしながらぽつりと、「あの子は三音さんと十四朗さんの忘れ形見よ。私達にはあの子を見守る責務があるわ」「ん」適当に相槌を打って、俺に厳しい目を向けていた着物姿の二人を思い出す。あの夏の日に一度見たきりだけど、俺を見下ろすようなあの目は今でもよく憶えている。
 あの二人は俺を怨んでいるだろうな。
 恭弥を凶行に走らせた原因は俺なのだから。
 そのことを否定するつもりはないし。言い訳するつもりもないし。だからって今更生き方変えるつもりもないし。申し訳ないとは思うけど、俺はこうだし、恭弥はああだ。真実を知ったからと言って何が変わるわけでもないさ。
「きょーやご飯。お好み焼き」
 部屋に戻って声をかけると、冷房を切った恭弥が宿題を閉じて立ち上がる。若干億劫そうだ。俺も暑いのはダルい。早く過ごしやすい季節になればいいと思うけど、そうしたら恭弥の夏休みは終了で、俺の長期の休みも終了だ。夏はダルいけど、まだ、この季節は終わってほしくない。
 そんなふうに思える夏は、初めて、かもしれない。
 次の日、おふくろにいいことを聞いた。田舎の人付き合いならではというべきか、肝試し大会ってものがあるらしく、開催が今日の夜七時からなんだそうだ。
 昼飯を食べ終えて、おふくろが片付けをしている。ソファで恭弥と隣り合って座り、適当にテレビを眺めてた俺は、その紙っぺらを恭弥に見せた。宿題を終えて夏休みの自由課題を何にしようかと携帯をいじっていた恭弥が顔を上げて、俺が持ってきた紙に目を通すと、呆れたように笑う。
「肝試し大会?」
「お化け屋敷じゃないってところがいいよな。田舎って感じで。な、行こう? どうせ宿題終わって暇なんだろ」
 また浴衣着せてあげるよ、と囁くと恭弥の顔が赤くなった。浴衣で思い出すこと=花火見ながらセックスしたって記憶のせいかもしれない。全力で俯いて視線だけで洗い物をしてるおふくろを気にしている。おふくろはといえば、俺達のやり取りに特別意識を払っている様子はない。むしろテレビでやってる節約術の番組を気にしてるようだ。「で、でも」と口ごもる恭弥がかわいい。「嫌だ?」ぶんぶん首を横に振った恭弥がぽそっと「行く」と答えたので、満足して顔を離した。
 夏といえばそうだ。お化け屋敷とか肝試しとかあったんだった。夏のイベントとしてこれも外せない。恭弥が女の子みたいに怖がるのかってことは別問題として、恋人と過ごす夏としては一つ経験しておいて損はないだろう。
 日常で簡単に実践できる節約術をやってるテレビに視線を投げる。恭弥は忙しなく携帯に指を滑らせているけど、あえて気にしない。
「自由課題ってのは決まったの」
「…まだ」
「そー」
 扇風機に煽られた金髪が視界の隅でぱらつく。つまんで、どうしようかなと思う。茶色に染めようか。この休みの間に普段できないことやっとかないと。
「恭弥さ、俺に茶髪似合うと思う?」
 恭弥が驚いた顔で俺を見た。ポロリと手から携帯が落ちるくらいには俺の茶髪発言に驚いたらしい。
「…なんで?」
「そろそろ金髪は卒業しようかと。いい加減くたびれすぎてるしさ」
 自分の髪を引っぱると、恭弥がじっと俺を見つめた。複雑そうな顔で「僕は、金髪以外のあなたを知らないから」と言われて、そうだっけと首を捻る。俺ってそんなにずっと金髪だっけか。そりゃあ金髪=俺ってイメージついてても仕方ないわな。
 じっとこっちを見つめたままの恭弥に、俺の金髪にこだわりがあるんだろうか? と思いつつソファに落ちたままの携帯を恭弥の手に戻した。「金髪のままの方がいい?」と訊くと複雑そうな顔に眉根が寄って、なんとも言えない顔をした恭弥が曖昧に頷く。
 そうか。じゃあまぁまだ金髪でいよう。二十代までなら金髪でも許されるだろ、多分。
 町内で開催されるという肝試し開場は、若い子の連れ合いとカップルと親子連れでそれなりに賑わっていた。ちょっと予想外だ。田舎田舎って親が言うから田舎だって思ってたけど、言うほど田舎じゃないよなここって。海だってわりと整備されてたし。
 浴衣姿の恭弥と並んで、お墓を通って先の神社まで行くというルートとルールを説明した手作り感溢れる地図を眺める。
