さて。なんだか困ったことになってしまった。
 インターン最終日の日曜、午後。ファットガムに「ちょっとええか」と手招きされて、新幹線を待つ時間に言われたことは、とても残念そうな顔で「あのなぁ、次のインターンからなんやけどな。エンデヴァーんとこ行け」だった。
 その言葉を聞いた俺は顎に手を当てて首を捻って考えた。ファットの冗談……ではなさそうだ。

「それ、エンデヴァーの事務所からですか」
「せやで。なんかしたんか? 絶対欲しいって言うてたぞ」
「あー……」

 欲しい。いや、不思議じゃあない。電話越しとはいえ余計なことを学生の身分でプロにぐちぐちと言ってしまった。
 もしかしたらエンデヴァーは相当怒ってて『俺が鍛え直してやる』とか思っているのかもしれない。すべては轟家を思ってのことだったけど、それが正しく伝わっているとは限らないわけだし…。
 ともあれ、そうなると、ファットとはこれでお別れか。ナンバーワンの事務所からの要請をファットが蹴れるとは思わない。
 苦笑いをこぼしてから個性故のぼよんとした体に抱きついて「お世話になりました、ファット」と言うと脂肪に埋もれる勢いで抱き締められた。苦しい。「こっちこそ助かったでぇ」だから、脂肪。埋もれる。苦しい…。
 大阪ではそんなお別れをして、お世話になった天喰先輩にも再三頭を下げて三年の寮前でお別れし、B組の鉄哲ともまたそのうちにと手を打ち合わせて別れた。
 切島と一緒にA組寮までの道のりを歩く。さっむい。

「しかしまーエンデヴァーの事務所とか、大丈夫か? 爆豪とか緑谷とかスピードに自信ある奴ばっかだろ、あそこ行ってるの」

 事情を知ってる切島には心配そうな顔をされてしまったから、苦笑いを返しておく。「まぁ、できることをするつもり。何事も経験と勉強」ファットの事務所でできることはもうだいたいしてしまった気もしてたし、ナンバーワンの仕事ぶりを垣間見れるなら、雑用でもなんでもする。
 それに。エンデヴァーの事務所に行くなら、少しでも焦凍のそばにいられるし。

(なんて。馬鹿かな)

 白い息を吐きながら寮の扉を開けて中に入ると、すでにだいぶ見知った顔が揃っていた。緑谷たちもいる。ってことは。
 一週間ぶりのクラスメイトに「久しぶり〜ただいま〜」と声をかけていると、ドタドタドタッと荒い足音がして、ランドリールームから紅白頭が出てくるが見えた。たとえ全身ユニクロだろうとかっこよく着こなすイケメン、焦凍だ。洗濯してたところからあんまりにも急いだのか、左右で色の違う髪がくしゃっとなっている。

「おかえり」
「ただいまぁ」

 抱き着くのをすんでで堪えて伸ばしかけた手で拳を握る姿をかわいいと思う俺の目は少しおかしいのかもしれない。
 すれ違いざま「あとで部屋おいで」と囁いて「じゃあ荷物置いてくる。俺も洗濯しなきゃー」クラスメイトに聞こえるように宣言しながらエレベーターに乗り込んで、五階の自室へ。
 一週間ぶりになる白い防音材に囲まれた部屋に帰還して、はぁ、と息を吐いて荷物を下ろす。
 疲れた。別にファットたちが苦手ってわけではないし、大阪はノリが良くておいしいものがたくさんあるいい場所だけど。プロと同じ仕事…お金をもらってすることを経験するわけだし、責任とか色々あるし、そういうの意識すると疲れるんだよな。
 ボストンバッグの中にそのまま洗剤一式を入れて洗濯の準備をしていると、ガチャ、と扉が開いた。ノックなしに部屋に入ってくるのは焦凍以外いない。
 パタン、と静かに閉じた扉を背にした焦凍がなんとも言えない表情をしている。「ん?」どうかしたの、と首を捻った俺に唇を噛んで、遠慮なく抱きついてくるから、もちろん倒れた。全力の焦凍を支えられるほど俺の筋肉も体幹もできてない。

