「わー見てこれ! ルピは誰より美しいってさ」
「ばか違うじゃない、若い者より美しいって出てるだけでしょ。っていうか何ばかなことしてんだよ君は」
 格言どうたらって無料サイトで名前を入れて結果を見るやつ。それでが嬉しそうな顔でそんなことを言うから僕はと言えば顔が熱くなる思いをする破目になるんであって、だから手を伸ばしてそのページを閉じてやろうと思ったら「やだーこれ保存」とか言ってがあろうことをその恥ずかしいことこの上ない格言とか書いてあるのを勝手に保存した。ばんとデスクを叩いて「ちょっと」と抗議するもはへらっといつもみたいに笑うだけ。
「…ちなみに君は?」
「俺? 俺ねーなんか情けないのが出たよ」
 最初の入力画面に戻ってと入力して診断のボタンを押す。
 画面を睨みつけて「やっぱりアテにならないよ。何これ」画面をべしと叩いた。表示されてるのは『明日、なにをすべきか分からない人はである』なんてでたらめな文章。でたらめすぎて笑えない。僕のは恥ずかしいことこの上ないやつだったくせにのこれはなんだ。やっぱりアテにならない占いなんて。
 だけどが笑って「よーするにあれだよ、ルピがいないと俺は生きていけない的な?」とか言うから。だからふんとそっぽを向いて何をそんな大袈裟なこととか思って。
 じゃあたとえばこれの表示が逆だったとして、僕が明日何をすべきか分からない人だったとして。それがのいるいないで当てはまる何をすべきか分からないなら、確かにまぁそれはそうかもとか思ったりした僕も大概ばかで。
 それで、いるはずない第三者の手が伸びて「貸せ」と声が聞こえて。その声にかちんとくる。だってこの声は、

