兄からの助言を活かし、無防備だった町の外に掘を作り、外からの出入りを跳ね上げ橋式に変更。粗末だった木の壁は石工を呼んで頑丈なものを組み上げさせた。 寄せては返す海からの侵入に対しては、あまり有効な手立ては浮かばなかった。 町の収入源にもなっている漁場がある。素人が下手に弄ることはできないし、封鎖もできない。 結局漁場の左右の位置に簡易の見張り台を立て、夜通しここに立つよう、自警団の人間には仕事と金を追加した。 その分、出来上がる干物とか、海苔とか、乾燥、あるいは発酵して日持ちするものは親父んとこへ回すものを増やす。あっちは内陸で魚介には飢えてるはずだし、文句だけ言われるってことはないはずだ。 これで町で打てそうな手は尽くした。 あとは馬を使って、この辺りのマモノの分布を調べ直す、とかになるか。 俺がここに来る前は自警団が気紛れにやってたらしいが、今は町の警備を重点的にしてもらってる。外の探索まで任せる人出はないだろう。 「焦凍」 「、」 ぺた、と首に当たった温度に地図から顔を上げれば、がアップルパイの載った皿を持っていた。切り揃えた白い髪がさらりと揺れる。「これ、おやつって」「ああ。もうそんな時間か……」かかった金とか今後のことを考えてただけだが、時間が過ぎるのは早い。 紅茶の茶葉が切れたから、この町の人間が好んで飲んでいるという昆布茶(うまいがアップルパイには合わない)とパイのおやつを食べながら、満足そうに頬張っているのことを眺める。 ………この町で個性が使える人間は少ない。自警団の若手か、個性を商売に繋げている奴か。 満足に戦えるのは俺くらいだが、そうなると、危険も伴う。を連れては行けない。 だが、この屋敷に一人置いていくこともしたくない。 そんなことをすれば『領主の息子に気に入られている運のいい奴』って妬まれているが、陰でどんな目に合うか、わからない。 この屋敷で働いている人間だって、のことを好意的に思ってないのは目を見てればわかるんだ。この間の散歩だって、俺が隣にいたっていうのに『道端に転がってた人間が』って蔑んだ目でのことを見ている奴は何人もいた。 俺がいるから何も言ってこないししてこないが、が一人きりだった場合、明るい想像はできない。できれば一人にしたくない。 (連れて行く。しか、ないか) 次の日、しばらく活躍していなかった愛馬に鞍を取り付け、馬は初めてだとおっかなびっくりしているを鞍の前の方に乗せる。「う、ぉ、わ」「背中丸めるな。背筋伸ばせ」「う、はい」なんとか座ってるの後ろに跨り、白い馬の腹を蹴る。 馬に慣れていないのために駆け足にさせることはやめて、軽い散策のつもりで、道から少し外れた場所を歩かせる。 海から吹き付ける風が、雪みたくふわふわした白い髪を揺らして俺の顔を叩く。くすぐってぇ。 初めての高い目線で怖がらねぇかと思ったが、は思ったより楽しんでるようで、「馬すげーなぁ。俺たち二人乗せて重くないかな」と感心したようにたてがみを撫でている。 「どこまで行く感じ?」 「適当に」 「てきとー? 目的ないの?」 「あるにはある。マモノの分布の確認」 「ああ、この間お兄さんが言ってた。活性化してるってヤツ」 「ん。ここは大陸の端だし、マモノも少ないが。用心するに越したことはない」 「そのために、町の出入り口も立派になったんだろ。お金使ったよなー」 振り返って笑う顔に自然とキスして顔を離すと、逸らされた。「落ちるだろ」と。今更キスぐらいで驚かないくせに。「しっかり鞍持っとけ」前を向かせて、頼りない握力をしている左手も右手と一緒に鞍を掴ませる。 馬にも休憩を入れながら行けるところまで行ってみたが、洞窟や森といったマモノの好みそうな場所に特別な変化は見られなかった。 ただ、廃墟になって久しい建物に、野営の跡があった。 珍しい話じゃない。今いるのは田舎町だが、海産物の名産品はそこそこ有名だし、個人的に買いに来たとか、大口の取引に来たとか、そういう人間がここで野営していった可能性は充分ある。が。 ………一般的にマモノと言われているモノは、もともとは人間だ。異形の個性で見た目が化け物みたいで、それでヒーロー社会で燻ってきたと、あの決戦時、ほとんどがオールフォーワン側についた。 だが、何度か相対したマモノに言葉は通じねぇし、理性のようなものも感じない。 あれから何年たってるのかは不明だが、マモノには、人間らしい思考力ってのはあまり残ってないんだろう。 もとは同じ人間。だが、今は人を喰らう異形の化け物。人間の敵。 だから仕方のないことだと、いつもそう割り切って斬っている。 これが行商人の野営の跡ならいいが。もし、それだけ頭の良いマモノで、防御を強化した町の下見をしていたんだとしたら……。 周囲を観察していると、じっと焚き木の跡を見ていたがひび割れている石の床に手を当てた。 目を閉じたその姿にヒーロースーツ姿のがダブって見えて、反射的にその手を掴んで引き上げる。「…?」ぱちくり瞬いて不思議そうにこっちを見上げている目には、必死な表情の自分が映り込んでいる。 