「いてて…何、どした」

 ぐりぐりと頭を押し付けてくる焦凍の紅白髪を撫でつける。さらさら。
 イケメンが今にも泣きそうな顔をして俺にキスしてくる。「ど、した」キスの合間に訊いてみるけど答える気はないようで、ちゅっちゅとリップ音を鳴らしながらひたすらキスをした。そのうち舌を覗かせてもっと先をねだる焦凍の頬を両手で挟んで止める。「焦凍」「ん」「どした」「すげぇセックスしてぇ」ズバッと直球だな。じゃあ何、その泣きそうな顔、性欲で死にそうってコト? 何それエロい。
 いつからなのか勃起している股間を擦りつけられ、熱で潤んだ色の違う両目を前にすると、俺の思考力も緩んだ。酒でも飲んだみたいに意識がふわっとして、ちゅ、と焦凍の艶っぽい唇にキスして「ベッド行こ?」と囁くくらいには思考力が低下する。
 制服を脱ぎ捨てて、二人でシングルのベッドを軋ませる行為を繰り返し、俺がイった辺りでちんこが萎えた。午前中はしっかり職場体験で個性使って仕事をしてて、午後は移動だった。体は疲れてる。「今日はも、ムリ」ぬぽ、と音を立てて抜くと焦凍の孔がヒクついた。やらしい。
 ぼやっとしてる焦凍の手が伸びる前に俺がしてたゴムは縛って捨てる。

「舐める」
「…無理しなくていいよ」
「舐めたい」

 そう言われると俺は閉口するしかないわけである。
 毎度おなじみになりつつある、イケメンが俺のちんこを夢中になってしゃぶる光景に生唾を飲み込んで耐える。
 この時間がなかなか苦痛だ。下手したらまた勃つし。
 焦凍の気がすむように舐めさせて、きれいな顔を伝う汗をタオルで拭い、体の方もなるべくキレイにしてやる。
 ちんこが解放されたら早々にパンツを履いてしまってしまう。そうじゃないと熱っぽい視線がずっと見てるから、さっさとスウェットのズボンも履いてしまう。
 満足したのか、焦凍はまだぼやっとした顔で俺のことを眺めていたけど、自分が裸だってことを思い出したのか、落ちているシャツを拾い上げて袖を通した。

「親父が、を引き抜くって言ってたが。知ってるか」

 服を着ながらの言葉に、一足早く服を着た俺は改めて洗濯の準備を始める。洗剤と。洗濯ネットと。しつこい汚れはなかったと思うけど、それ用のスプレーと。「知ってる。帰り際にファットに言われた」「そうか。たぶん、大変だぞ。現場連れ回されることがないとしても、ナンバーワンの事務所だからな。デカいし、仕事は多い」「わかってるよ」ボストンバッグに洗濯物をまとめて抱えて立つと、服を着た焦凍が腰を叩きながらついてきた。「いいよ、ちょっと放り込むだけだし」「俺のやつ、そのままだ」「あー」なら取ってこないとか。
 一階までエレベーターで降りて、ランドリールームの共有洗濯機に服やら下着やらを放り込んでいく。ヒーロースーツも洗濯だ。
 焦凍が屈むのが辛そうに乾燥機から服を取ってたから、途中から代わってやった。「座ってな」「…ん」壁際にあるベンチに腰かけた焦凍の視線が背中に刺さる。
 乾燥機から焦凍のものを全部回収してバッグに入れてやり、今くらい俺が持ってやることにした。
 俺の洗濯物ができるまで待機ってのはやることなくて暇だから、焦凍の部屋に洗濯物を持っていき、たたむのも辛いかなと思い代わりにやってやることにする。

