「イオン様ぁ知ってます? 導師守護役の一人にミーアって人がいたんですけどぉ、きゅーに辞めるらしいんですよぉ。勝手な話ですよねー」
 今日片付けるべき書類を手早く机に並べるアニスの言葉に知らず口元が笑う。何も知らない導師の顔で「そうなんですか。残念です」と口にする自分はいつもの導師の笑みを貼りつけていて、その微笑みの下でどんな顔をしているかなど、アニスには想像もつかないことだろう。
 ぷりぷり怒った顔をしてみせるアニスは「まぁぶっちゃけると、私あの人嫌いだったんで、いいんですけど。神託の盾兵のことと言い、最近自己管理のなってない人ばかりで困りますぅ」「…神託の盾兵、ですか?」首を傾げると、あ、言ってませんでしたっけ、とその兵士のことを身振り手振りを加えて説明し始める。
 ローレライ教団員が寝泊まりする宿舎から教会へと続く道が一本存在する。その扉の見張りを務めていた兵士の一人が何者かに襲撃され、重傷を負ったらしい。武器に使われたと思われるのは長剣だと推測されている。賊の侵入かと教会内は一時騒然としたが、見張りを斬り捨てただけで、教会内に異常は見当たらなかったとのこと。
 話し終えるとアニスは首を傾げた。「それにしても、愉快犯みたいな犯行ですよね。見張り番だけ斬り捨てて他には何もしないとか…。イオン様も十分気をつけてくださいね? 体調管理もそうですけど」「はい」苦笑いで頷いておきながら、僕はその仮面の下で笑っている。
 僕は、犯人を知っている。
 けれど言わない。言っても僕に得はないし、僕が脅かされるなど、導師守護役に常に護れられている立場からすれば本当に関係のない話だった。
 そんな話よりも、僕にはもっと重大な、考えなくてはならないことがある。
 シンクだ。彼がまた彼女のもとに現れた。今ならまだ間に合う、ダアトを離れろ、と詰め寄ったらしいのだ。これは重大な事実だ。見過ごせない。何か対策を考えなくてはならない。たとえば…彼に仕事を押しつけてダアトから離れさせるというのはどうだろうか。シンクに振れるだけの仕事がこの書類の中に紛れていればいいけれど。
 手慣れた作業のように書類に目を通して導師直筆のサインをする。その中でちょうどいい魔物退治の任務があり、シンク率いる第五師団を指定した。
 唇の端が薄く弧を描く。
 ヴァンがよほど渋らない限り、これで彼も動くだろう。
 …僕とを引き離そうとするものなど、全て、僕が壊してあげよう。
「アニス」
「はぁい」
「ホットミルクが欲しいんですが…お願いできますか?」
「もー。分かりましたぁ、行ってきますぅ」
 頬を膨らませたアニスが部屋を出ていく。僕は席を立ち、窓辺に歩み寄った。
 この時間彼女がここから見える場所の掃き掃除をしていることは知っている。今日も、寒そうに凍えながら箒で枯葉を蹴散らしている。
 ガラスに触れた指を滑らせる。ギギ、と爪を立てながら。薄く笑いながら。
 あと何人壊せば彼女が離れがたいと思う環境を作れるだろうか。導師守護役の数を減らすのは僕だって本意ではないけれど、彼女にとって居心地のいい空間にするためだというなら、致し方ない。あと、二人ほど、潰そうか。

