夜。予想とは違う意味で怒涛のインターン一日目となったその日、パトロールから戻って来た焦凍たちと合流。事務所内にあるカフェでおいしいご飯を食べて満足していたところに昼間の俺がヒーロー番組で取り上げられて、カフェで危うく飯を吹くところだった。
 俺がキラキラアイドルみたいな紹介のされた方をしてるし、なんかエフェクトかけたまま事務所の案内してる。いらなかったろそのキラキラ。隣にいる焦凍がテレビの中の俺を見てぽかんとした顔をしてるよ。

(客観的に見るとスゴイ。色々)

 最後にしっかり俺がハート作ってウインクした図まで流れて、キレイに『ナンバーワン事務所に突撃取材! 若手の新ヒーローも!?』という特集が終わった。
 一応俺は『職場体験』で一時的にエンデヴァーの事務所に来ている学生だ、ということは説明したはずなんだけど。まぁ『若手の新ヒーロー』にはなるかもしれないから嘘じゃあないのか。
 っていうか、この事務所にいる間これからもこういうことしないといけないとかなかなか地獄。
 焦凍がはっと気付いた顔で「今の、録画…」「しなくてよろしい」そう言った俺に対し、緑谷がぐっと拳を握って「轟くん大丈夫、僕、この番組も録画してあるから」余計なこと言うな緑谷よ。焦凍が顔輝かせてるだろ。
 薄い紫になった髪をくしゃっとかき上げる。脱色したせいかやわらかくなった気がする。「今の、見たろ。思ってたのと違う意味で大変だよ俺は」ぼやいてコーヒーをすする。うまい。ナンバーワン事務所内にあるカフェはお金かかるけど飯がオシャレだしすげぇうまい。
 焦凍が首を傾げて「ああいうお前も好きだぞ」とさらりと爆弾発言をするが、その辺りのスルースキルは俺も身についている。「ハイハイ、慰めアリガトー」デザートのプリンをすくって食べる。うまい。
 ナンバーワン事務所のいいところは、ビルの中にいるだけで全部完結しそうなくらいなんでも揃ってるところだ。飯も美容院もコンビニも困らない。そういう面では不自由しない。
 カフェで緑谷と焦凍と夜のご飯を済ませたあとは(爆豪は食堂で済ませたらしい)風呂がまだの焦凍と別れて、呼び出しを受けていたエンデヴァーの下へ行く。
 事務所のメインとなっている部屋では待機組の皆さんが仕事中なので、そっと横切りつつ、エンデヴァーが待っている奥の部屋へ。

です」

 大きな扉の向こうへと声をかけると「入れ」と声。
 自動で開くドアから中へと入ると、広い部屋の奥のデスク前でエンデヴァーが腕組みして俺を待っていた。「遅かったですか」慌ててデスクに寄っていくと、「いや」と渋い声。確かに時間は待ち合わせよりまだ早い。

「焦凍は」
「部屋でシャワーです。言われたとおり、いないときに来ました」
「うむ」

 重く頷くエンデヴァーの立派な筋肉のついた腕に殴られる覚悟を決めておく。
 ビデオ通話で俺が余計なことを言ったのは事実だ。人の家族のことに首を突っ込んで勝手に物を言ったのも事実。この人の傷口を抉ったのも事実。
 ごくりと唾を飲み下して言葉を待つ俺に、エンデヴァーが言ったのは。「君は焦凍と仲が良い。そうだな」「え? あ、はい。そうです」思ってもみないところを訊かれた。「ということはだ。君にはまだ見えていないことがある」「…?」ええと。どういう意味、だろうか。
 エンデヴァーは深く息を吐くと、「気付かないか。そんな君は、焦凍の弱点と言えるのではないか、ということだ」……なるほど。それは、気付かなかった。かも。
 いや、ここ一番を前に俺だけ後ろにいるのは嫌だって、サポートアイテムを充実させたりはしてたけど。面と向かって『俺が焦凍の弱点だ』と言われるとは思ってなかったというか。
 左の義手を額に押し当て、鉄の冷たさで頭の熱をいったん落ち着ける。

「……つまり。このインターンは、それを自覚し、力をつけろ、ということでよろしいでしょうか」
「それもある。が、君の視点は新しい。素直に褒められるものでもないが、一考する価値はあると判断した。他にも何かに気付いたら言え」