「……そんなに見たって何も出ないけど」

 焦凍の服とかパンツをたたんでいる間、背中に刺さってる視線がこそばゆくてぼやくと、イケメンであり天然である焦凍がきょとんとした顔で首を傾げた。

「インターンの間見れなかった分、見てるだけだ」

 いつかに俺を愛玩動物の如くじっと見ていた焦凍のことを思い出した。
 そういや前からそういうとこあったな。あのときもガン見されてたっけ。
 焦凍の服をたたみ終わったので、箪笥の方にしまって、じっとこっちを見ている焦凍の前に胡坐をかいて座る。畳がざらざらする。「部屋、戻らねぇのか」すっかり俺の部屋が自分の部屋みたいになってるけど、ここはお前の自室だよ焦凍。
 色の違う両目をじっと見つめていると、焦凍の視線が若干惑った。「なんだよ」「真似」お前、こうやって俺のこと見てるだろ。
 火傷の痕のある顔の左側、上半分。それを含めても面が良いなぁと思うイケメンは、今は若干頬を染めて視線を俯けている。
 焦凍のように見ているだけ、ができなくて、俺は右手を伸ばして火傷の痕を指でなぞっていた。
 ついさっきまでセックスしていたこともあって、焦凍の感度は高いらしい。ちょっと顔をなぞっただけなのにキスしてほしそうに唇が半開きになっている。
 ズルいなぁ、と思いながら触れるだけのキスをして、違和感バリバリだろう腰を右手の指でつうっとなぞるとわかりやすくビクついた。敏感なのだ。わかってて湿布の貼ってある腰をなぞってる俺はまぁまぁ意地悪だ。
 、と熱い吐息をこぼした焦凍はその気だ。もう半勃ちになってる。エッチだなぁ。

「明日、がっこだよ」
「うるせぇ。その気にさせといて、ガマンとか、無理だ」

 伸びた手が俺のスウェットを脱がしにかかってくる。
 結局焦凍の部屋で本日二戦目になるセックスをして、さすがに一回イったらやめにしようと思ってたのに、焦凍が俺の体に足を回してがっちり拘束するもんだから抜くに抜けなかった。「こら」べち、と足を叩くけど絶対に離すものかとばかりにがっちりだ。ヒーロー科のパワーよ。
 快楽で蕩けた顔をしながらも俺のことを離さない焦凍をもう一回抱いて、「おく、がいい、おくがいぃ」と切なく喘いで求めてくるもんだから、お望み通り奥を突いて潮吹いてイかせてやった。
 すっかりびちゃびちゃになってる焦凍のをしごいて、ダメ押しに前と後ろ両方でイかせた辺りでコンドームに違和感。
 まさか、と思いながら抜いたら、白い液体が溢れていた。「おわ……」ちょっとキツいなと思いながらつけてたけど、焦凍の部屋に置いてあったやつサイズ合ってなかったかも。
 コンドームから溢れて垂れた白い液体を見た焦凍がぼやっとした顔で手を伸ばしてくる。「ほしい」「ダメっ」急いで縛ってティッシュで包んでゴミ箱にポイ。
 中に出すつもりはなかったのに、意図せず漏れて汚すことになってしまった。反省……。
 すぐに始末しないと、焦凍が腹下すことになる。
 右手で氷を作ってもらい、左手で溶かしてもらって、程よいぬるま湯を作成。指をつけてから焦凍の中に埋める。「う、」「かき出すだけ」「ん…」腕で顔を隠した焦凍から熱い息が漏れている。ちょっと指がぐにぐにして俺のを外に出してるだけだけど気持ちいいらしい。
 エロいなぁ、と思いながなんとか中をキレイにしてみた。指の届く範囲ってことで限りはあるけど、やらないよりはマシだと思う。
 本当なら浣腸した方がいいけど、今は敏感みたいだし、それはもう少しあとにしよう。
 指を抜いた俺に焦凍が指したのは、自制を頑張ってたけど無理だった俺の股間である。勃ってしまった。「舐める」「いや、別に…ちょっと置けば大丈夫」のっそり起き上がった焦凍が、四つん這いになったと思ったら俺のをしゃぶり始める、その行動の迷いのなさよ……。
 少しは遠慮というか、自制というかをしてほしい。あんまりかわいいと口も犯すぞ。