 元気が取り柄で、嫌がらせも笑顔で応じて跳ね返す君の強さ。押しつけられた仕事でもちゃんと遂げようとする真摯な姿勢。仕事柄おしゃれができないと分かっていつつもピンやリップに努力の色を見せるところ。極めつけはその笑顔。
 僕は、君の全てが好きだ。
 制服のニーソを穿くときは常に左から。靴を履くときも左。手袋も左から。
 食堂で一番好きなメニューはマーボーカレーと男勝りで、甘いものが苦手。スタミナのつくものが好きで、どちらかというと頭よりも身体を使うことが得意。
 髪の癖が強く、一度跳ねるとなかなか直らないのが悩み。その都度ピンで止めたり髪を結んだりして誤魔化している。
 ローレライ教に心酔しているわけではなく、外れない天気予報などを便利だと思っている程度。親が重度の信者のせいか教会に対してどこか冷静な面を持つが、導師である僕には素直な顔を向け、疑うことはない。
 基本的な情報から本人が気付いていない癖まで、他にも色々知っている。洗顔剤、シャンプーとリンスの銘柄、苦手だと思っている先輩導師守護役、今日の下着の色まで、幅広く。彼女について知らないことはないだろうと言ってもいいくらい。
 それは、なぜか。
 そのために五人ほど出世を仄めかして懐柔した人間がいる。僕が預言という言葉を使えば彼らは喜んで僕が命じたことを引き受けた。僕がアニスに付き纏われている間は彼らが彼女の行動を逐一メモし、報告するのだ。穴はない。が宿舎に帰るまでの時間は常に把握している。そう、知らないことはないくらいに。
「イオン様ーお待たせしましたぁ」
 帰ってきたアニスに、僕はすでに着席して書類に羽ペンを走らせていた。顔を上げて「ありがとう」とアニスの手からあたたかいマグカップを受け取り、ふー、と息を吹きかける。
 この一息で邪魔な人間全てが吹き飛ばせたら楽なのに、と思いながらホットミルクを口にする。アニスが気を利かせたのか仄かにはちみつの味がする。
 ふー、と息を吹きかけてもう一度マグカップを傾けてから仕事に戻る。
 今日の仕事を終えてアニスが帰ってからしか報告は聞けない。今日のは何色だろう。一昨日は強気な紫、昨日は大人しめなピンク。今日は、青、辺りかな。
 フォン、と足元に白く発光する譜陣が出現する。ブツブツと口の中で言葉を唱えながらその辺に売っていそうな安っぽい杖の先を遠くの対象に向け、エナジーブラストを発動。小さな光を暴発させてダアトの街から宿舎へと足取り軽く帰る途中だった導師守護役を譜術で襲う。
 光の爆発。鈍い悲鳴。
 僕の口元は薄く笑っていた。
 今は導師の仮面を纏っていない僕の素の表情を、僕だけが知っている。
 とっさの防御もできずに爆発にされるがままなぶられて倒れた導師守護役に、あれでは側近に置く価値もない、と杖を下げる。若干の抵抗はあるだろうと想像していたのに拍子抜けだ。
 予め描いておいた譜陣でフレイムバーストを発動、炎に呑まれた杖はあっという間に燃えカスになって、これで証拠も消えた。
 くるりとその場に背を向けて教会に戻る。道すがら、彼女がいるはずの宿舎のある方角へと目を向けた。
 これで、君を虐げていた人間は消えた。
