白い雨だれ

 パチン、と音を立てて扇子を広げて光にかざすと、桜模様と花弁の縁取りから小さく光がこぼれてくる。
 見た目は確かに銀色で、少し冷たい感じはあるけど、そんなに重たいわけでもない。これで鉄扇だと言われてもしっくりこない。
 舞う要領なら心得ている。その要領で行けばひらりひらりと舞うことはできるから、たとえばサシの状態になったとき、最悪それで攻撃を凌ぐことぐらいはしろと土方に預けられたものだ。
 春の陽気と花の香りに目を細めて、パチン、と鉄扇を閉じた。
 見上げた空には本物の桜が咲いている。ようやく春になったのだ。
 総悟との五年間。長いようで、思い返せば、短かったな。
 桜の樹の下で懐から銃を取り出し、弾の装填を確認し、異常がないことをチェックしてからゆるりと歩き出す。
 今日で全てが終わり、決まる。
『いいか野郎共。明日の公開処刑は近藤勲、桂小太郎、平賀源外の三名。爺はついでに助けてやるとして、俺達のすべきこと、分かってるだろうな。ここまで手をこまねいてきたが、明日、全て終わらせるぞ』
 おお、と拳を突き出し今日への決起と決意を誓った誠組と桂一派を思い起こしつつ、カラン、コロンと下駄を鳴らして川にかかる大きな橋に最初の一歩を踏み出す。
 本当ならこんなギリギリよりも余裕を持って救出することが理想だった。
 幕府の牢の守りは堅固で、中も歪、近藤と桂が捕らえられている場所も分からないとあり、何度か決行された襲撃は全て失敗で終わっていた。今日が最後のチャンスで、そして、最大のチャンスでもある。
 焦ってはならない。それが最後の機会への近藤の最大の主張だ。
 罪人は一人ずつ車両から下ろされ並べられる。罪人の横に首を刎ねるために人が立つ。何か言い残すことはないかと最後の言葉を訊ねる。遺言が終われば、首を刎ねるだけ。
 袖の中で銃を弄びながら、カラリ、コロリと下駄を鳴らす。
 構えられた刀を俺が適切なタイミングで処理する。刀だけ撃ち抜くなんて技量はまだないため、申し訳ないが、刀を握る腕を撃ち抜かせてもらう。続けて三発、一発も外さず速やかに。
 次に、川に潜んでいた総悟が処刑場に突っ込む。それから、総悟に気を取られた幕府側の土手の包囲を誠組と桂一派が一掃、同じく処刑場に突っ込み近藤と桂を救出する。俺は最初の幕上げ係。
 気負わなくていい、賑やかな連中が注意を逸らしてくれると総悟は言ってたけど、賑やかな連中って誰のことだろう。
 公開処刑を見下ろす形になる橋の上にはすでに人だかりができていた。みんな物好きなのか、それとも暇なのか。
 橋の手すりに手をかける。よいしょと跨いで手すりに腰かけ、腿の上に銃を転がす。真下はちょうど川だ。「ちょいとあんた、危ないよ」とマスクをした中年の女性に声をかけられたおやかに笑うと、頬を染めた相手はごにょごにょ何か言いながら後ろ髪引かれるようにときどき俺を振り返りつつ、処刑場に近い人だかりの方に混じっていく。どうやら銃には気付かなかったようだ。よかった。
 処刑場の川原からは遠いから、ここには幕府の役人もいない。
 ざあ、と吹いた風が桜の花弁をここまで運んできた。
 今頃総悟は処刑場の向かい側から川の中に潜っているはずだ。この間風邪引いたし、もう暖かくなったから大丈夫だろうけど、心配だなぁ。
 ざわざわと人混みの出す音を聞きながら、視界を拡大する効果があるレンズを右目に取りつける。車両から平賀という爺が出てきた。その辺りにぐあいを合わせて距離を調整する。「えー処刑!? 聞いてねぇよ一体どういうことだよ!?」一際大きな声に視線を流すと、橋の上に目立つ格好の三人組がいた。着物と洋物を取り合わせたような格好をしている。
 あれは確か…江戸で何でも屋をしてる二人と、真ん中のは、知らないけど。確かにその三人が何やら言い合って賑やかだ。総悟はこれを読んでたんだろうか。
 爺に続いて桂が、桂に続いて近藤が車両から出てきた。処刑人三人が刀を構える。そこに三発続けて銃声を響かせた。見事全弾命中。練習してきたかいがあったってものだ。
