焦凍が旅に出ると決めて、メンバーである緑谷、飯田、麗日を轟のお城に招待してからこっち、俺はとても忙しい。なんでかって、世話役としてしなければならないことが山と降ってきたからだ。
 焦凍が緑谷たちのことを炎司さんに紹介している間、俺は怖い顔で腕組みしているメイドの人に指示されるまま、リネン室を始めとしたあちこちから旅に必要なものをかき集めている。

「焦凍様がいつでも身綺麗でいられるように! シャツは最低五枚。衣服はシャツを基本に用意なさい」
「はいっ」

 指示はくれるけど、手伝ってはくれない。それは俺が焦凍の世話係だから、というだけが理由じゃないってことは、『なんでこの子が』とこちらを強く睨みつける目を見ていればわかる。
 どこへ行ってもそういう目で見られる。そのことには慣れた。ただ、

「っ、」

 隣を通ろうとしたら爪先で足を引っかけられて、運動神経のよくない俺は絨毯の上とはいえ顔からダイブしてしまった。血は出てないけど痛い。「どんくさいわね。立ちなさい」「は、ぃ」左腕で変な受け身を取ってしまった。しまったな、ただでさえダメな方なんだからせめて右手をつくべきだった。
 まぁ、このくらいの嫌がらせ、サラッとかわせないと駄目なんだろうな。そんなことを考えながら左腕で着替えを入れるカゴを抱え直そうとして、うまくいかないことに気が付いた。
 目の前に左腕を持ってくれば、本来あるべきじゃない方向に腕が曲がっていた。もともと変になっていた左腕がさらに残念なことになっている。
 この辺りの神経は、過去に折られたときになんか神経がぐちゃぐちゃになったみたいで、痛みもうまく伝えてこない。から、あまり痛くはないわけだけど。これは、やってしまった。
 俺の腕を見てサッと顔を青くしたメイドが辺りをキョロキョロ見回して後ずさる。

「あ、あなたが勝手に転んだの。勝手に腕を折った、そうね!?」
「…はい」

 変な方向に曲がった腕を右手で掴みかけて、いや、自分でやったら余計に酷くするかも、と思いとどまって、走って逃げていくメイドの後ろ姿を見送る。
 名前とか、いちいち憶えてないし。どうでもいいか。
 医務室へ行こう。治癒術が使えるおばあちゃんが治してくれるはずだ。
 左腕がぷらぷらしないよう右手で掴みながら医務室に行って、『焦凍の旅路の準備をしている最中に転んで、左腕で受け身を取ってしまったらこうなった』ということにして(九割は真実)こっそり仕事に戻「っ!?」……れなかった。
 ぎこちなく顔を向けると、全力でここまで走って来たんだろう焦凍がいる。

「怪我したって聞いたっ」
「ああ、えっと。俺がドジをしただけなんだ」

 幸いなことに、おかしな方向に曲がっていた左腕は元の位置に戻りつつある。ぱっと笑顔を浮かべても変じゃないだろう。「ほら、もう治るから」おばーちゃん先生が処置してくれている腕を指して、先生には頼むから黙っていてほしいな〜〜って空気を醸し出してとにかく無事をアピール。
 しかし。俺は轟家のセキュリティーというやつを甘く見ていた。
 先生は笑って誤魔化す俺に何も言わなかったけど、焦凍は怖い顔で医務室に入って来ると俺の右腕を掴んだ。「もういいか、ばあちゃん」「あいよ」それで引っぱられるまま連れて行かれたのは地下室だ。
 てっきり倉庫とか武器庫とかがあるんだろうと思って立ち入ってなかったエリアには、氷の水晶球がたくさん並んでいて、それを守るように兵士も配置されている。

「これは……?」
「お母さんの力だ。ここで城と街の監視をしてる」
「へぇ」
「城の場合は侵入者対策。街の場合は治安のためだな」

 きょろきょろする俺を引っぱってとある水晶の前で立ち止まった焦凍が「がいる時間を再生しろ」と言うと、今現在の無人の回廊を映していた水晶が時間を巻き戻していく。
 あ、これは、すごく、嫌な予感がするぞ。
 水晶は命じられた通り、俺がメイドに指示されてどたばた走り回っている時間を映し出した。「えっと……」メイドが爪先を出して俺の足を引っかける。俺が転ぶ。左腕が、おかしな方向に曲がる。「これは…そのぉ」ギロ、と俺を睨んだ焦凍が指を鳴らすと外に控えていた兵士が入ってきた。「お呼びでしょうか」「このメイドを牢屋に入れろ。罪状は本人がわかっているはずだ」「はっ」ガシャガシャ鎧を鳴らして出ていく兵士の人にかける声も思いつかないし、目の前で怖い顔している焦凍への言い訳も浮かばない。

