マーン三兄弟の助けもあって、黒くただれた木々の森を悪魔の軍勢と戦いながらどうにか祭壇のある場所まで切り抜けた。
 もう一度この目で見ることになろうとは思わなかった、この黒い場所にはふさわしくないその白い祭壇を、僕は遠く見つめる。
「…魔王召喚のための祭壇だ」
 誰に言われる前にそう答えれば、仲間たちの目が祭壇へと向けられた。そしてそこに姿を現したバノッサへと。
「本当にここまで来やがったか」
 その鋭く冷え切った目から感じられる魔力が、ぴりぴりと周囲の空気を震わせているのを感じた。彼の傍らに立つカノンがやつれたように見えるのは気のせいではないだろう。けれどその瞳だけは以前と変わらず強い意志を宿しているのだけはここからでも分かる。彼は当の昔に覚悟を決めていたのだ。
 がりがりがり、とが何も言わずに剣を抜いた。思わず「?」と呼ぶも、彼女は僕の方を見ることなくただ一点、バノッサの持つ宝玉を見ている。
「滅する……」
 彼女の口から、彼女とは違う感じの声が響く。
 バノッサが歪んだ笑みを浮かべて「できるもんならやってみやがれ」と言って新たに悪魔を呼び出した。杖を構えてハミトンを召喚し、彼女につくよう指示する。彼女は迷いなくバノッサの方へと突っ込んでいった。そしてそれをカノンが迎え撃ち、鬼神の力を持つ彼と天使を宿した彼女との攻防が始まる。
「姉ごに負けてらんねぇな!」
 ジンガが勢いよく駆け出して、無色の派閥の部下へと殴りかかっていった。ガゼルがジンガの背後に斬りかかろうとしていた暗殺者に投擲して、寸分の狂いなく左胸を貫いた。レイドや他の騎士達が皆勇ましく剣を手に召喚師へと斬りかかっていく。仲間が戦いへ身を投じていく。
(ロティエルに…感化されているのか)
 ぎぃんと剣を振るってカノンと同等の戦いを繰り広げている彼女を見ながら、僕は他の仲間の傷や状態異常を回復したり、補助のためにコバルディアを召喚して憑依させたり。忙しなく周囲に気を遣いながら、それでいて意識は彼女の方と向いてばかりいる。
(必ずこの儀式を止めて、生きて帰る。そうして僕は僕として生きて、彼女と一緒にこの先もずっと生きていくんだ)
 召喚したハミトンが、背後から召喚師に襲いかかって丸呑みにした。それからもごもごと口を動かすとぺっと吐き出して顔を顰めてみせる。まるでまずいといわんばかりだ。召喚師の方はハミトンの中でどんな目にあったのか不明だけど、気絶していた。かなり好都合だ。はっきり言って、こちらの全勢力をもってしてもこの戦いに勝てるかどうか。
(もしも父上…オルドレイクが出てきたなら、必ず僕が)
 腰のベルトにさしてあるダガーの柄を人知れず握り締める。

 決着はつける。僕の父親が始めた狂ったこの計画を、息子である僕が止める。必ず。