例えこの身が呪われていようとも生きると決めたあの日から、世界はいつも色を失くしていた。それが普通だった。生まれた時からボクには明るい陽の当たる場所での生活など一切なくて、結局、最後まで光になるものはなかった。
 視界には一面の空。雲のない蒼い色。疎ましいくらいにすっきりとした空間の中に浮かぶ点に近い小さな譜石。その向こうに広がる見えない流れ。途切れることのないあの粒子の流れの中に、これからボクも還ることになる。あいつを追うように。
(導師イオンは死ぬ。だからその出来損ないであるボクもまた死ぬ運命…)
 ああくだらない。なんてくだらない。こんなくだらない生を受けてこんなくだらない理由で死ぬ。最早悲しくはなく苦しくもなく淋しくもなく、ただ、空しさだけが胸にある。
 じゃり、と靴音がして空にやっていた視線をずらせば白いブーツが見えた。その手にぶらさがっている人形で、相手が誰なのかを判断する。ひゅうと浅く息をして、吐いて、まだ生きている自分に反吐が出た。
「…シンク」
 耳朶を、掠れた声が打つ。それさえもう遠い音だった。空を映しているはずの視界から色がなくなっていく。ああやっとか、そう思って目を閉じようとしたとき、ぽたりと頬に何かが当たった。反射で瞼を上げる。視界に映ったモノクロの光景にぼんやりと意識を這わせる。
 導師イオンのお付きの導師守護役の泣き濡れた顔が見えた。嗚咽を押さえようと口を手で覆い隠してこっちを見下ろしているその瞳からまた雫が落ちる。もう聞こえない耳の代わりに動いた唇がなんて音を紡いだのか読唇術で解いて、それがシンクとボクの名前を呼んだのだと分かった。
(こいつ、何泣いてるんだろう。ボクはイオンじゃないのに)
 先に逝って待っているだろうレプリカのことを思って短く吐息する。瞼を上げ続けるだけの力は残っていなかった。もう抗わずに目を閉じて、何も見えない視界の中ただ楽になれると安堵する。

 それでもただ一度だけ、ああして導師ように振る舞ってみたいと思う心だけが、必要とされたレプリカの生を受けていたかったと思う心が、最後の力で唇を動かした。
 アニス、と導師守護役の名を呟く。
 声になったかどうかは分からない。多分これはボクの気紛れでただのお遊びだけど、それでも本当はアニスという導師守護役の少女が嫌いでなかった事だけは確かだ。
 もしボクがイオンの立場だったなら、きっとその反対の情を抱いていた。
(もう、全部、終わり)
 意識が白濁とする。何も考えられなくなる。全てが白くなって消えていく。

 最後は本当に白く白く何もない世界で、ボクは不幸せな者らしく不幸せな最後を迎えた。
 傍らにどこか、誰かの熱を感じながら。

あおい喪服




ええと、ごほん。やっと出来上がりましたシンアニです(多分 ああもう遅いよ遅い遅すぎるって言葉が聞こえてくるようですははは
すいません。しーぴーって興味あるの以外は書くのすんげく難しくて。しかもノーマル。ええ私には新天地でしたよ
ですが何とか無事完成。時間がかかりすぎた感たっぷりですが、そこは寛大なお心で見逃していただけると幸いです
時間かかった割りには短いとか、そこら辺も寛大なるお心で(以下略

ほんとに遅くなりすぎまして申し訳ないですレイハさんっ、こんなものでよろしければ貰ってってやって下さい