テレビの中では大規模な記者会見が行われていた。
 ヒーローを追及するその場に立たされたのは、現ナンバーワンの親父、ホークス、ベストジーニストの三人。
 彼らは世間の声に応えた。素直に、嘘偽りなく。それがおぞましい過去であろうとも。
 俺はテレビの中の親父をベッドの上で胡坐をかいて見つめた。
 この未曽有の危機をどうするのかと声高に上がる声に、ベストジーニストが説明する。
 雄英をはじめとした、広大な敷地と充分なセキュリティを持つヒーロー科の学校が、今回の未曾有の事態に対処するための指定避難所として開放されたこと。その避難所を少なくなったヒーローがしっかりと守ることで、脱獄犯を始めとしたヴィランの被害から救おうという計画になっていること。
 無難、そして現実的に可能な対策について説明するベストジーニストを眺め、好き勝手非難する報道陣に『先を見るためです』と身を乗り出し口にする父親を見る。
 ……まだ全然回復してねぇのに、無理してるな。

『みんなで俺を見ていてくれ』

 顔に炎を灯し、絶望に潰れてはいないヒーローの顔をした親父を眺め、テレビを消す。
 のんびり会見を見てたが、そういや今日は退院するんだった。着替えとかまとめねぇと。
 姉さんが持ってきてくれて増えた着替えやらをまとめていると、病室の扉が開いて、がやってきた。少し焼けてしまった薄い紫の髪を揺らして首を傾げるはもう制服を着ている。「手伝うよ」と言ってくれるから「頼む」と返し、広げたボストンバッグにビニール袋にくるんだ下着を突っ込む。
 が俺の着替えや荷物を片腕で器用にまとめながら「焦凍は着替えな」「ん」言われるまま、まだ病院着のところから雄英の制服へと着替え始める。

「会見は見てた?」
「ん」
「エンデヴァーたち、かっこよかったね」
「…ん」

 病院着を落としてシャツに袖を通し、ズボンを履き、ベルトを締めて、ネクタイをして。
 義務的な作業をしていると、ボストンバッグに荷物をまとめ終わったがぽんとバッグを叩いた。「終わり」「さんきゅ」……の顔には火傷の痕がほんの少し、化粧しちまえば誤魔化せる程度に残っている。それが痛い、と思う。本人は自分が勝手をしたからできた傷だと納得してるが、俺はを守ることができなかったのだ。「忘れ物はーっと」病室の引き出しや棚を確認して回るを眺めながらボストンバッグを担ぐ。
 怪我の程度が軽いクラスメイトはすでに寮に戻っている。
 そいつらの話によると、学校全体が避難所となってることで、授業は停止。春に二年になるはずだった俺たちの進級は留め置かれ、ヒーロー科の生徒は基本が寮待機、あるいは周辺の警備への協力をさせられてる状況らしい。
 と二人で午後にセントラル病院を退院、タクシーに乗り、ヴィランに対抗しようと戦いを知らない市民が武器を手に取った結果広がった破壊の跡が目立つ市街地を行く。
 雄英高校の敷地前でタクシーを降り、避難所として機能している学校を遠目に見ながら寮までの道を二人で歩いた。
 大きな戦いは終わった。けど、もっと大きな戦いが始まってしまった。
 その現実が重くて、の右手を握り締めて歩く以外、言葉も出てこない。
 病院で顔を見ちゃいるが、1Aの寮に戻ると、クラスメイトがまた出迎えてくれた。

「おかえり〜」
「ただいま〜」
「…緑谷は?」

 死柄木と戦ってるときは体がぐちゃぐちゃになってるように見えたが、案外と大丈夫だったらしいってのは話には聞いてる。会えてはいねぇが。
 共有スペースを見回してみるが、多くの人間が集まっている中で、あいつの姿はなかった。「まだ病院だって。リカバリーガールのおかげもあってもうすぐ退院だってさ」が緑谷とのライン画面を見せてくる。『緑谷、大丈夫?』『心配かけてごめんね。もうすぐ退院』『そっか。寮で待ってるよ』短いやり取りだが、そうか。大丈夫なんだな。良かった。
 すとんと納得すると同時に、身近な心配事がなくなって、自分の中でむくむくと性欲が膨らんでいくのがわかった。
 の背を押して足早にエレベーターに乗り込み5のボタンを押す。
 包帯が取れてすっきりした顔のにぐりぐりと頭を押し付けると病院の消毒液のにおいがした。「シてぇ」「切り替えが早い…」呆れたようにぼやいた声が俺の頭をぽんと叩く。
 随分久しぶりに感じる、白い防音材で囲まれた部屋のシングルのベッドに二人で転がる。ぎいぎいという軋んだ悲鳴も今は懐かしい。
 俺が守れなかったせい、が勝手をしたせいでできた額の小さな火傷を指でなぞる。
 こんなことは、もうこれっきりにしたい。