 そろり、とエンデヴァーを覗き見る。義手の向こうに見えるエンデヴァーは特段怒っているふうでもない。そのことには少しホッとした。正直、あの立派な筋肉のある腕で殴られたら骨折れると思ってたし。
 話はそれだけだったようだから、焦凍にバレないうちにそそくさと自室に戻り、部屋に備え付けの机に放置されている宿題の冊子を手に取る。
 エンデヴァーが大人の対応をしてくれて助かった。
 それはそれとして。手をつけないとダメだよな。宿題…。
 椅子に腰かけ、筆箱からシャーペンを取り出し、インターン中にも容赦なく出された宿題を前に唸っていると、ガチャッと扉が開いた。ノックなしに入ってくるのは一人である。「」「んー?」こう、喉元まで数式が出かかってるんだけどあと1ピースが足りないこの感じ。なんだ。何が足りないんだ。
 冊子を睨みつけていると、ぼふ、と背中側から抱き締められた。「キスしたい」「…はぁ」喉元まで出かかっていた数式を放り出す。焦凍と一緒にやればどうせできるし。
 振り返れば、まだ髪が濡れてて風呂上りって感じの色気を出してる焦凍がいる。
 ごくりと生唾を飲み込んで、冷静、を装って触れるだけのキスをする。なんかいい匂いがする。甘い感じの。
 伸びた手が俺の髪をつまんで唇を寄せた。「この色も似合ってる」上目遣いでナチュラルにそういうことをしてくる辺りがほんと。もー。「そう? ありがと」俺としてはキラキラアイドルみたいにされて複雑な心地なんだけど。焦凍が嫌じゃないのならいいや。
 一人用の机と椅子からベッドに移動すると、焦凍は当然ついてきたし、隣に座った。
 黒いワイシャツのボタンが半分しか閉まってない。クリスマスのとき買ったお揃いのネックレスと乳首が見え隠れしてる。これはもう誘ってるよ。インターン先じゃシないって言ったのに……。
 本日何度目かの生唾を飲み下して、個人的に萎える画像集を思い出して股間に集まり始めた熱を拡散させる。意識しない意識しない。

「焦凍も宿題しないと」
「俺はほとんど終わってる」
「じゃあ教えて」

 なんとか意識を宿題に持っていくも、当然、さっき喉元まで出かかった数式のことは忘れていた。「ここがサッパリ」なので最初から組み立て直そうと詰まってる問いを指すと、濡れた髪を耳にかけた焦凍が前かがみの姿勢になって冊子を覗き込み「ここは…」と解説を始めてくれる。始めてくれるも、全然集中できない。
 濡れた髪から伝った雫が焦凍の首をなぞっていくのが見えたし、なんかいい匂いがするままだ。
 唇を噛んで耐えている俺がわかっているのか、いないのか、焦凍の手が腿を撫でた。「?」宿題の問いを指す指を掴んでそのままベッドに押し倒す。
 これはよくない流れだと頭ではわかってるのに、焦凍の首筋に光る水の粒を舌で拭い取っている。
 そのまま、開きすぎだろと思うシャツから見えてた乳首を指の先で転がした。もう硬くなってる。「ん、」小さく反応した焦凍の口を自分の口で塞ぐ。すぐに捻じ込まれる舌は、こうなることを望んでたに違いない。
 学校のジャージをずり下げて後ろの口に指を入れると、案の定やわらかかった。シャワーしながら下準備してきたに違いない。「お前さぁ…」ローションも投入済みで、少し指を動かすだけでくちゅりとやらしい音が鳴る。
 焦凍は紅白の髪をベッドに散らばらせて少し不機嫌な顔で俺の両頬を挟んだ。右が冷たくて左が熱い。

「あんなのズルいだろ」
「は? 何が」
「髪染めて、あんなキラキラした。俺が一番に見たかった」
「はぁ? あれは仕事で…」

 全部言う前に口を塞ぐキスをされた。すっかり勃起してる股間を擦りつけてくる焦凍が控えめに言ってやらしくて死ぬ。俺の股間が。爆発して死ぬ。
 どこかで勉強でもしてるのか、最近は誘い方もうまい焦凍にしてやられてしまった。
 インターン先じゃシないはずが……。勉強も放り出して、俺はなんで焦凍の体をまさぐってるのか。
 隣室のことも考えながら始終焦凍の口を塞いでシたセックスは、寮でするのとは違うスリルがあった。
 廊下を人が通るときには息を殺すし、そういう焦凍を追い詰めたくて奥の方まで突いてみたり、わざと抉る速度を速めたりして煽り返してやった。
 一番緊張したのはコンコンとドアを叩いた緑谷の「くん、いる?」という声だった。おそらく俺も詰まってる宿題について、だろうけど、焦凍と二人口を塞ぎ合ったキスをしたまま息を殺して、知っている声がドアの前を離れるのを待ったときは、心臓がどくどくとうるさかったな。
 することして、汗だくになった俺と焦凍は部屋のシャワーで本日二度目の風呂をすませた。
 セックスで甘やかしてやったつもりだけど、まだ若干むすっとした顔の焦凍が宿題をなんとかしようとしている俺の隣にやってくると「宿題より俺を甘やかせ」と冊子を床に放り投げてしまう。もー…。

「インターン中にやるやつだよ。これじゃ終わんないじゃん」
「明日、緑谷も入れて三人でやればいい」

 なるほど。そうすれば変な空気にもならないか。じゃあそうしよう。今日は宿題しない。
 シャーペンを筆箱にぞんざいに突っ込み、濡れた髪を摺り寄せて甘えてくる焦凍に頬をくっつける。ぺたってしてる。
 二人でベッドに転がって体をくっつけたり手を繋いだりキスしたりしてると、焦凍の目がとろんとしてきた。甘えたな顔で俺の胸に顔をすり寄せて「もう一回するか?」とか言うから慌てて押し返した。「それはダメ」残念そうな顔をするな。もうしません。今はインターン中、明日も容赦なくパトロールとかある。だからもう絶対しません。