あなたに、僕の全てを捧げる

 『花選び』と呼ばれる、金持ちの道楽がある。
 選ばれる『花』は芸を生業とする少年。彼らは財界人が集うパーティに参加して自らの芸を披露し、その芸の支援者を探す。それを『花祭』と呼ぶ。
 金を持て余す者達は好みの『花』を選んで傍に置き、その芸の精進のために惜しみなく投資する。そんな彼らを『花主』と呼ぶ。
 …そんな建前を掲げられた、そこはただの花街で。お金のない若者が貴族に支援を乞い、その身を売る、ただそれだけの場所だった。
(今日も売れ残りか…)
 はぁ、と息を吐いて肌触りの悪い木椅子に腰かけた。ぷらぷらと足を揺らす。
 夕陽が斜めに差し込む場所では全てが赤く染まって見えた。建物も、人も、あるもの全て。
 僕の他に残っている子はもう今日は無理だろうと諦めて早々にどこかへと引き上げ始めていた。
 暗くなる前に、僕も身を潜めた方がいいだろう。ただでさえ身を売る行為をしているのに夜はろくでもない連中までやってくる。お金も権力もない連中に売ってやるような身体は持ち合わせていない。ここにいるみんなはお金がなくて困っているからここまでしているのだ。誰にでも何でも許すわけじゃない。
 はぁ、ともう一つ息を吐いたとき、ずっと向こうの方を整ったスーツの足元が行くのが見えて、ちらりとだけ視線を投げた。スーツ姿の見るからにお金持ちの人の隣には何度か話したことのある子がいた。にこっとした笑顔でスーツのおじさんと話をして、この花街を離れていく。
 その目が一瞬だけ僕を見たけれど、すぐに逸らされた。スーツのおじさんもおじさんで、彼が僕を見たことに気付いて僕の方に視線を移した。僕は全力で顔を伏せたけれど、多分、見られた。
「なんだ、あの子の目の色は」
 …嫌悪と、忌避と。様々な忌み嫌う意味を含む声に、耳を塞ぎたくなる。
 彼は僕への言葉に否定も肯定もせず、ただスーツの手を引いて「早く行きましょう」と笑うのみ。
 そうしてその子はスーツのおじさんに買われてここを出て行った。
 歪んだ、関係だ。僕ら、花と花主は。お金と欲でつり合っている関係。花に力はなく、花主はより気に入る花があれば持っている花を枝を切るように落として手離し、新しい花を傍に置く。そんな希薄な関係でしかないのに、僕らはそれに縋るしかない。頼るしかない。自分を売るしかない。そうしてしか生きていけないから。
 ぺたり、と自分の視界に掌で蓋をした。
 さっきのスーツの人の責めるような声が耳を離れない。
 ……僕がこの国の子供ではないから。異人だから。だからみんなが嫌う。せめて瞳だけでもこちらの色をしていたら僕だってもう少し売れたろうに、僕を買うのは誰でもいいから売れ残りを探すような鬱憤を晴らしたい人か、よほどの変わり者だけ。
 せめてこの瞳が。違う色をしていたら。こんな紫じゃなかったら。そんなふうに自分を責めていると、下駄とは違う地面を歩く音がした。きっとまたスーツの誰かが僕でない誰かを連れてこの花街を出て行く音だ。僕には届かないその音に耳を塞ぎたくなったとき、その足音が、だんだんと、こっちに近づいてくるのが分かった。一瞬淡い期待が浮かぶ。でもそれもすぐ消え失せる。きっと僕の目を見たら顔を顰めてなかったことにするんだ。そうに、決まってる。
「ぐあいが悪いの?」
 足音は僕の前で止まり、若い声が降ってきた。花祭は貴族のお遊びだからだいたいお金を持て余す年配辺りの人が来ることが多いのだけど、この声は本当に若かった。僕より少し上か、下手したら同じくらいの。
 視界に蓋をしていた掌を離して、そろりと見上げれば、突き刺さるような眩しい斜陽の中、スーツを着崩した人の姿が見えた。
