昨日の夜は早めに風呂に入って、気晴らしにベッドに転がってBDを見てたはずだけど、気付いたら寝てたらしく、健康的な朝の時間に目が覚めた。テレビつけっぱなし……。
 のそり、とベッドで寝返りを打って、違和感を憶える。広い。そんな感覚があったのだ。「…なんでだよ」抱いた感覚に一人ツッコミを入れる。シングルのベッドなんだから一人で寝起きするのは当然だろうに。
 朝一番の不快感を彼方に放り投げて、「〜お前今日ゴミ捨て当番だぞ〜」と扉を叩く砂藤の声に、スウェットの寝間着のまま外に飛び出す。「ごめん今から行く」記憶のない俺をカバーしてくれてる隣室の砂藤の手から燃えるゴミの袋を受け取って自分の部屋のを放り込み、扉の外に出ているゴミ袋を順番に回収していくと、まぁまぁの量になった。これから女子の方へ行くっていうのにもう一袋満タンか。
 ゴミ袋を引きずって歩いたら穴が開くだろうし、何袋かあるなら往復して捨てに行くしか、と考えていると、俺の手からゴミ袋が攫われた。視線で追いかけると紅白頭の轟がいる。なんか、目元が酷い色だな。クマかな。

「持ってっとく」
「…ありがとう」

 なんとなく轟に対して構えてしまうのは、部屋の紙片の存在が大きい。あの冗談だろと思うような誓約書のせいで、俺は轟のことを構えた態度で接してしまうのだ。
 轟がゴミを持ってってくれるっていうから甘えておき、新しい袋を手に女子寮のゴミを集め、満タンになったもう一袋を抱えてゴミを捨てに行く。
 今朝はそんなふうにして始まり、朝ご飯はエッグベネディクトとトーストとサラダを食べた。うまい。
 俺の記憶には寮生活が抜け落ちてるけど、みんな半年くらいはこの生活をしてるのだ。調理だってうまくなるってものだろう。
 しかし、春休み。やることがない。ついこの間『雪山キャンプ事件』なるものがあったらしいというのは机の引き出しにあったスケジュール手帳のメモを読んで知ったけど、思い出せないし。宿題もわかるところはやってしまったし。なんか、暇だなぁ。いつも何してたんだろう俺。
 宿題のわからない部分、とくに空白が多い英語の欄を眺めて、轟が得意だったなぁ、とぼんやり思って宿題片手に部屋の扉を叩くと、今朝よりさらに悪い顔色で出迎えられた。

「どうかしたか」
「いや、宿題の英語がわからないなって……お前こそどうしたわけ、その顔」
「寝れてねぇだけだ。気にするな。宿題なら終わってるから教える」

 それで畳の部屋に上がったわけだけど。どう見ても大丈夫そうじゃない轟に眠そうな顔で英語を教えてもらってるのも悪いなと思い始めた。だから軽い気持ちでたたまれている布団を指して「寝る?」と訊いたら驚いた顔をされた。…なんだよ。病人みたいな顔の奴放っておくほど薄情じゃないつもりだけど。
 仕方ないから布団を敷いてやって叩くと、大人しく転がった。と思ったらなんでか俺まで転がされた。そんでぎゅっと抱き締められて頭の中がカチコチに固まる。「なんで俺まで……」「こうしないとねれない」もう寝かけている声にぼやかれ、なんだそれ、と顔を顰めたところに寝息が聞こえてきた。はっや。
 そろりと視線を上げると、顔色悪くてもイケメンだなと思う面が近かった。

(なんだろう。変な気分だな)

 同性で、クラスメイトで、親しい間柄なんだろうけど。今の俺には遠いはずの轟焦凍って存在が、なんだか無性に気になってきた。
 部屋の壁に貼ってあったアレは本当なのか。罰ゲームとかじゃなくて本当にあの内容のままの意味だとすれば、それはどういうコトなのか。こういうコトでいいのか、と筋肉がついてて逞しいなと思う体に指を這わせる。腕とか胸とか筋肉すごいな。さすがヒーロー科のエースでイケメン。腹筋割れてる。
 轟の体を触ってると、なんかどんどん変な気分になってきた。
 硬く突起している乳首に指を当てて擦ると寝てる轟が吐息を漏らした。感じてるらしい。「ふぅん」ぺろ、と唇を舌で濡らしてから黒いシャツをめくり上げて、開発されてなきゃこうぷっくりはしてないだろうって乳首をしゃぶる。
 おかしいな。俺は何をしてるんだと、頭の冷静な部分が自分の行動に問いかける。
 確かに自室にはこういう関係を示唆しているような紙片があった。
 でも、ただの罰ゲームで書かされただけのものかもしれないし、俺の勘違いだという可能性も充分にある。あるのに。
 ズボンの中に手を突っ込んで、勃起しかけている轟の雄を右手で弄んでいると、眠かったろう轟もさすがに目を覚ました。「…っ?」「おはよ」全然寝てないだろうけど。
 これで轟が拒絶するようなら俺の勘違い、ってことになるんだけど、轟は嫌がらなかった。嫌がるどころか俺の首に腕を回してキスしてくるから、ああそういうことか、とこれまでの轟を振り返って、俺の行動一つ一つに過剰な反応を見せてたわけに納得した。
 そりゃあ、付き合ってる奴に拒絶されたら誰だって傷つくし、寝れないし、こんな酷い顔にもなるってもんだろう。
 実感はないけど。轟相手に勃起してるわけだから、記憶がなくたって、体が憶えているわけだ。

「かわいい」

 俺に犯されて喘ぐ姿に素直にそうこぼしたら、轟の両目からぽろりと涙がこぼれた。うわぁイケメン泣かせた。「いやだった? ごめん」「ちがう」違う、とこぼした轟が舌を出してねだるキスに応えて、ガマン汁が止まらない轟のを指で擦って追い詰める。同じ泣くならこっちのが俺は好き。
 轟を一回イかせて俺も一回吐き出した、あたりで頭の中でパリンと音がした。「…っ」瞬間の、頭の中に強制的に映画を見させられたかのような情報量の渦に眩暈を覚える。

?」

 心配して伸ばされた焦凍の手を取って自分の額に押し付ける。「もどった…」「え」「戻った。焦凍」記憶が抜け落ちてた間のことをごめんと謝りながら足を掴んで腰を打ち付けると短い悲鳴が上がった。「俺素っ気なかったな。ごめん」「あ、ッ」自分の口を押さえて声を堪える焦凍を息つく暇なく追い詰め、二回目を吐き出させる。
 たぶん、時間経過で俺にかけられた個性が解けたのだ。と思う。
 自分の神経に意識を張り巡らせる。……うん、欠けてる記憶はない。夏休み明けからこれまでのこと、全部憶えてる。初めてしたキスも、セックスも、オセオンのことも、インターンのことも、雪山キャンプのことも。
 なんて忙しないんだろう、と戻った記憶を振り返りながら、焦凍の足の裏をべろりと舐めたら変な反応をされた。いつになく気恥ずかしそう、というか。「き、たない」「いいんだよ。俺が舐めたいんだから」足の裏から火傷の痕まで、ぜーんぶ舐めて慈しみたい。そういう気分なんだ。