「ダメだ」 「え」 「お前のその魔法は、使っちゃダメだ」 「……俺、魔法が使えるなんて、言ったっけ」 首を捻ったに唇を噛む。 出会ってからこれまで、個性を使ったところは一度も見てないし、話として訊いたこともない。が。俺に氷炎の個性が引き継がれ、母に煮え湯を浴びせられたわけでもないのに、生まれつき顔に痣があったように。のなかった左腕が、ここではうまく動かないものになっているように。お前にはきっとあの個性がある。 この場所に神経を繋げれば、何か情報は得られるかもしれない。それはわかる。お前が俺の仕事を思って調べようとしてるんだってことはわかる。 だからこそ、使わないでほしい。 俺の表情がよっぽど真剣だったのか、は困ったような顔で右手をぐっぱさせる。「えーと、使わない。から。離してもらえると……」「絶対だぞ」「え。うん」困惑したように眉尻を下げた顔に、意味わかってるんだろうな、と思いながらも手を離す。 俺の目が黒いうちは、に個性は使わせない。絶対に。 その日は焚き火の跡以外には収穫がないまま帰宅。今日はよく歩いてくれた馬の手入れの仕方を教え、と風呂に入って砂埃を落とし、一緒に飯を食って、一緒のベッドに入る。 (幸福は儚い) やっと見つけた俺の光を手の甲でそっと撫でる。白い髪がふわふわやわらかくて雪みたいだ。 馬に乗ってたとはいえ長い外出だったからか、はベッドに入ったと思ったらすぐ寝てしまった。 すー、と平和な寝息を乱すように、ジジ、とランタンの火が揺れる音がする。 窓の外から滲み出す闇に、ランタンの光が届かない部屋の隅から這い寄る黒に、来るな、と拳を握る。 (来るな。来るな) 俺の光を覆うな。俺のものだ。俺を照らす太陽なんだ。なくなったら凍え死ぬ。生きていけない……。 疲れて寝ているとわかっていながら、あの頃より薄くて小さいと感じる体を抱き締める。 大丈夫。心臓の鼓動がわかる。生きてる。 生きてる。 「…?」 ぎゅっと抱き締めたままでいると、眠そうな目がこっちを見上げてくる。やっぱり起こしたか。「しょうと?」「ん」「ねよう」「ん……」だいぶ健康的な色になった唇を食めば、寝る前に塗らせている薬の味がする。 は疲れてる。体力だってまだない。無理はさせたくない。けど。不安で、寂しい。 「」 唇を擦りつけて、勃起してるもんも擦りつけると、眠そうな瞳がゆるゆると細くなる。「げんき」「ん。わりぃ」「べつに、わるくない。けど。おれはあんまり、そういうげんきが…」「ココだけ貸してくれ。自分でスる」ワンピースのシャツをまくって下着をずり下ろし、眠いんだから当然萎えてるちんこを咥える。 あれから暇さえあればこの町にある古い巻物なんかで調べてはいるが、男が妊娠するための明確な方法ってのが載ってない。載っててもなんか抽象的だったり、ものによって内容が違う。 この田舎町に男で妊娠した奴がいるって話は聞かないし。やっぱり一度、轟の領地に戻って、そこできちんと調べた方がいいかもしれない。 戻ってこいとうるさい兄の手に乗るようで癪だが。お母さんにのことを紹介したいし。そろそろ顔を見せておきたいし。男だけど子供が欲しいって、お母さんにはちゃんと言っておきたいし。 (俺が口ですればデカくなるんだから、充分元気だ) 俺の口と手でデカくしたのちんこをケツにあてがう。このときが一番心臓がドクドクとうるさくなる。 「ふ、ぅ…ッ」 硬くて熱いもんをゆっくりと自分の中に沈めて、いっぱいにしていく、この瞬間がとても好きだ。 指じゃ絶対に届かない場所まで、苦しい、と思う質量で埋められる、この感覚が好きだ。 少し苦しくて、でも気持ちいい、がいるから知れるこの感覚が好きだ。涙が出るくらい。 夢中になって腰を振って自分のイイところを自分の好きなように擦り、抉り、ひたすらベッドを軋ませる。 眠そうにしてたは、そのうち本当に寝てしまった。時折気持ちよさそうに呻きながらも目は覚まさない。 これって睡眠姦にならないか。いや、ヤり始めたときに同意は得てんだから違うか。 でも、寝てんのにこんなに硬くして、俺のこと気持ちよくできるんだな。それってなんかすげぇ。 腹にびったりつくくらい勃起している自分の先端からとろとろと透明な汁が垂れている。「あー、きもち。な、」寝ているかわいい顔にキスをしてひたすら腰を振ってると、のが脈打って、腹の中がじわっと熱くなったのを感じた。 (中出し) 理解した瞬間自分の方もブルッときて白い体液を吐き出す。 ぱたぱたとの腹にかかった白をなんとなく指で塗りたくって、オレノモノ、なんて書いてみる。完全なる自己満足。「これで、妊娠すればいいのにな」まだお前のが入ってる腹をさすって、後処理しないと眠れないから、仕方なくの上から退く。 ぬぽ、と音を立ててのを抜いて、右で作った氷を銀のたらいに入れ、左の炎で程よいぬるま湯になるまで溶かし、浸したタオルで精液を塗りたくった腹とかをきれいにしておく。 浴室に入って、同じ要領で浴槽にぬるま湯を張り、中にあるのを指で掻き出す。 (もったいねぇから、今度は口に出してもらおう) |