 眩しさに慣れない視界でじっとその人を見上げると、声から想像できる通りに若かった。僕より少し上。それくらいだ。
「どっか痛い?」
 しゃがみ込んで僕と目線を合わせたその人は、僕の目を見ても気味悪がることもなく、嫌がることもなかった。花祭に来ておきながらお決まりの言葉も言わない。普通、買うよとか、かける言葉なんて決まってるようなものなのに。
 久しぶりすぎて若干掠れた声で「ボクを買ってください」と言うと彼はきょとんとした顔をした。すっくと立ち上がって木椅子に乗ってそれを舞台と見立ててすっと息を吸い込む。彼の意識が僕に向いているうちに僕の芸を披露して、彼に買ってもらわなくては。
 だけど、それだって気に入るかどうか、と不安に苛まれながら、僕は歌った。異国の唄を。この国の人にとっては馴染みのない言葉で、馴染みのないだろう曲調を、渇いた喉で、少し掠れた声で歌った。
 彼は黙って僕の歌を聞いていた。黙って、真剣に、僕の歌を聞いていた。
 短い一曲を歌い終え、木椅子の上からそろりと彼を窺う。彼はぱちぱちと拍手をして「すごい、聞いたことない歌だけど、上手だ」と僕に笑いかけた。
 これは脈アリかもしれない。この人が僕の花主になってくれるなら僕だって満足だ。たとえ一時だけの花と花主の関係でも、この人なら十分だ。構わない。
 期待で胸が高鳴ったとき、「」と厳しい声が飛んできた。その声にスーツの彼が僕の向こうに視線をやって「父さん」とこぼすのを聞いて、僕はそろりと背中側を振り返った。見るからに厳格、堅物そうな人がこっちを睨んでいる。
「夕暮れには引き上げるといったろう。どこをふらふらしてた」
「ああ、ごめん。色々見てたから」
 じゃ、と一歩踏み出した彼が僕の横をすり抜ける。
 だから。ああ、お父さんに連れられて初めて花祭に来ただけの人なんだ、と落胆したとき、僕の腕を彼の手が掴んだ。え、と思ってる間に木椅子から下ろされて「ねぇ父さん、俺この子が欲しい」と言った彼をぱっと見上げる。今の彼の言葉に、期待しない花の子がいたら会ってみたい。
 眩しい斜陽が突き刺さる視界の中、彼は真剣な眼差しで堅物なお父さんを見ていた。僕はおずおずとその横顔から怖そうなお父さんへと視線を移す。

「…その花はどんな芸ができるんだ?」
「歌えるよ。それにほら、すごくかわいい」
「お前が見学したいと言うから連れてきただけの花祭だぞ。花を持っていいとは言っとらん」
「分かってるよ。その分成績で返す。父さんの望みだろ?」
「……花の面倒はどうする。俺は師なぞつけんぞ」
「俺がする。自分で考えるし、自分でやるよ」

 痛いような沈黙と突き刺さる視線に、どうにか怯まないで立っていると、やがて彼のお父さんは諦めた息を吐いて「好きにするといい」と言ってざくざくと歩き出した。
 ふっと息を吐いた彼が僕を見てにこっと笑いかけた。「だって。よかった、許可が出た。俺はっていうんだけど、君は?」「…ルピ、と言います」「ルピ?」名乗ればこれもまた目と同じで意味嫌われることが当然だったけど、彼は、はそうでなくて、「かわいい名前だね。似合ってる」と言って僕に笑う。
 それが、僕が花祭という花街から離れた日の、僕に花主が出来たときのこと。
 誰かに手を引かれてあとにする、花祭の場所を振り返る。
 斜陽に照らされるそこは地味でも華やかでもない建物が集まる場所で、長く、僕が留まっていた場所でもあった。
「ルピ?」
「、行きます」
 引かれた手に慌てて隣に並ぶと、彼は首を傾げた。「あの場所がいい?」と言われてぶんぶん首を振る。