「ジオ」
「勝手に入った。いるだろうと思って」
「ああうんいいよ。ってジオもやるの?」
「悪いか」
「別に全然」

 勝手に会話が進む。じろりと見やればを挟んだ向こう側にあいつがいる。あいつも僕を一瞥してふんとそっぽを向いた。だから僕だってふんとそっぽを向く。
 これは所謂三角関係ってやつなのだ。
「ジオはー、あの時、未来は光り輝き、ジオは永遠だと思った。だって」
「ほー。あの時っていつだ」
「さぁ」
 僕をスルーしての会話にイラっとしてがしとマウスを掴んだ。の手の上からマウスポインタを×ボタンまで持っていってぶちとその格言メーカーなるページを閉じる。がどうしてか残念そうな顔で「あ、今の保存してないのに」とか漏らすから「いらないでしょそんなの」と返してじろとその向こうにいる相手を一瞥する。目が合った。ばちばちと無言で火花が散る。
「あーはい分かった分かったやめます閉じます、だから喧嘩しないでよ」
 参ったの声を上げたのは。ぱたんとノートパソコンを閉じて僕とあいつの頭を撫でて「ね、喧嘩しない」と困ったみたいに笑う。
 本当なら。これはきっと浮気ってやつになるんだからのことなんてほっぽってばかって出て行けばいい。君なんてもう知るか浮気するなんてひどいって罵倒して蹴飛ばして出て行けばいい。だけど僕にそれはできなかった。できたら、きっと僕はを選んでない。
 それにそれは相手も同じ。だからどっちも譲らない。途中から割って入ってきたのはあいつなのに、は誰にだって優しいから。そんなこと僕だって分かってるけど、理解するのと受け入れるのは違う。差がある。僕はあいつを受け入れることなんてできない。だってあいつは僕からを取り上げる奴なんだから。
「二人ともー、睨み合いしてないでおいでってば」
 それでの声に呼ばれてふいと視線を外した。「今日の夕飯手伝って」と言われて渡されたエプロンに「何作るの?」と返す。一人暮らしの狭いキッチンには二人立つのだって狭いのによりにもよって三人目まで入ってくるからもう狭くて仕方ない。「はいジオはこれ」と僕と同じくエプロンを手渡されたあいつは「何にすんだよ」と愛想のない声で言う。
 もしもこいつと僕で共通してるところが一つでもあるとするのなら、それはに対しての想い。それくらい。
「えーとね、こないだお店で出たミネストローネが美味しくてね。真似したいなーって思ったんだけど」
「真似って…君料理下手じゃない」
「そこは言っちゃいけません。ルピとジオがカバーしてくれるからいいもん」
「…で。材料は?」
「あー、真似したいなーってだけで大雑把に色々集めてみたんだけど。とりあえずこんな感じ?」
 それで三人でを通しての会話で、僕は渋々のために料理するんであって。でも包丁は二本ないからやっぱりあいつと目を合わせて無言での小競り合いが勃発するわけであって。
「僕がやる」
「俺がやる」
「毎日自分でお弁当作ってる僕の方が絶対料理上手い」
「俺は趣味で包丁握ってんだ、弁当レベルのお前と比べられたら困る」
 それで。ばちばちと小競り合いする僕らの間に割って入るのは決まってで。「あーもう二人とも喧嘩しないでってば! ほら陽が暮れちゃうよ、夜になったら二人とも帰るんだから」という言葉にふいと顔を背ける。
 泊まってってもいいかなとか考えてたのに君から駄目だしすることないのにとか、思ったりして。だけどどのみちあいつがいるならまぁ無理になるだろうとは予想してたから、だから僕は口を噤むわけであって。
 仕方ないからのために妥協して共同作業の調理。は怪我ばっかするからキッチンからは追い出した。食器の準備とかパンの買い出しとかそっちに行かせた。
 だから、いるべき人のいないその部屋で。二人人がいるにも関わらず始終無言っていうのもなんか気持ち悪いなと思いながらことこと煮込こまれるミネストローネの味見をする。
(…悪くはない。かな)
 だからちらりとあいつを見やる。サラダの方を盛り付け終えたあいつがこっちを見てばちと目が合って。すぐに視線を逸らした。会話することもないけどないのもないで気持ち悪い。
「…お前」
「、何」
「あいつとどれくらい付き合ってる」
 ぶっきらぼうな突き放すような声にやっぱり愛想ないとか思いながら「さぁ。君こそいつからにちょっかい出したんだよ」と返す。相手はふんとそっぽを向いた。やっぱり愛想ない。
「知るかよ。気付いたらってやつだ。俺だって自分で不思議に思ってる」
「不思議に思ってるくらいならに近付かないでよ。僕はのこと本気で想ってるんだから」
 だからちょっとかちんときて本音をぶつけた。だんとサラダの入ったボールをテーブルに置いたあいつが「うるせぇな、それが出来たら俺はここにいねぇよ」と棘のある声を出す。だから僕はかんとおたまで鍋を叩いて「僕はのこと愛してるんだ、君みたいに横から入ってきた奴に邪魔なんてされたくないんだよ」と言えば「てめぇ」と低い声。だけど撤回はしなかった。だってそれが僕の本音だ。

 殴り合いになったら絶対僕が負けるだろう。だけど曲げたくなかった。は僕のもの、僕はのもの。それだけだったはずなのにいつの間にか第三者がいて部外者がいて、ジオって奴がいて。僕からを取り上げた。
 僕は必死でに手を伸ばしてその手を奪い返す。その繰り返し。いつからこんな泥沼みたいなことになってしまったんだろう。気付いたらって表現が一番妥当だとは思うけど、だけどどうしては。

 そこでがちゃんと音がして「ただいまー」と声がしたから、それまでぎすぎすしていた空気が澱んで消えた。ぱたぱた玄関に寄って行けば「雨に降られちゃった」と前髪をかき上げたが困ったみたいに笑ってみせたから、だから僕はちょっと濡れたにぎゅうと抱きついて「遅いよ」と漏らす。僕の髪を撫でる掌はいつも通りで「ごめんね、でも帰ったから」という言葉にぎゅっと目を閉じる。
 この人じゃなきゃ駄目だなんて、きっと思い込みで。この先生きていけばもっと違う誰かに出会えるかもしれないし僕をもっと幸せにしてくれる人とかにだって会えるのかもしれない。
 だけど僕はがいい。でないといやだ。だから絶対にこの人は譲れない。他の何を取り上げられても、この人だけは。
(君がいなくなったら、僕は)
 考えるだけでも寒くて恐ろしくて、僕はその思考を強制的に遮断した。

愛してると言って
(僕にだけ 愛してるといって)