 ルートは三本。真ん中を突っ切る最短ルートと左右に別れる道が一つずつ。最終的に神社で三つの道は合流する。
 ルールとしては、最初に蝋燭を買って火をつけ、それを神社の燭台まで持っていって置いて帰ってくる、と。
 定番と言えば定番か。その道の間に何かしらお化け役の人がいて驚かせてくるんだろう。入場料は蝋燭代三百円ですむんだから安いもんである。
 さてどのルートを行こうか、と地図の前で腕組みして悩んでいると、連れ合い組が多い中一人で来てる太ったおっさんがすっと動いた。太ってるわりには動作を感じさせない動きで視界からいなくなる。
 …おっさん一人で肝試し行くのかな。それも哀れというか。いや、ああ見えて取締役? とかかもしれないし。うん。
 人の中へと消えていくおっさんを恭弥が睨んでるのに遅れて気付き、「どうした?」と険しい表情を覗き込む。キスするくらい近くに顔を寄せるとようやくおっさんを睨むのをやめた黒い瞳がおどおどと俺を見上げた。「……何でもない」そう言うわりにはおっさんを気にしてるふうだ。なんか隠し事をされたみたいで軽くショックを受ける。
(ま、まさか、恭弥に限ってあんなおっさんに惹かれたとかないよな。確かに俺の金髪はくたびれ始めてるけどまだまだ二十代だよ。あんなおっさんにはメンタルも肉体も負けん)
 ぐっと恭弥の手を握って「よし、行こう」とはりきって肝試し会場入口へ向かい、蝋燭を購入、簡単な手持ちの燭台に火のついた蝋燭を挿して、いざ会場入り。
 カラコロと下駄を鳴らしながら歩く恭弥が浴衣の裾を気にしていた。「あの、」「うん?」歩きづらいくらいぎゅっとひっつかれて、その横をすーっと火の玉が移動していってちょっとビビった。直線的な動きだったから、上から吊るした何かに火をつけて動かしてるんだろう。場所がお墓だけあってなかなかリアリティがあるな、と思った火の玉も完全スルーした恭弥がもごもご何か言いたそうだ。怖いんだろうか。
 歩きにくい、とゆっくりめの歩調になりながら、三本道の右を選んだ。直線だとすぐ神社だろうから、ここはわざと遠回りする。
 カラ、コロ、と夏の夜の中に下駄の音が響く。
 恭弥は深刻そうな顔で口を噤んだまま、手作りっぽいダンボールの井戸からずるぅと出てきた黒の長髪の女の子もスルーした。まるで視界に入ってないっぽい。お化け役の子がちょっとかわいそうになる。
「恭弥? さっきから何気にしてんの」
「…別に。何も」
「そうかなぁ。心ここにあらずって感じだけど」
 う、と口ごもった恭弥がちらりとさりげない上目遣いで俺を見上げた。浴衣姿と相まって普段の1.5倍くらいのかわいさである。「…戻ったら言う」ぼそっとこぼした恭弥がカラリと下駄を鳴らして立ち止まった。つられて足を止めて、恭弥の視線を追えば、視界の先で二つの青い火の玉がふよふよ戯れ合っていた。よくできてるなぁ、と感心する俺の手元で蝋燭の火がゆらりと不安定に揺らめく。風もないのに。
 もしかして吊るしてる糸が絡まってるのかな、とか思ってる間に二つの火の玉はくるくる回りながら空へと上って上って、視界から消えた。
 ……ん?
 いやいやまさか。いやしかし。あんな上の方から吊るしてるってことは ないだろ。ってことは何か。今の、本物か。はははまさか。気のせいか背筋が寒いぞー。
「あー、行こっか」
 さっきよりひっついて頷く恭弥を連れて歩き、目的の神社に辿り着いた。手持ちの燭台を置いて、「早く行こ」と不安そうな顔で手を引く恭弥を連れてその場を離れる。
 さっきのマジもんっぽいというのは恭弥の反応を見てれば分かる。俺もちょっとビビっちゃったし。
 一番早く突っ切れるだろう道を選ぶと、そこが一番仕掛けがたくさんあった。恒例とも言えるこんにゃくによるべちゃっとした冷たい攻撃とか、上から水が降ってくるとか、マネキンの首から上だけがカツラを被って転がってたりとか、ゾンビみたいな人が数人ぞろぞろ出てきてある程度付き纏ってきたりとか。そういうのもありかなとは思うけど、行く手を阻むかのように囲むのはなんかちょっと違わないか…?