 もうあんなところはごめんだ。できれば二度と戻りたくない。
 だけどあなたが僕を手離すときがくれば、僕はまたあそこに戻る。嫌だけど。
 ふるりと震えた僕に彼は傾けた首を戻して僕のことを緩く抱いた。そうきれいな身なりではないのに、躊躇わずに僕を抱いて、「大丈夫。ルピのこと切り落としたりしないよ」と言う、その声を、真面目に受け止めたわけではなかったけど。僕はきっと、その声を信じたかったのだと思う。だから手を伸ばして彼のスーツの袖を握ったのだ。どうか手離さないで、切り落とさないで、と願ったのだ。
 連れて行かれた彼の屋敷は中の上という位で、大きすぎることもなければ小さいということもなく、要するに貴族の中でも中位の位置なのだろう、と思わせた。
 のお父さんは早々に自室へと引き上げた。その傍らに花のような存在はなく、僕はセツナに手を引かれながら屋敷の渡り廊下を歩いた。
「あとで案内してあげるね。今日はもう遅いし、お腹も空いたろ? お風呂もあるし、着替えもいるね」
「…あの」
「うん?」
 こっちを振り返る彼には情欲で満たされた獣の瞳はなかった。どうやら彼は本当に、僕を花として扱い、養い、育てる気でいるのだ。
 …汚れた僕にはなんだかもったいないな、と思いながら、小さく「買ってくださって、ありがとうございます。花主様」とお決まりの文句を言うと彼はきょとんとしたあとに困った顔で笑った。
「んー、そういうのはな。俺のことはってふつーに呼べばいいよ」
「…駄目です。あなたは、ボクの花主様ですから。せめて様とお呼びします」
「んー…ルピがそうしたいならそれでもいいけど」
 困ったように笑った彼は、僕を自室へ連れて行った。箪笥の引き出しからあれこれ着替えを探す彼をぼんやり眺めて、その部屋を観察する。
 今日から彼が僕の花主なのだから、ちゃんと花主になってくれる人なのだから、僕は彼のことを理解しなくては。そのためには彼の部屋の観察も、好きなものも、嫌いなものも、全て知らなくては。
 あれこれ探した挙句、彼が僕の肩に当てたのは女物みたいな桃色の着物だった。
「お、サイズがちょうどよさそう」
「…これは?」
 どう見ても女物。でもきれいな桃色だ。いいな、とそっと指先で着物の生地を撫でると彼は笑って「きれいな色だなぁと思って買ったはいいんだけど、俺が着ても似合わないだろ? ルピなら着ていいよ。きっと似合うし」「…そう、でしょうか」「そうだよ」やんわり笑いかけられるともう二の句が継げず、僕は黙ってこくんと頷いた。
 お腹の減りよりも花としての見かけが気になった僕は、先にお風呂に入りたいと申し出た。彼は快く了承してくれた。
 湯浴みだけでも十分だと思ったのにバスタブのあるお風呂に案内されて、「使い方とか分かる?」と首を傾げる彼に僕は困ってしまった。
 来たばかりの花に、湯浴みでも命じればいいのに、ちゃんとお風呂に入れようとする。その優しさがちくりと沁みた。
 分からない、と首を振ると彼はうーんと腕を組んで悩んだ挙句、「いっそ一緒に入ろうか」と笑った。僕は何とか笑ったけど、全然、笑い事じゃあなかった。
 彼がスーツを脱ぐ傍らで僕の心臓はとくとくと速く脈打ち始め、脱ぐ、という行為に対して今までしてきた汚い自分のことを思い出して、にとても申し訳なくなった。
(ボクは汚い花なんだ。全然かわいくなんてないんだ。汚いことたくさんして生きてきたんだ。あなたみたいに笑う人に似合う花じゃないんだ)