「こういう目にあったら言えって、言ったよな」
「……はい」
「お前の命は俺のものなんだぞ。俺のものを、お前を、もっと大事にしろ」

 ぽろ、と涙をこぼした焦凍に強く抱き締められて、返す言葉が見つからなかった。
 ………不当に扱われることをなんとも思わない人生を長く、長く続けてきた。
 誰かに想われたり、望まれたり、そういうことの方が、まだ慣れない。
 ゆっくりでいいから慣れろと言われても、『俺が我慢すればそれで終わるんだから』って、そこからどうしても抜け出せない自分がいる。「……泣いてんの?」俺の肩に額を押しつけて黙っている焦凍の紅白色の髪を指で梳く。さらさら。今日もきれい。

「ごめん。……不当に扱われることに、慣れちゃってて。俺が我慢すればすむ話だからって、今回も、思って。それで」
「セックスするぞ」
「えっ」

 急な話の流れにぽかんとする。兜で見えないけど、他の兵士の人もぽかんとしてたと思う。
 焦凍は涙目で俺の腕を掴むとずんずんと階段を上がっていく。「え、ちょ、焦凍」「セックスで詫びろ」「はぁ?」なかなかに意味がわからない。
 意味がわからないまま焦凍の部屋に連れ込まれてベッドにポイされ、焦凍が人払いを命じてる間、困った顔以外の何ができたろう。「え……と…香油と、洗浄液と……」それでもセックスにいるものがまとまっているボックスを持ってくるくらいはした。なんで今からセックスするのかはよくわからないけど。
 バン、と音を立てて扉を閉めて鍵をかけた焦凍はまだ怖い顔をしている。

「今日は風呂でスる」

 ということなので、セックスセット一式を抱えて浴室へ移動。まだ怒ってるぞって空気を出してる焦凍に大人しく従う。
 本来ならお湯って入れるのにそれなりに準備がいるんだけど、焦凍は自分の魔法で右から氷を出し、その氷を左の炎の魔法で溶かしてちょうどいい温度のお湯を作ることができるから、あっという間にお風呂に入れるようになる。
 ぽいぽい不機嫌そうに服を脱ぎ捨てていく焦凍に、仕方なく服を脱いで畳んだ俺は、焦凍が命じるままに一緒にお風呂に入るのでした。
 気に入らない。とにかく気に入らない。『痛みに慣れていること』にも、『不当に慣れていること』にも、いつまでたっても『幸せに慣れてくれないこと』にも。
 だからってそれを責めても仕方がない。わかってはいるんだ。お前が悪いわけじゃない。
 でも、お前を傷つけた奴を許せそうにないし、この苛立ちも簡単に消えそうにない。
 だからセックスで全部忘れることにする。

「今日は準備もお前にしてもらう」

 ばちゃ、と湯を叩いた俺にまだ困惑顔のがこくりと頷く。
 したことはないだろうから、俺が自分でやるときのことをイメージしながらの右手を引っぱり寄せる。「もっと近く」俺が足を広げた間にが入れば、額同士がくっつくくらいの距離になる。
 じっと睨みつけていると、首を竦めたが遠慮がちに頬にキスしてきた。「口がいい」「ん」ちゅ、と下手なリップ音で一回だけで終わる口付けに眉間に皺が寄る。
 まぁ、仕方ない。今はこれで許してやろう。

「最初のときに弄ったろ。俺の気持ちいとこ。探しながら、中のもんを外に掻き出す感じだ」
「うん」

 まだ遠慮がちだが、ちゅ、と首に降った唇が下へ下へと下がっていく。肌をなぞりながら鎖骨を噛んで、乳首を舐めて噛んだのと同時に指が指し込まれた。
 片手と口で胸を刺激されて、ケツの方ではゆっくり指が動いてる。
 このもどかしい時間が少し苦手だ。早く気持ちよくなりてぇってそればっかりになるから。

「あのさ」
「ん」
「練習、していい?」
「なんの」

 指と舌でこねくり回された乳首が、爪と歯でカリカリと刺激されて、硬くなってきた。伝わってくる刺激が鈍いものから種類が変わる。少し離れた口が「わがままを……いや、違うな。自分を通す、練習かな」「…? それ、セックスでできるもんか」ぺろ、と舐められた乳首は勃起していて、触ってほしそうに疼いている。
 が笑ってピンと硬くなってる乳首をつねった。その強さにびくんと体が跳ねる。「う、ゃ、だ」「うん。やだって言われても今日はやめない」自分を通す、って、そういう……。
 それは、やらないよりはいいのか? 自分の意思を通す練習って、セックスが最初でいいのか? そんなことをぐるぐる考えているうちにの指が気持ちいいところを擦った。「あっ」勝手に腰が揺れる。
 洗浄も兼ねてるから、の指が出入りする度に湯は汚れたが、そのことに嫌な顔一つしないし、お前は赤ちゃんかってくらい乳首をしゃぶってる。