 導師の微笑みを貼りつけた顔で教会へと戻ると、シンクと鉢合わせした。僕はすぐに隣をすり抜けたけれど、「待ちなよ」と同じ種類の声をかけられ、仕方なく足を止める。
「何か?」
「僕を飛ばすように書類書いたらしいじゃないか」
「思い違いです。あなたが適任だと判断しただけですよ」
 あくまで穏やかに導師の顔を崩さずにそう言い切って振り返ると、シンクは僕を睨んでいた。仮面の向こうの翡翠の瞳に睨めつけられて十秒ほど経った頃、「アンタの方がよほど欠陥品だ」と吐き捨てて外へと出ていく背中に、薄く笑っている自分がいる。
 欠陥品。
 そうとも。レプリカなんてその程度の存在だ。だからこそ固執する。手に入れたもの、手に入れたいものに己の場所を探す。
 僕は、が欲しいのだ。
「最近、なんだか物騒なんですよ。知り合いだった神託の盾兵の人が誰かに襲われて大怪我をしたっていうのもそうなんですけど…昨日先輩が譜術で襲われたらしくて。愉快犯にしては、神託の盾は手をこまねいてるし……イオン様、近辺に変化などありませんか? 十分気をつけてくださいね?」
 どことなくそわそわしているにイオン様と言われたことで、僕の気分は高揚した。いつもの顔で「ありがとうございます」と笑いながら、彼女は僕を心配する気持ちの傍ら、抱えている不安を吐露したいのだろうと考える。
 君を怖がらせることは本意ではない。けれど、これは君が望む環境のために必要なことなんだ。我慢してほしい。いずれ去る嵐だから。
 寒さが身に堪えるようになってきた、吐く息が凍りつくような朝でも、僕らは逢瀬を続けている。
も、何か気がついたことがあったら、僕に言ってくださいね。これでもローレライ教団の最高指導者ですから、何か力になれるかもしれません」
「あ、はい。ありがとうございます…」
 ほっとしたように息を吐いた彼女が笑うと、抱き締めたくなる。その顔を切り取って大事に保存したくなる。二度と色褪せないように、僕以外に笑いかけないように、誰かの目に触れないように、僕の部屋の寝室に飾ってしまいたくなる。
 その欲望をぎゅっと抑え込んで、今朝も彼女と別れた。
 アニスに急かされて今日一日を過ごし、眠る前に今日の彼女についてを五人から報告を受け、明日の彼女を想像しながら眠りにつく。
 彼女に気を寄せて馴れ馴れしくしていた兵士の一人を道端に転がす。一ヶ月は仕事に復帰できないだろう重傷を負わせた。
 導師守護役の短いスカートに常に目を光らせていた兵士一人が彼女にセクハラを働いたため、こちらは厳重に処分。彼女のスカートをつまんだその手が両方機能しないように潰してやった。
 せっかく整理したのにまた彼女をこき使う導師守護役が出てきたため、夜道で譜術で襲って処分。吹き飛ばしたときの打ちどころが悪く、まだ意識が戻らない。
 それから、教会にいつも礼拝に来る信者の中に卑しい目をしている奴がいる。
 食堂のカウンター越しに視姦している奴がいる。
 その全てを僕が屠る。考えられる限りの手段を用いて、迅速に、容赦なく、叩きのめす。
 まずは物理的に。それでも懲りなかった場合は心理的にも破壊する。
 全ては、、君のために。そして、僕のために。
 ダン、と音を立てて教壇に手をつくと、背中を震わせたが小さくなった。