 どうにももたつく僕の袴の腰紐を、彼の手が解いた。しゅるりという音のあとにばさりと呆気なく袴は落ちて、僕は自分の体温が上がっていくのを感じながら、なるべく意識しないように、手を引く彼に従った。
「こういうお風呂初めて? つか、俺んちも最近これになったばっかでさ。今でも結構使い方間違えたりするんだ」
 彼が笑う。屈託のない顔で僕に笑いかける。僕はその笑顔を見上げる。「難しいのですか?」「憶えれば大丈夫。ルピ一人でも使えるよ。えっとね」僕の手を離した彼がきゅっと栓を捻る。「こっちがお湯、こっちが水。栓の赤と青の色で憶えて」「はい」「お湯だけ捻るとあっついから水混ぜて調節してね。で、これ。これ捻ると上についてるシャワーの方が出るんだ。気分で使い分ければいいから」「はい」ドボボボとお湯を吐き出す大きな口を眺めて、手を引かれてバスタブの中に足を入れた。お湯に浸かるのは少し久しぶりで、熱い温度が肌に沁みた。
 広いバスタブに浸かってほうと息を吐く。肩の力を抜くと、向かいにいる彼がふっと笑みをこぼした。
「やっぱり緊張してた?」
「…はい」
「今も?」
「…少しだけ」
「そっか」
 ばしゃっとお湯で顔を洗った彼が「ふいー」と声を出してだらっとだらしなくバスタブの中で伸びる。僕はなるべく彼の身体を意識しないようにお風呂場を観察した。物の配置とさっきの説明をまるっと憶えてしまえるくらいには、彼以外に意識を傾けた。
 けれど、「身体洗おうか」と言われるともう意識を他へ持っていけなくなった。
 自分でやると言ったけれど、背中は洗いにくいからと言って、彼は僕の背中を洗ってくれている。
 どうか気にかけないで、見つけないでと願うのに、神様、と願ったのに、彼の手が少し止まった。そしてもう片手が、その指先がついと僕の背をなぞる。
「これ、なんの跡?」
 びくんと身体が跳ねた。「な、何でもないんです」と言ったけど声は上ずっていた。そして彼は、疑問を口にしてから気付いたように笑った。
「ああ、そうか。ルピは花だもんね。俺以外にも花主がいたんだよね」
「……はい」
 小さく返事をした僕に、少し寂しそうな声で、彼は笑って、それ以上は何も訊かなかった。
 身体の泡をお湯で洗い流し、今度は彼の背中をタオルで擦りながら、僕は泣いていた。唇を噛み締めて泣いていた。
 責めてくれればまだ楽だったのに。僕だって好きでしてきたんじゃないって言い訳できたのに。そんなふうに寂しく笑って納得されたら、僕は、優しいあなたに申し訳が立たないのに。
 同じように、情欲で僕を抱くのなら、諦められたのに。あなたも所詮その程度の男なんだって諦めて、快楽のことだけを考えることもできたのに。
 どうして優しいの。どうしてそんなふうに笑うの。汚い花である僕にどうして。
「とりあえず今日は俺の部屋ね。明日になったらルピの用意色々するから」
「はい」
 お風呂のあと夕ご飯を食べて、彼の部屋に行き、布団一式を一つ出してきて並べて敷いた。
 今日は色々な情報を頭に詰め込んだから僕も疲れていた。けれど、電気を消して布団に入って、が「ねぇルピ、何か歌ってよ」と言うなら、花である僕は花主の願いを叶えなくてはならない。
 起き上がろうとしたらぱしと手首を取られた。「いいよ、寝たままで。俺に聞こえればそれでいいんだから」と囁かれて、そろりと布団の中に戻る。
 握られた手首が熱い。
 熱さからお風呂のことを思い出した。こんなときに。
「では…子守唄を」
 断ってからすっと息を吸い込んで、馴染みでないだろう子守唄を歌った。自分の心を落ち着けるためにも。
 彼は黙って僕の歌を聞いていた。僕の歌を聞きながら枕にもふりと頭を預けて、手首を握っていた手が僕の掌を這い、指を絡めて握り締めてくる。
