大事を取って翌日も部屋で大人しくしているように言われた俺は、冷えピタを装着。大人しくベッドでゴロゴロしながらインターンのはずの時間を怠惰に過ごしていた。
 事件の動向は気にはなっていたけど、適当につけていたテレビが生中継の報道に変わって、そこで、ミスター・スマイリーが逮捕されたことを知った。
 っていうかスマイルの個性。テレビ越しで発揮しないでほしい。

「〜〜、むりぃ」

 病み上がりで個性を使うわけにもいかず、ベッドの上で吹き出して笑い転げること二時間。笑いすぎて腹が痛いし喉は枯れてるし、声カッスカス。
 息も切れ切れになりながら這うようにして起き上がり、震えた携帯を手に持つ。「しんどぃ……」笑うことがこんなにしんどいことだとは思わなかった。あの個性、ほんと、恐るべしだ。
 なんか連絡来たと思ったら焦凍だ。『確保完了』と。はいはい、テレビ見てたから知ってるよ。
 焦凍は『昨日役に立てなかったから今日こそは頑張る』と意気込んで現場に行ったけど、このタイミングでの報告だと、みんなで今まで笑い転げてたんだろうなぁ。
 ちょっと引きつってる気がする腹をさすりつつ、そのままベッドに転がって携帯を弄ってれば、だんだんと調子が戻ってきた。
 体調をよくするためにもエネルギーがいる。ご飯食べないと。
 部屋着のまま外に出て、エンデヴァー事務所内のいつものカフェで海鮮とチーズのリゾットとあたたかいスープを順番に口に運んでいると、焦凍がやって来た。まだヒロスだし、腹を押さえてるし、紅白の髪はだいぶ乱れてる。「おかえり」「ただいま。調子、どうだ」「だいぶいいよ」ぱく、とドリアを食べる。エビとチーズの相性最強。うまい。

「ミスター・スマイリー、どうなった?」
「よくわかんねぇけど、反省したみてぇだ。自分から逮捕されてくれたよ」
「そっか。でも、最後のスマイルは効いたね」
「ああ。腹いてぇ」

 気持ちぐったりしている焦凍の髪を左手で直しつつ、右手でリゾットをすくったスプーンを差し出す。「あーん」「あ」素直に口を開けたから一口あげて、自分も食べる。やっぱりうまい。
 焦凍はしばらくテーブルに頬杖をついて俺の食事を眺めてたけど、食べてる俺を見て腹が減ってきたのか、メニューを眺めて自分の注文をした。「着替えてくる」「んー」いったんカフェを出ていく後ろ姿を見送ってひらりと手を振る。
 デザートのガトーショコラと焦凍のご飯、今日はあったかい蕎麦とチキンと野菜のグリル焼きが並んだ頃、部屋着の黒い服上下の焦凍が戻って来た。「今日は珍しいもん食べるね」蕎麦なら冷たいの頼むのに。「たまにはな」椅子に腰かけた焦凍が手を合わせていただきますをしてからあったかい蕎麦をすすり出す。
 ガトーショコラにたっぷりと生クリームをつけて口に運ぶ。
 甘い。おいしい。疲れた脳に沁みる。

「今回のインターンは、色々大変だった」
「ん」
「でもまぁ、お前の思い切り笑った顔が見れたから、収穫だったよ」

 笑って言ったら焦凍の眉間に皺が寄った。それを意識して解して「俺も、お前の思い切り笑った顔、初めて見た」とか言うから「そうだったっけ」なんて誤魔化しながらケーキに視線を逃がす。
 そうか、お互い様だったか、そこ。
 ……別に、お互い、隠してるとか、見られたくないとか、そういうわけじゃあないんだろうけど。どこかでまだ格好をつけたい自分がいる、っていうのは本当っていうか。そういうところは男の子なんだっていうか。背伸びしたいオトシゴロってやつ。
 でも、この分だと、背伸びしてる時間なんてあっという間に過ぎるんだろうな。
 もう色々と暴かれてるっていうか、焦凍に持っていかれてるっていうか。そういう感じだし。

「はっ、宿題…!」

 そして思い出す現実よ。
 しまった。今日時間はあったのにすっかり忘れてた。まだ手をつけてない……。
 焦凍はチキンをワイルドに食いちぎりながら首を捻った。「そんなに難しくねぇぞ」「お前は頭がいいからいいよ…」俺はそうじゃないんです。お前より時間かかるしなんならわからないところだって出てくるんです。っていうかいつやったんだよ。
 せっせとガトーショコラを片付けて「先部屋戻って」る、と言おうとしたら不満げな顔で右手を握られた。「すぐ食うから」「じゃあすぐ来るだろ。俺は宿題する」「………」不満だという顔からしょげて拗ねた末っ子顔になった焦凍にはぁーと深く息を吐いて、仕方なく席に座り直す。
 我ながら、最近甘やかしてるなぁ。そんなことを思いながらチキンと野菜の皿を指して「よく噛んで食べなさい」「ん」…離れた手の温度をまだ感じる。熱い。熱は下がったのにな。
 蕎麦以外を一生懸命食ってる焦凍を眺めながら携帯を弄る。
 まぁ。別に。こういう時間も嫌いじゃない。
 宿題の方は、死ぬ気でがんばろ。なんとか間に合わせよう。以上。