「病院では我慢した。ホワイトデーも過ぎた。終わったらって約束だ」

 押し倒して畳みかけた俺にの視線が惑う。
 なんだよ、シたくねぇのか、と体をくっつけると、股の辺りにごりっと硬いもんが当たった。お。
 焼けて短くなった薄い紫の髪をくしゃっとかき上げたが、参ったな、と笑う顔が至近距離にある。

「街の被害の状況とか、死んでいったヒーローとか、改めて意識するとさ。生きてこうしてるのって奇跡だよな」

 の右手が背中を撫でてそのまま腰に行く。「抱いていい?」とやわらかい笑顔で改めて訊かれると、なんとなく、気恥ずかしい。「…準備。する」のそっと起き上がって部屋に常備されてる洗浄用の石鹸その他を手にトイレにこもり、少し久しぶりな作業をしてから戻ると、ベッドはもう用意されてたし、雰囲気作りなのか、今日はラブホみたいなピンクっぽいライトが一つ、ベッドサイドで光っていた。確かクリスマスのときに使ったやつだ。
 死柄木との戦いで左腕はぶっ壊れていたが、部屋にある日常使い向けのをつけたようで、両腕のあるがおいでと手を差し伸べる。
 左腕があるのは、両手を使って激しくスるときだけだと知ってる。「ナマがいい」お互い生きてこうしてるのが奇跡的。両腕使って俺のこと犯したいくらいには飢えてるなら通るだろうと思ったわがままは、一つ頷かれるだけであっさり叶った。
 寮生活だと風呂やシャワーが共有で、だから、ナマでシたら後片付けというか、後処理が大変で、腹を下すこともある。その辺は覚悟の上だ。
 しばらくできてなかった、口がふやけるくらいにしつこいキスをしていると、キレイにした後ろの口にローションに濡れた指が入ってくる。「ん、」のどこかでこぼこした歯列を舌でなぞりながら、少し久しぶりの感触に疼いて逃げそうになる腰を気合いで抑え込む。
 いろんな感情がごちゃ混ぜだ。
 大きな戦いが終わったと思ったらヒーロー社会が崩壊して、まだ十六だってのに俺たちには次々色んなことが降ってくる。ちょっとは休ませろ。

「あ、」

 の指先が気持ちのいい場所を掠めた。少し久しぶりだから感覚はまだ鈍い。
 こりこりと指先がそこを刺激する。「あ、ふ、」上げかけた声を口を塞ぐキスで黙らされた。
 隣には砂藤がいる。さっき菓子の甘い匂いがしてたから部屋にいるんだ。あんまり声を上げるのはよくない。そう言いたくてのキスなんだろうけど。気持ちがいいと声って自然と出るんだよ。
 自分の甘い声はなんだか自分のものじゃないみたいで俺は好きになれないが、は俺の声が好きみたいだから。聞かせてやりたいし、声を出したいけど。

「が、まん、する。から」

 キスの合間に伝えると、顔を離したが舌で首筋を舐め上げてきた。すげぇぞくぞくする。
 ………なんでセックスって気持ちがいいんだろう。
 男同士なんて、子孫繁栄の原理から外れてるし、尻にモノ入れて気持ちがいいってのが構造としてどうかしてる。だけどどう考えたところでのが気持ちいことに変わりはなくて、「は、はっ」与えられる刺激の強さに掠れた息で喘ぐ。
 ぐじゅぐじゅと、ローションと自分の内側がので擦られて泡立って、溢れてくのが見える。
 自分で足を抱えて、膝と肩がくっつくんじゃないかってこの体勢は結構腰とか辛いんだけど、のが俺に入ってるのがよく見えるから。辛いけど、嫌いじゃない。
 なるべく声を上げないよう、突き込まれる度に上がりそうになる音を呑みこみ、荒い息を吐いて、目が合ったとまたキスをする。口を塞ぐキス。それと同時に抜けるくらい入り口まで逃げていった熱が俺の奥を穿った。強い刺激に思わず上げた声はの口の中に消える。
 頭の奥がじんじんして、目の前に星が舞ってる。

(おく、きもち、)

 浅いところ、前立腺とかいう場所を擦られるのも気持ちいけど、奥の方をゴツンゴツンされるのも好きだ。手前は擦られると程よく気持ちよくて、奥は苦しいけど、他のこと全部忘れるくらい気持ちい。
 今は、全部、忘れたい。戦いのこととか、これからのこととか、そういうことをいったん全部忘れてしまいたい。

「も、っと、もっと、おく」

 だから、もっと欲しいと自分から腰を押し付けると、ぐっと唇を噛んだの両手が俺の腰を掴んだ。性の熱で浮かされた瞳は獣みたいに鋭い。「煽ると酷いぞ」酷くしていい。酷くしていいから、もっと、で気持ちよくなりたい……。