 僕を抱く手ではない。身体を貫く熱はない。痛みもない。荒い息遣いも、嫌な吐息も、何もない。
 ただ、優しさだけが。ここにある。
「ルピ?」
 途切れた歌に、彼が僕を呼ぶ声が聞こえる。どうかしたのかと問う声が。
 その声に責める色はなく、ただ純粋にどうしたんだろうという疑問から僕を呼ぶ声が。僕には優しすぎて。僕は、また泣いていた。
 ひっく、と嗚咽を漏らす僕にが枕から頭を浮かせる。「ルピ? 泣いてるの?」と言われて僕は何度も頭を振った。泣いてなんてない、と、嘘を吐いた。すぐにバレる嘘だった。事実、彼に強く手を引っぱられて顔を寄せられたら、僕が泣いていることなんてバレてしまった。
 彼は困ったように笑う。「ルピ、泣かないで」と僕の髪をもう片手で撫でつける。ただ優しく。
「お前の今までの花主がどんな人だったのか、俺は知らないよ。でも、結局お前を切り落とした人達なんだし、良くは思えないけどね。おまけに身体は傷が目立つし」
 でもね、と言って彼は僕の額に唇を寄せた。ぬるくやわらかい温度が肌に触れる。
 情欲のままに唇を奪うのとは違う優しい口付けは、僕の額から鼻の頭へ、それから頬と、涙の止まらない目の端に触れた。片目を瞑る僕の髪を撫でながら彼が言う。「俺はお前のこと大事にしたいんだ」と。涙を舌で拭いながら「お前に本当に笑ってほしいんだよ」と。優しい言葉を。こんな汚い僕に。
 こんな、汚い、僕を。大事にしたいと。本当に笑ってほしいと。そんなこと本気で思っているのか、この人は。
「ぼ、くは」
「うん」
「今まで、最低な、ことを。してきました。こんな目と、異国の歌を歌うから、忌避されて。マシな人達には、買ってもらえなくて。最低な…ことを」
「うん」
「か、身体を、売って。きたんです。たくさん、犯された。そうしないと生きていけなくて。ボクは、花なんかじゃなくて…花祭って、花街にいる、ただの男娼で、」
 そこまで言ったところで唇を塞がれた。少しだけ乱暴な、それでも優しいキスで。
 ボクは、縋るようにの手を握っていた。指と指を絡めて、ただ、縋っていた。
 そっと唇を離した彼が言う。「それでも俺には魅力的な花だったよ」と僕に笑いかける。
「きれいな目の色をしてる。紫。確か、アメシストって色だったかな。それにルピの歌う唄も俺は好きだ。この国の歌はどうもいかついっていうか、繊細さに欠けてる気がして」
「…本当に?」
「ん」
 彼が笑うから。僕は彼の手をぎゅっと握って、そして、こう言った。
様」
「ん?」
「ボクを、抱いてください」
 目を丸くした彼に僕は乞うた。「抱いてください」と。彼の胸に顔を寄せて着物の奥にある鎖骨に唇を当てる。誰かの温度が欲しくて、僕の身体は疼いている。あなたが無防備に一緒にお風呂になんて入るせいで。
「ボクの花主様になった証に、ボクを抱いてください。身体に教えて。あなたが、ボクの人だって」
 そうでもしてくれないと、もう眠れそうにない。優しいあなたに全てを捧げないと、曝け出さないと、僕がいられない。
 抱いてほしいと乞うた僕に、彼は最初困った顔をして、すぐにその表情を消した。淡い微笑みで僕の額に口付けて「それでお前が俺を認めてくれるなら」とこぼして僕の唇を奪った。
 繋いでいる手をきつく握り合う。唇を抉じ開けた舌に応えるうちに二組の布団から一組の方へ転がり込み、着物の帯を解かれた。細長い指が僕の身体を伝う。

 が僕の花主となり、僕が彼の花となった初めての夜。
 僕はただを乞い、持て余す熱で彼を求めて、彼だけの花として、咲き乱された。