 ひゅー、と口笛を吹いて何奴とこっちに注目しているお役人にひらひらと手を振る。
 そこからここまで、来れるものなら来てみるといいよ。まぁその前に総悟が来ちゃうけどね。
 川から飛び出した赤い着物が問答無用で近くにいた役人をばっさり斬った。遠くの俺よりも近くの総悟の脅威に役人の意識が逸れる。土手側を固めていた役人が誠組と桂一派に突破され、川原の処刑場はあっという間に混戦状態になった。橋の上からそれを眺めて足をぶらつかせる。あとの俺の役目は近藤と桂がヤバくなったら銃でサポートすることだ。弾には限りがあるので誠組と桂一派が下手をしないことを祈りたい。
 なんだか無事に終われそうだなぁとのんびりしていると、橋の左右から役人っぽいちょんまげの男が数人走ってくるのが見えた。
 …うーん。複数人。そういうのはちょっとなぁ。想定外です。どう見ても川原の方が人がいるだろうに。
 こうなると、俺にできることは一つだけだ。
 懐に銃をしまってレンズを専用のケースに入れて袖の中へしまう。
「貴様、動くなよ!」
 刀を抜くお役人にさらりと笑って「嫌です」と一言。そのままとんと手すりを叩いて身を乗り出し、真下の川に転落すると、ザバーンと派手な音がした。そんなに高くないと思ってたけど叩きつけられるとなかなか痛い。
 ぷは、と水面から顔を出して無事だよーと手を振る。
「そーごー、あとでねー」
 川に三歩くらい足を突っ込んだ位置で止まった総悟がほっと息を吐いたのが見えて、馬鹿だなぁ、と思う。
 俺のことより自分の心配しなよ。近藤と桂、ついでに爺を助けて、今日は祝杯を上げるんだろ。油断しないでおきなさい。怪我をしたらせっかくの祝いの席が台無しだ。
 充分離れたな、追手もいないなという適当なところまで流されて、川原に上がる。ぼたぼた水を落とす着物を絞ってできるだけ水分を落としてみたものの、たっぷり水を吸っていて重い。そして冷たい。顔にはりつく髪を払って、こっちも水を含んでいたので絞った。
 あーあもう。最終的にこうやって逃げられるようにとあの場所に陣取ったわけだけど、ない方がよかったなぁ、この流れ。
 水を滴らせながら土手まで上がると、目の前に古びて看板が傾いている着物屋があった。どうせまともなものは残っていないだろうけどと期待せずに軋む引き戸を開けて中に入り、埃っぽい店内から拝借できそうな着物を探す。
「うーん…」
 菊の花があしらってある着物を広げ、女物だよなぁと首を傾げて、まぁいいかと帯を解いた。これが一番汚れていないししょうがない。重くて冷たい濡れた着物よりはいい。随分上品に仕上げてあるけど、結婚式とかで使うものなんだろうか。
 濡れた着物一式は風呂敷に包んだ。「お借りします」袖をつまんで誰もいない店に向かって一礼し、濡れた下駄をカラコロ鳴らしながら土手を歩く。
 集合はあの隠れ家だ。
 道が分かるところまでは川を辿り、憶えのある道からは砂利道を行き、お役人が知らないような裏道狭い道を通って隠れ家へ。すでに近藤や桂を救出したみんなが集まっているんだろう。いつもは隠れ家らしくひっそりしている民宿が賑やかだ。
 門のところに見慣れた赤い着物姿が見えた。落ち着きなく歩き回ってポニーテールを揺らしている。入れ違いになることを考えて今まで捜しに行くのを我慢していたんだろう。
 カラン、と下駄が鳴ると、弾かれたように顔を上げた総悟が駆け寄ってきた。「」「大丈夫」抱きついてくる総悟を受け止めてまだ湿っている茶色い髪を撫でた。
 着物に大損害があったけど、怪我とかはしていないよ。総悟の方も怪我とかはなさそうでよかった。
「近藤と桂は」
「無事だよ。今みんなで祝杯の準備中」
「そっか」
 くい、と顔を上向かせると赤い瞳と目が合った。俺が帰ってきてよっぽど安心したのか少し潤んでいる。
 そういうのはちょっと卑怯だよなぁ、なんて笑う。襲いたくなっちゃうよ総悟。
「…ところで、なんだよその着物」
