時間は、少し遡る。
 が荷解きのためにあてがわれた部屋に入るのを見届けた俺は、素早く行動した。
 まずはを除いたみんなに共有スペースに集まってもらい、結婚式がしたいことを告白。その中でもとくに役目のあるクラスメイト、砂藤には両手を合わせてウエディングケーキを依頼。次に八百万に白いタキシードを二人分頼み、ネットで調べておいたもんの方も携帯に表示させると、ものすごく驚いた顔をされた。

「と、轟さん、これは…?」
「わりぃ。これも作ってほしい」
「ええと……その、サイズは、お二人のどちらの…」
「俺だ」

 俺とのサイズについては測ったのを紙に書いて渡してある。
 俺の方で創造を頼むと、顔を赤くした八百万が迷ったような間のあとにぐっと拳を握った。

「やります」
「ほんと、わりぃな。力温存しなきゃってときに」

 最終決戦を控えてて、八百万は創造の個性をフルで使う立ち位置だって、わかっちゃいるんだが。それでも頼めるのが彼女以外思いつかなかった。
 自分で用意できないもんかと思ったが、今市街の流通は死んでる。物資も不足している。少し前みたいにアマゾンでポチればいいって話じゃない。
 俺の浅い知識じゃ、今のこの状況で自力でタキシードとかを手に入れるのは無理だった。
 八百万は自分の携帯でも画像を検索しながら、なんか少し笑っている。「いいんです。私、あのとき、作戦とはいえ、さんを騙してしまいました」「ああ…」作戦て、あれか。隠し事をしてるを吐かせようってときの演技のことか。「ずっと気にしていたんです。その償いだと思えば、なんてことありませんわ」……あれはお互い様で、気にしなくていいっても言ってたのに。律義だな、八百万。

「轟さんがこちらを着れば、彼は喜ぶのでしょう?」
「……と、思う」

 前に似たようなもん着て誘ったらすげぇ犯された。とは言わず、こくりと頷いた俺に、八百万もこくりと一つ頷いた。
 そんなわけで、八百万に頼んだタキシードと、内密に創造を頼んだ服の方はこっそり受け取って部屋のトイレに運び込んだ。
 それが二時間ほど前の話。
 盛大な結婚式のあとはみんなで片付けをして、楽な部屋着に着替えたは、ケーキを食いまくって満足そうにベッドに転がっている。
 俺が結婚式以上のサプライズを用意していることなんて想像もしてない。よし。

「ちょっとトイレ」

 言い置いてトイレにこもり、まずは浣腸で自分の中をきれいにする。それから作ってもらった服…つうか、下着と透けてるドレスのような布を持ち上げる。力加減間違ったら破きそうだ。
 肝心なとこも全部透けてて全然隠せてない、曰くどスケベなランジェリー(式のあとだから明るめのオレンジにした)を身に着け、上から半分透けてる白いドレスを被って着る。肩が出てるからスースーする。
 着忘れてるものはないかと紙袋の底を見れば、白い靴まで入っていた。
 わざわざ創造してくれた八百万に感謝しながら、少しヒールのある靴をぐらつきながらも履いて、よし、終わり。
 これも創造してくれたらしいオレンジの花の髪飾りを短くなった髪につけ、そろりとトイレから顔を覗かせる。何も知らないはベッドに転がって携帯を弄っている。
 カツ、とヒールの音を響かせながら、転ばないように足元に注意しながら一歩一歩歩く。


「んー」

 ごろりと何気なく寝転がって、弄っていた携帯から俺へと視線を移したが、携帯を落とした。顔面に。それで「いっで」と声を上げて涙目になりながら俺のことをガン見してくるから、自分から着たのに、ちょっと恥ずかしくなってきた。
 別に、似合ってるとかは、思ってない。似合ってるって言われたらそれはそれで複雑だ。
 ただ。俺に夢中になって、俺以外のことを考えないでほしい。
 俺も、お前に夢中になって、お前以外のことを考えない時間がほしい。
 大事な戦いの前に、そういう時間を、感じたい。
 ガン見してくるだけで何も言ってこないに、じわっと嫌な感じに汗をかく。……まだ何もされてないのに乳首が疼いてきた。見られてるだけなのに。
 いい加減何か言ってくれ、と思ったとき、床が跳ね上がって手の形になった。「っ、」がし、と腰を掴まれる感じでベッドに連行されてポイッと投げ捨てられる。いてぇ。靴脱げた。
 それがの個性によるものだと理解するのに三秒かかって、ぎこちなく顔を上げれば、こっちを見下ろしている色の薄い瞳と目が合う。
 この目はあれだ。獲物を前にした獣の目。

「何それ。その格好」
「…か、わいい、だろ」

 だけが俺のことをそう言う。
 普段はカッコイイだとかイケメンだとか、そういうふうに言われることの多い自分が、にとって何がどういうふうにかわいいになるのか。よくわからねぇけど。俺がかわいいとが夢中になるんなら、こういう格好だってする。
 じっと見ているだけだったの手が伸びて、肩の露出してるところから中に突っ込まれた。「おい、」ぎゅっと乳首をつねられて肩が跳ねる。そんなにしたらいてぇ。

「焦凍はさぁ」
「……ん」
「ほんと、俺の理性壊すの、好きだよね」

 半透明なスカートの上から股間を撫でられる。オレンジの下着は透けてて全然何も隠せてない。
 もう半勃ちになってる場所を何度も何度も撫でられる。だけどそれ以上触れてこない。乳首をこねくり回されてるだけでキスもない。「そこゃだ。、」「コリコリじゃん。えっち」「ち、げぇ。が触るから…っ」「俺のせい? まぁいいけど」乳首ばっかりくどいくらいに弄ってくる。