 ゾンビ四人組の中に例のおっさんがいた。太いのですぐ分かる。で、そのおっさんの巨体のせいで手を繋いでたのに恭弥と離れてしまった。
っ」
 悲鳴みたいな声に、ゾンビ二人に行く手を阻まれていた俺は「はいはいおにーさんちょっとごめん!」と一人を思いきり押しのけ、邪魔してくるもう一人に足払いをかける。中学から高校時代の喧嘩慣れは身体に染みついていた。なおも俺の邪魔をするもう一人の細い奴の首根っこを掴んで「おら退けよ」と突き放すと、仕掛ける前に巨体が逃げ出した。巨体のわりには素早い動きでぴゅーと逃げていく。
 しゃがみ込んでいた恭弥を抱き起こす。「恭弥? 大丈夫?」そんなに怖いメイクもしてなかったゾンビだけど恭弥は震えていた。俺に抱きつくとおっさんが逃げていった方を指差し、涙目で、
「あいつ、触った。セクハラしてきた。腿とか、撫でられた」
「…は」
 そこでプッチンと何かが切れた。猛然と振り返れば残る三人もどこかに消え失せている。
(おいおいおい田舎だと思って油断してたよ。こういう行事に乗っかって妙なことする連中ってのは確かにいるもんだけど、まさか恭弥が被害に合うなんてなぁ。考えてなかった)
 ちょうどよく通りかかったカップルに恭弥のことを頼んで、全力疾走で逃げたデブを追いかけた。「待てコラてめえぇ!!」と逃げる巨体に声を荒げて本気で走る俺は相当柄が悪かったろう。デブはさらに本気で逃げたが、やはりデブ、持久力はなかった。バテてスピードが落ちたところを後ろから蹴倒し、転んだところをズボンのベルトで腕をふんじばって交番に突き出した。その頃には俺もバテてたけど、これで残り三人も捕まるはずだ。
 立ち聞いた話によると、恭弥にセクハラする以前にも、ゾンビに化けて女の子のグループやカップルをそれらしく襲っていたらしい。最低な話だ。同じ男として肩身が狭い。
 恭弥が何か言いたそうにしてたあれは、あのときにもうセクハラにあってたせいかもしれない。気のせいかもって言い淀んでいたんだろう。そのとき言ってくれてたらもっと早く捕まえたのに。
 カラ、と聞き慣れた下駄の音に顔を上げる。まだ全力疾走でバテたままの俺のところへ恭弥が駆けてきた。泣きそうな顔だ。「」と抱きつかれて受け止めて、そのまま交番の白っぽい壁をずるずる伝って座り込む。
 あー疲れた。暑いのと走ったのとで汗ダラダラだよもー。シャワー浴びたい。
「捕まえたよ。一人にして、ごめん」
 ふるふると頭を振る恭弥を緩く抱き締めたまま、はー、と深く息を吐いて浴衣の肩に顎を乗っける。顔を伝う汗が鬱陶しい。
 本当ならボコりたかったけど我慢した俺偉い。あのデブめ、恭弥にいかがわしいことしやがって。そういうことしていいのは俺だけだっつの。
 取り調べに合ってるデブのことを呪っていると、恭弥が嗚咽を漏らして泣き出した。驚いて身体を離す。
「え、恭弥? 何? どした?」
「きもち、わるい」
「え?」
「きもちわるい」
 ごしごしと浴衣の上から腿をさする手が細かく震えていた。ぽろぽろと涙をこぼしながら「きもちわるい」と泣く恭弥に困惑して、とりあえず、近くの茂みにひっぱり込む。ひっくと震える恭弥を落ち着けるためにキスをしながら、いつまでも腿をこすってる手を取った。
 恭弥が繊細なことは知ってる。しきりにこすってるのは触られたって場所だろう。そこにあのデブの感触が残っているようで気持ちが悪いって言ってるんだ。繊細だからこそ、忘れられないんだろう。
 なら、その感触を、上書きで消せるくらいのもので忘れさせてやればいい。
 涙をこぼす恭弥にキスをして、それでも痙攣を起こしたみたいに震えている身体に、すぐそこが交番、と分かっていながら浴衣の合わせた襟元から手を入れる。ぴくんと違う意味で震えた身体は意識を俺に向け始めた。そう、それでいい、と厚みのない薄い胸を掌で撫でて二つの突起を弄び、涙をこぼす瞳と至近距離で見つめ合ったままキスを続ける。
 行為が進めば進むほど、恭弥の身体から痙攣はなくなっていく。
 さっきのデブのことなんて忘れろ、と念じながら、ほっそりした白い腿を撫で回す頃には熱で蕩けた黒い瞳があるだけだった。もう泣いてない。よし。
「きょーや」
 ちゅう、と腿の内側のやわらかい部分を吸うとびくんと震えた。肌を舐めると汗ばんでいて、それが暑さのせいだけじゃないということが分かる。
 腰帯でどうにか身体に纏ったままの浴衣は半分脱げたような状態で、はぁ、と吐息をこぼす恭弥の熱に浮かされた顔はその気十分だった。
 相変わらずエロい。
 この半年で何回セックスしたっけ? バイブ使ったりコスプレさせたり感度の高くなるローション使って鳴かせたり、すっかりそっち方面に転がしちゃって。俺、恭弥の人生の責任取らないとだよな、ほんと。もう男なしじゃいられない身体にさせちゃったんだから。
 さすがに交番の横でするわけにはいかないので、反応しまくって破裂しそうな恭弥のを口で抜いて、元通り浴衣を着せて茂みを抜け出した。人気のない田舎道をバス停へと向かいながら「まだ気持ち悪い?」と訊いてみる。ふるふると首を横に振った恭弥の頬が赤い。かわいいなぁ。
 カラコロと下駄の音を聞きながらバス停に行き、時間通りやってきたバスに乗り込む。
 今回はあまりいい肝試しにならなかったのが残念だ。恭弥はセクハラに合うし、俺は全力疾走でバテバテになるし。
 並盛に帰ったらちゃんとお化け屋敷に行って、この記憶を塗り替えよう。うん。

 そんなこんなで田舎滞在の期間は終了。俺達はローカル電車を乗り継いで並盛の雲雀の家に戻って、二人きりの日常へと帰ったのである。