「濡れてしまったから、適当なものを借りてきたんだ」
 ちょっとカビっぽくて埃っぽいのは勘弁してほしい。借り物だから。
 やっぱり変かなと首を傾げた俺に総悟は何も言わないで背伸びして唇を押しつけてきた。
 そう冷えてないと思ってたけど、少しは身体が冷えてるらしく、総悟の唇が普段よりあたたかいと感じる。
 ぺろ、と唇を舐めた舌に誘われて総悟の頭を抱き寄せて口をくっつけてキスをする。
 始めたところだったのに、民家からじゃりじゃりと足音がして「おい総悟、お前少しはこっちを」手伝え、とくわえタバコでやってきた土方がぽろっとタバコを落とした。まるでその存在が視界に入らないとばかりにキスを続行する総悟の頬を挟んで顔を離すと、唾液の糸が俺の口と総悟の口を繋いでから消えた。総悟がちょっと不満そうな顔をして唇を舐めている。
 落としたタバコを拾った土方がぼそっと一言。
「お前ら、イチャつくのはいいが、せめて人前ではよせよ」
 当たり前の注意をされた。はい、善処します。
 夜になって、ささやかな宴の席で、日本酒の瓶を傾けて小さな杯に注ぐ。
 玉子焼きを箸でつまんで口に運んで、男の味付けだなぁと思わず苦笑いがこぼれた。なんだこの塩味。辛いよ。
 それぞれの大将をやっと取り戻したとだけあってみんな浮かれてはしゃいでいた。酔って踊っている者、酔って寝ている者、酒のせいでくだらない会話でも異様に盛り上がる者などなど。久しぶりに明るい空気だ。祝いの席なのだし、祝いの舞でも踊りたいところだけど、そうしたら総悟の機嫌が悪くなるので舞いません。
 五年かけて救出の目標を達成したんだ。俺は近藤とも桂とも親しくないから正直この席に不似合いな感じだけど、総悟は違う。近藤を助けられたんだからもっと喜べばいいのに、ビールジョッキを呷ってダンと勢いよく置いただけで、はしゃぐわけでもない。それなりに飲んでるから少し頬が赤いとか、それくらいで。
 強い雨が降っているらしい音を聞きながら、「これ見てーなぁ見てー!」と騒ぐ声に視線を投げる。どこからか三味線を持ち出したらしい桂一派の一人がものすごくでたらめに弦を弾いて「なんだその音色」と笑われている。
 あの店でそれなりの音色を聞いてたせいか、その音は聞き難い雑音だった。
 ふぅ、と一つ息を吐いて立ち上がる。こっちを見上げる赤い瞳を感じつつ「それ貸して」と手を差し出すと、それまでふざけていた男が畏まったように膝をついて両手で三味線を捧げてきた。苦笑いで受け取って、弦の緩みを直す。これまでも誰かが遊んでいたのか突然切れるほどに弦が傷んでいるということはなく、それなりにだったら弾けそうだ。
 そう速いものは弾けないけど、適当なBGMになりそうな音を弾き出す俺に、あっという間に視線が集まった。あ、しまった、と思ったときにはもう遅い。「おお…」「美しい」感嘆の息を漏らす男達に曖昧に笑って手を止めると「やめないでくれ」「もっと聞きたいです」と詰め寄られた。うわ、これはマズいと思った俺の隣でだんと勢いよく立ち上がった総悟にずざざと一気に人が引いた。泥酔している人以外は総悟の逆鱗について憶えているようだ。
 俺の手から三味線を攫った総悟はぽーんとそれを放り投げた。みんなが「わああ」と慌てて三味線をキャッチしようとあたふたする中、俺の手を掴んで足音荒く宴の部屋を出て行く。
「総悟?」
 どこ行くんだと問いかけても総悟は答えず、ぎしぎし軋む廊下を歩いて二階の一番奥の部屋に俺を押し込んだ。パン、と襖が閉じられる。
 誰かの寝床になっているのか、畳の上には布団が敷きっぱなしだった。
 ザアアアと降りしきる雨の音がうるさくて、宴の騒ぎ声はここまで聞こえてこない。雨の世界に二人きりで放り出されたような錯覚。
 無造作に伸びた手が着物の襟を掴んで、そのまま体重をかけて押し倒された。どさっと布団の上に倒れ込んで、俺の上に跨った総悟を見上げる。
 そんなに怒ってる、とかじゃない。いや、ちょっとは怒ってるんだろうけど、それよりももっと違うものに支配されている赤だ。頬に走る朱色は酒のせいだけじゃない。