「…イオン、さま?」

 僕のことを呼んだその声が掠れている。
 おおよそ僕と彼女の仲は平穏であり、僕が我慢できなくなって彼女を拉致することもなければ、彼女が僕から離れることもなかった。
 当然だ。僕はそのために色々なことをしていたのだ。君が僕から離れるなんて、そんなこと、許されるはずがない。
 それなのに。昨日の報告で、僕は信じられない話を聞いた。シンクとが逢い引きしていたという情報を。人目を忍んだ中庭の隅で楽しそうに笑い合っていた、と。
 相手が他の誰かならまだよかった。制裁を下すだけですんでいたろう。けれど、シンクだ。彼が一般兵士の目をかいくぐることなど容易。教会内での接触が無理だと判断すれば宿舎に行くことさえ厭わないだろう。やると決めたら彼はどんなこともやる。
 その彼に、唾をつけられていたとは。それについ昨日しか気付けなかったなど。
 ああ、頭が沸騰しそうだ。

。シンクのことは真に受けてはいけないと、あれほど言ったでしょう。彼は人を惑わして騙すのが楽しいんです。あなたは騙されているんですよ」

 諭す口調で語りかけると、彼女は頑なに頭を振った。教壇に背中を押しつけ、顔を寄せた僕から逃れるようにそっぽを向いて、「あの人、いじわるだけど、そういう人じゃないです」とあろうことかシンクのことを庇う。機敏な彼女は僕の手から逃れて教壇の陰から飛び出し、礼拝堂の出入り口である両開きの扉の方へと走っていく。「ごめんなさいイオン様っ」と残して。
 それを、僕が許すはずがなかった。
 普段の使用を禁止されているダアト式譜術で扉を施錠する。
 ふらりと立ち上がって、ガチャガチャとノブを回す彼女を眺める。「開かない」と焦った顔をして僕を振り返る彼女の表情はどこか硬い。
 僕がこれだけ親身になって、陰で手を回してきたというのに。あろうことか、僕と同じレプリカのシンクに意識を向けるなど。あっていいはずがない。
 かつ、と一歩踏み出す。音叉の杖の先を向けて第一譜歌を唱えると彼女は反応した。その場を飛び退った、その足元に黒い闇が生まれるが、逃した。さすが、体力に自信があるだけはある。「イオン様っ」と悲痛な声を上げた彼女は次の攻撃もかわし、その着地を誘導して扉から引き離す。ダアト式譜術はそう長く発動はしていられない。僕の体力が尽きてしまう。その前にを捕らえて、もう、離してあげない。

「なぜです? なぜシンクなのですか? 彼を選ぶというなら僕でもいいでしょう?」

 顔も声も、姿形は同じレプリカなのだから。
 かつ、と一歩踏み出す。彼女のブーツの先をナイトメアが掠った。あと少しだというのに捉えきれない。

「私っ、別に、選ぶとかじゃ…! ただ、イオン様が言うような人には思えないから、もう少し仲良くなりたいなって…!」
「それが駄目だと言っているんですよ」

 黒い闇が着地した彼女の足元に這い寄った。ぞわりと足を這い上がる闇にが短い悲鳴を上げたとき、見覚えのある影が素早くナイトメアから彼女を救いあげた。
 憶えのある仮面。僕とをこんなふうに追い込んだ張本人。

「シンクぅ!」

 僕の矛先は自然とシンクに向いた。ナイトメアだけで彼に対抗できるとは思っていない。使える譜歌とダアト式譜術の全てを用いてでも彼を葬ってやる。
 ち、と舌打ちしたシンクがを柱の影に押し込んでから跳んだ。その軌跡を光の槍が追いかけ、最終的にシンクの着地を追いかけて床を貫いて止まる。彼は間一髪で光の槍をかわしていた。
 はぁ、はぁ、と肩で息をしながらも、僕の意識は燃え盛っていた。
 そうだ。そうだった。なぜシンクを始末しなかったのだろう。もっと早く、が彼のことを話したときに手を打っていれば、こんなことには。

「アンタどうかしてる。アイツのこと好きなら素直にそう言えば?」

 吐き捨てるようにそう言ったシンクが突っ込んでくる。接近戦の体術が得意な彼に肩で息をしている僕は不利だけれど、防御技がないわけでもない。第二譜歌で小規模のフォースフィールドを展開、拳を打ち出してきた彼の一撃を防ぐ。
 光の壁とバチバチと競り合った彼が、続けざまに拳と蹴りを繰り出し、弾かれて跳ぶ。疾風のごとく。その名は伊達ではないということか。

「好き? ええ、大好きですよ。愛してる。永遠に寝室に縛りつけたいくらいにね」

 音叉の先を向けて彼の着地する地点にエナジーブラストを発動させた。集中力が途切れてきているせいか威力が弱い。防御の姿勢を取っていたシンクが着地と同時に僕へと突っ込んでくる。
 瞬間、僕は笑った。
 報告であなたの名を聞いたときに準備しておいた。あなたが来るだろうと思っていたから、仕掛けておいたんだ。ここに。