、ちゅう。ちゅうする」

 口が寂しい。もっと触ってほしい。もっと色々してほしい。乳首ばっかり敏感になって辛い。
 舌を出してキスを乞えば、やっとしてくれた。さっきまでケーキ食ってたからすごく甘い舌が俺の口の中を動き回る。
 上顎。歯肉。舌のやわらかい場所。全部に触れていくに背筋が騒ぐ。
 飲み切れなかった唾液が口の端から顎を伝って落ちていく。
 もっと。もっと触ってほしいのに、乳首ばっかりだ。もうそこはいい。
 乳首ばっかり弄ってくる手を掴んで引き剥がし、撫でてくるだけで中途半端な刺激しかくれない義手も掴んで押し倒す。ギイギイ悲鳴を上げるベッドはどこでも同じだ。「しつけぇ」睨みつけてもは意地悪な笑みを浮かべるだけ。

「どーしたいの」

 一人でにめくれ上がったドレスの裾がばさっと視界を覆ってきて、まるで花嫁のヴェールみたいだな、なんて思う。
 結婚式なんてやったからかな。これ、なんか、初夜みてぇだ。初夜なんてとっくに迎えてんのに。
 こんな格好してるせいか、普段なら意識もせずにシたいって言えるのに、なかなか言葉が出てこない。
 ごくり、と唾を飲み込む。「セックス。したい」やっと言えた。つうか、俺がこんな格好してたらヤることなんて一つに決まってんのに、は意地悪だ。

「昨日もシたのに?」
「昨日は昨日、今日は今日だろ。もう治まりつかねぇ」

 焦らされ続けて勃起してるもんを擦りつければ、も勃ってるのがわかる。お前だってこんなにしてるじゃねぇか。
 お前が意地悪するなら、いい。その気にさせてやる。
 相変わらず薄いなと思う腹の上に乗っかると「げふ」と潰れた声を出したが重いって顔をする。その手を離して、部屋着のスウェットのズボンを下着ごとずり下げる。
 さっき少し慣らした。ゆっくり挿れれば入るだろ。

「ゴム」
「いらねぇ」
「いる。体調崩させるわけにはいかない」

 ベッドサイドに手を伸ばしたの手がゴムの袋を放ってくるから、仕方なく掴んで封を破る。
 ナマでしたかったんだけどな。ゴムしないならシないって言われそうだし、仕方ないからつけてやる。
 こうすると男は興奮するらしいってネットで見た知識を使って、の顔にケツ向ける感じで四つん這いになり、ゴムつけるのを口だけで頑張ってみるが、なかなかうまくいかない。「ん…ッ」そんで口がゴムくせぇ。これは練習しないとうまくならないやつだ。
 四苦八苦しながらようやくゴムをつけて、さっきよりデカくなってるなと思うのをケツにあてがって、一気に、埋めた。「〜っ、は、」ゴツ、と腹の奥を叩く感覚に全身が震える。
 指で慣らさないのは、やっぱりちょっと、キツいな。
 震える手を伸ばしての両手と指を絡めて握り合う。固く、強く、握り締める。

「好きだ。。愛してる」

 結婚式をしたせいかな。今はとにかく、お前を愛したくて、愛して欲しくてたまらない。
 心で。体で。全部で。

(愛してほしい。愛して、)

 猫みたいに目を細くしたの隣で畳まれていた布団がずるりと動いた。俺の腰に巻き付いたと思えば持ち上げていく。「ぁ、あ…ッ」体が持ち上がった分だけのが動く。俺の内側を擦りながら抜けそうになる。
 このままじゃ抜ける、と思ったところでの上に勢いよく下ろされ、ぱん、と肉同士がぶつかる音が響いて軽くイッた。「……っ!」ビリビリとした強い刺激が腰から頭へ突き抜ける。目の前がチカチカする……。

「俺も好きだよ。愛してる」

 その言葉がじわりと肌に滲む。
 ……腹の奥が疼く。もっとここをお前で愛してほしい、って。
 俺の気持ちに応えるように、巻き付いたままの布団で体を持ち上げられる。「そ、れ、つよぃ、」ぎゅうっと手を握って訴えたがスルーされた。またのが抜けそうになるくらい体を持ち上げられて、ぱん、と音がするくらい勢いよく下ろされてゴツンと腹の奥を突かれる。
 腹の奥までのが入る。苦しい。でも気持ちいい。「あッ!」びくり、と大きく震えた体が精液を吐き出す。前弄ってないのにもうイッた……。

(俺が、自分で動いて、の余裕を崩すつもりだったのに。意地悪な顔で余裕ありそうに見えて、実はそうじゃなかったのか)

 何度何度も体ごと打ち付けられて、腹の奥を犯される。

「好きだろ、奥」
「ぁ、すき、すき」
「気持ちい?」
「あー、ぎもぢ…ぃ、あ、イく、ぃぐッ」

 馬鹿みたいに口からもちんこからも涎を垂れ流したまま、快感で滲んだ視界でとにかく腰を振って気持ちのいい場所を抉る。抉り続ける。「、ちゅう」「ん」生き物みたいに俺に巻き付いていた布団がただの布団になってベッドにへたれる。
 口寂しかった唇を押しつけて舌を出す。動物みたいにぺろぺろ舐めてるとやっとのぬくい温度が絡まってきて、夢中になって吸い上げる。
 大事な戦いの前だ。腰が砕けて動けなくなるまではできない。わかってる。
 わかってるから、もう少し。もう少しだけを感じていたい。俺の中で脈動するこの熱を、忘れないように。