「今日はめでたい席だよな」
 ぽつりとした声は雨の音に消えそうだった。「そうだね」とゆるりと肯定する俺に伸びた手が頬を滑る。
 自分から髪を解いた総悟の吐息が色っぽい。緩んだ赤い瞳も。淡く微笑んだ顔も。その顔を彩る明るい茶色の髪も。何もかもが俺を誘っている。
「…向こうには人がいるよ。総悟」
「だから?」
 顔の横に手をついた総悟が俺に覆い被さると、ぱらぱらと細い髪が降ってきた。長い髪は総悟の顔以外の全てを外へ弾き出し、嫌でも総悟しか見れなくする。
 熱っぽく潤んだ赤い瞳と半開きの唇、上気した頬。
 …土方に、注意されたばかりなんだけど。この雨と雷で分からないだろう。どんな水音も、喘ぐ声も。
(酔った勢いってやつなんだろうけど。総悟、失念してるのだろうけど、俺もそれなりに飲んでるんだよ。いつもみたいにはできないよ? 途中でやめてって言われても、できないからね)
 袴の結び目を解いた。覆い被さるキスに応えながら赤い着物の結び目も解く。酒のせいでいつもよりあたたかい肌に触れて、吐息をこぼす総悟を剥いていく。
 裸にした総悟と引っくり返る形で俺が上になり、帯を解いて着物の袖から手を抜いた。脇に落としながら総悟の項に噛みついた。「あ」と声をこぼした総悟が唇を噛む。
 総悟はここが弱い。性感帯になってるらしく指でも舌でも感じる。「ぅ、、そこやだ」髪を引っぱる手を握り込む。縋るように指を絡めてくる俺よりも少し硬い手。人斬りと恐れられる手。
 こんなに子供のように俺に縋るのに。いつも隣にいるのに、刀を構える総悟は、いつも、遠いんだよな。
 ふうふうと荒い息で喘ぐ総悟の項をひとしきり攻めたあとは胸を弄った。快感を堪えるように白い足が布団を蹴る。耐えるように目を瞑る総悟の唇をついばむように何度もキスをして、片手を離す。指先で腰を撫でると面白いくらい身体が跳ねた。「あ、ァ」と喘いだ総悟が今頃になって手で口を塞いだ。へぇ、と笑って細い腰を掌でなぞる。酒のせいかな、敏感だ。面白い。
 口を塞ぐってことは、コレは秘め事にしておきたいって意思だ。
 自分から誘ってきたくせに加減しろと言うわけか。都合がいいなぁ。
(いつもなら優しくしてあげるんだけど…今日は、いいかな。誘ったのは総悟だ。俺は一応拒んだし忠告したよ。悪いのは、総悟だよ)
 窓の外で光った雷と雷鳴と、雨の音。
 張り詰めている総悟の半身に触れるとびくんと身体が跳ねた。必死で口を押さえてる姿に舌で唇を濡らし、項に噛みつく。大きく震えた身体が身を捩って強すぎる快楽から逃げようとする。それを許さず腰を抱き寄せて一気に追い込んだ。俺の手を剥がそうとしていた手は自分の口を押さえる方を優先した。声を気にしてのことだろう。
「んぐ、ン…っ、んぅ、ぁ、ン……っ」
 こもった声と震えた息。声を抑えることを意識しすぎて真っ赤な顔。そういうのもなかなかソソられる。
 項には歯を、硬く尖っている総悟の先っぽには爪を。がり、と力を込めてかじり、爪を立て、強制的にイかせた。びくびくと身体を痙攣させた総悟がそれでも声を殺したのがちょっと面白くない。
 総悟の白濁で汚れた手で後ろの方を撫でる。「欲しい?」項から顔を離して耳を食みながら訊ねた。
 ねだってくれるまで指の一本もあげない。どれだけ欲しいとそこがヒクついて答えていても。
 ふー、ふー、と震える息を繰り返す総悟が恨めしげに髪を引っぱってきた。それでも何もせずにキスだけで身体を愛撫していると、「ほしぃ」と小さな声。ちょうど雷が鳴ったので聞こえなかったことにして鎖骨に口付ける。瓦屋根を叩く雨の音もなかなかにうるさい。

「うん?」
「ほ、し」
 欲しい快感を得られず切なそうに身動ぎする総悟に目を細め、指の先を呑み込もうと疼いているそこに、望まれるまま指を挿入していく。
 ずぶずぶと総悟の中に中指を埋めながら、両手で口を塞ごうとする片手を掴まえた。縋る手と指を絡め、総悟の内側に指をこすりつける。