「ホーリーランス」
「、」

 詠唱破棄した僕にシンクが上を見上げる。
 全てはスローでもあり一瞬でもあった。
 あらかじめ描いておいた譜陣が僕の言葉によって発動、出現した光の槍が八方からシンクを貫いた。
 遅れて聞こえた彼女の悲鳴。
 カラカラ、と転がっていく仮面が赤い色を引きずって軌跡を描く。
 はー、はー、と肩で息をして、音叉を杖にして身体を支えながらも、僕はまだ立っていた。
 比べて、シンクは光の槍に貫かれて力なくうなだれ沈黙したまま、赤い色を垂れ流しながら、一言も喋らない。
 ふっと光が消える。ゆっくりと倒れた身体がどさりと重い音を立てたことで、僕の身体は緊張から解かれ、歓喜で震えた。
 穴だらけの身体。こぼれ出る臓器。弛緩して動かないボロ雑巾みたいな姿。
 やった。ついにやった。忌まわしい僕の影を葬ってやった。
 これで、もう邪魔者はいない。
 かつ、と杖を支えにしながら一歩踏み出す。揺れる視界で、柱の影で震えている彼女のもとへと、ゆっくりと、近づいていく。

「さあ、これで、君を惑わせるものはなくなったでしょう」

 どんどん広がっていく赤い染みが足元に達した。ぴしゃ、と音を立てながらまた一歩進む。両手で顔を覆って指の隙間からこの景色を凝視している君は、気の毒なほどに震えている。
 むせ返るような鉄錆のにおいが鼻をつく。
 大丈夫。その震えが止まるまで、僕が抱き締めて、ずっとそばにいてあげる。

「さっき、どさくさで、告白してしまいましたけど。僕、ずっとのことが好きだったんです。今も、大好きなんです。だから、色々してきたんですよ。たとえば、君の先輩を道端に転がしたり、仲良くしていた兵士を襲ってみたり」
「あ…」

 僕が何を言っているのか気付いた彼女の表情がさらに凍りつく。
 対して、僕は笑っている。導師の仮面を削ぎ落として、素の顔で、笑っている。
 シンクはもう動かない。そのうち音素乖離を起こしてこの血も消えてなくなるだろう。証拠隠滅。なんて都合のいい。

「何も心配しなくて大丈夫。僕のそばへ来なさい。僕は、ローレライ教団最高指導者導師イオンです。何でも叶えてあげますよ。何も不自由がないくらいに」

 かつ、と杖をつきながら震える彼女のもとに歩み寄り、その瞳を覗き込む。大きな瞳に映る自分は笑っている。笑っている。嗤っている。
 立っていることが辛くなって、その場に膝をつく。暗い柱の闇に淀んだナイトメアを忍ばせ、震えている彼女の意識を落とした。ゆるゆると目を閉じて傾いた身体を両腕で抱き寄せる。
 …ずっと、こうしたいと思っていた。
 ふわりと視界の端を舞った光の粒に視線を移す。シンクの身体が音素乖離を始めていた。僕に付着していた血も、仮面と服を覗いた全てが光の粒へと瓦解していく。その光がふわふわとここまで漂ってきていて、まるで、を彩るようだ。
 はぁ、と荒い息を吐き出す。力を行使したせいだろう。僕まで眠ってしまいたくなっている。
 愛しい君の眠った顔に唇を寄せ、初めてのキスをする。身体は疲れていたけれど、僕の心は今までにないほど高揚していた。これで、

「やっと、君が手に入る」

 シンクという邪魔者が消え去って、君という愛しい人が手に入って、僕は笑う。一人で笑い続ける。
 ずっと着てほしいと思っていた服がいくつかある。今度取り寄せてみよう。ケセドニアの民族衣装、一年を通してほぼ銀世界のケテルブルクの雪国の分厚い服。王族が着るようなきらびやかなドレスもきっと似合うだろう。
 モースを脅して、を僕の側近にさせる算段もしなければならないか。
 ああ、ヴァンもうるさいだろう。シンクを消してしまったから。まぁ、どうにか丸め込もう。
 視界の端を待っていた光の粒もいつしか消え去り、礼拝堂には僕ら二人だけが残っていた。そう、僕ら二人だけが。
(なんて、しあわせ)