 俺が開いていった身体はもう五年もこういうことを続けてきた。この指がどういうことかも覚えている。
 もっと奥までと収縮する体温に薄く笑って指を二本に増やし、それでも物足らないという身体に指を三本にした。ふぐ、とこもった息を吐いた総悟の中心からとろりと体液が漏れ出す。イッたらしい。
 後ろでイくことを覚えて、男を咥えることも覚えて。従順だね総悟。もう駄目ってくらい苛めたくなるよ。
 さっき押し倒されたように総悟を押し倒し、こりこりと硬くなっている場所を指で攻めた。雨でも消えないような水音と激しさで指を抜き差しして追い詰めると「ああああァ」と唸るように啼いた総悟の目尻から涙がこぼれる。またイッた。
 布団の上に散らばっている髪に口付けた。
 かわいい総悟。
「欲しい?」
 指三本よりも太くて硬い俺自身で、指をなくしていやらしく収縮している場所に先っぽを当てる。「あ、」ぶるりと震えた総悟が涙をこぼしながら俺を見上げた。いつもならその視線だけで挿れてたけど、今日は言ってくれるまで触らない。
 答えてくれるまで遊んであげようと乳首を口に含んで吸うと面白いくらい身体が跳ねた。「アっ、や、やめ」ちゅう、と音を立てて、歯も立てる。総悟の中に埋めてた指はフリーになったのでもう片方の乳首をつまんだ。甘い刺激を与えながら遊んでいると、がし、と髪を掴まれて顔を上げさせられる。ふー、ふーと震える息をこぼしながら真っ赤な顔をしている総悟の赤い目からまた涙が落ちた。
「さっさと、いれろ」
「どうしようかなぁ」
「ハァ?」
「お願いの仕方がなってないよ総悟。指でもイケるだろう? 指のままでもいいんだよ」
 笑った俺にいやいやと首を振る総悟がかわいかった。「やだ」「じゃあどうしてほしいの?」「う…」恨めしそうに見上げてくる瞳に笑って先っぽをこすりつける。震えた身体はそれを欲しがっていた。
 総悟がまた口を塞がないようにもう片手を絡め取る。キスをして、ねだる舌を絡め、ヒクついている場所を先端でこする。その度に大きく震える身体と切なそうにこぼれる吐息。
 唾液が溢れて伝うまでキスをしてから顔を離すと、すっかり蕩けた顔の総悟が「ほしい、の、あついの。いれて」とねだって俺を求めた。
 繋いでいる片手を解く。「足抱えて」抵抗するでもなく片脚を抱えて身体を開いた総悟の腰を掴んで、一気に貫く。
「あーっ! あぁッ、ア…っ!」
 望んでいた快感に総悟の身体が痙攣するように震える。
 片手は俺と繋いでて、片手は自分の脚を抱えてて、口を塞げるものは俺のキスくらいだろう。まぁ、するつもりはないんだけど。
 肩を滑って落ちてきた髪を背中に払って、邪魔だったので結び直し、その間に何とか息を整えようとしている総悟に目を細めて手を繋ぎ直した。「ま、まだ」「うん、聞かない」まだ駄目と言おうとしたのだろう総悟の言葉を遮って再び腰を掴み、打ちつけた。肉と肉のぶつかり合う小気味いい音が雨の中に響く。
 唇を噛んで声を殺した総悟に、どこまで続くかなと思いながら中を抉っていく。遠慮なく、我慢できなくなるだろう快感を与え、堪えきれない官能に溺れさせていく。
「はぁっ…あッ、あァ、ああアっ、ぁッ、はぁ」
「気持ちい?」
「んン、あああぃ、いい、きもひ…ッ!」
「へぇ」
「アっ、ふ、か…ッ! イく、らめ、ぃく」
「いいよ」
「はぁ、は…ァっ、ぅ、ア…っ、ああッ!」
 背中を反らせびくびくと跳ねた身体に白濁色が散った。
 伝う涙と唾液をそのままに、達した余韻に浸っている総悟を眺めてもう片手を解放した。もう声を堪えることなんて忘れている顔だった。気持ちいいことだけを求めている。
 ふー、と深く息を吐き出して腰を掴む。びくりと震えて急速に醒めた総悟が何か言う前に、強く貫いて、奥まで深く抉る。

 今日はめでたい席なんだろ。じゃあ、イイことをしよう。悦ばしいこと。
 立てなくなるくらい抱いてあげる。中に出して汚してあげる。俺がほしくてたまらないって言ってるここに、溢れるくらいに、俺をあげるよ。