「ん、ふ、…ッ」

 前立腺。指の腹で撫でられるのも、強めに擦られるのも、気持ちい。押し潰されるように円を描かれると腰が勝手に揺れる。
 一本だった指が二本になって、指で挟まれるように前立腺を掴まれたときはちょっと漏らした。湯の中だからわかんなかったろうけど。「そ、れ…ッ」「気持ち?」「ん、」指で挟まれてぐりぐりされるの気持ちいい。
 だいぶ汚れた湯を一度流してもう一度ぬるま湯を作り、洗浄液を垂らす。もう充分きれいになったと思うが念のためだ。
 も俺もすっかり勃起してるが、律義なは指が三本入るまでは俺の中に入ろうとしないから、仕方なく足を広げてやる。
 また乳首に伸びる手を掴んで「キスがいい」とねだって舌を出す。乳首は弄られすぎて腫れぼったいからこっちがいい。
 白い髪をかき上げたがちゅっとリップ音を響かせてから舌を出して俺の温度と交わらせた。それと同時に指が三本、中に入ってきて、遠慮なく前立腺を抉った。気持ちいいところを。「んッ」ぐりぐりと強く、それでいて強弱をつけて動く指に意識の半分以上が持っていかれる。

(気持ちい。ぐりぐり気持ちい。気持ち、)

 細い指がぐちゃぐちゃと俺の中を掻き回す。
 ばちゃばちゃとお湯が揺れるくらい激しく抜き差しされて、指先でゴツゴツと気持ちいいところを突かれて、その刺激の強さに溜まっていた熱は呆気なく弾けてぱちゃんと湯の中に落ちた。キスで口を塞がれてなきゃみっともない声を上げてイくとこだった。
 解放された口でぷはっと息を吐いて、一回出したのに萎えてない自分のちんこを見やる。むしろここからが本番だろってくらいヒクついて元気だ。
 指が抜かれて、空いたスペースにお湯が流れ込むのがなんともむず痒い。

「バックでしたい」
「……ん」

 今日はが自分の意思を通す練習、も兼ねてるから。俺は顔見てするのが好きだけど、がそうしたいって言うならそうする。
 浴槽に腕をかけて寄り掛かる感じで腰を突き出す。「これでいいか」「うん」腰を掴んだ手とケツに当たる熱に体が歓喜する。早く、って。
 解した口にあてがわれた熱がずぷりと俺の中に沈んだ。「ぁ、」ゆっくり、解れてることを確認するように慎重に入ってきて、ごつ、と気持ちいいところを叩かれる。

「今日はね、ここを虐める」
「は…?」
「開発、っていうの? 焦凍がもっとよくなってくれるように」

 だから、今日はここをめちゃくちゃにします。
 そう囁いて首を舐めるぬるい温度に背筋が粟立つ。
 こっちの世界では、轟の人間としての仕事もあったし、ずっとお前を探してたから、ケツを弄ることは最低限しかシてなかった。それでもお前とのセックスは気持ちよくはなれてた。開発なんてする必要は。
 ずる、と動いた熱が少し下がって前立腺を突く。ごり、ごり、と規則的に。「あっ、ぁ、んッ」少し動いては突いて、たまに硬い先っぽで掻き回してはまた突いて、その繰り返し。
 ごりごりごりごり、気持ちのいい場所をひたすら突かれる。
 ときに激しく、ときに優しく甘く、かと思えばちんこが引っこ抜かれて代わりに指でぐちゃぐちゃにされてみっともない声を上げてイったり。
 イきすぎて力が入らなくなってきた腕を投げ出して、上半身で浴槽に寄り掛かって縋りながら、腹を押さえてくる手にびくりと体が震えた。「ゃ、だ、おさ、ぇ、たら」手のひらで腹を圧迫されることで少しでも前立腺の位置が動く。もっと、感じる場所に。
 ずる、と動いた熱が前立腺を擦り上げてその奥へ行く。膀胱だ。尿を溜めとく場所。「ひ、ィっ」一緒に擦り上げられて体が跳ねた。前立腺だけで何回イったかわかんねぇのに、そこまで擦られたら、漏らす。
 ああ、でもそうか。今日は風呂でシてるんだったな。
 じゃあいいか、なんて気が緩んだせいか、どちゅん、と奥まで抉ってくる熱に、逃げようのない快楽に、思考が溺れる。「ぎもぢ、ぃ、もっどぉ」なんてみっともなく喘ぐ。自分から腹押さえて、もっと抉ってくれって懇願しながら腰を揺らす。
 そうやって何度も何度も突き込まれているうちにこの世界では初めてになる潮を吹いた。「…ッ」肩で息をしながら浴槽にもたれかかる。
 涎垂らして、みっともなく喘いで、ちんこはもう出すもんがねぇから透明な体液をまき散らすだけ。
 今日のは元気だ。いつもなら先にギブアップするくせに、今日はまだ。
 無理してんじゃねぇかと浴室内にある鏡に目を凝らす。俺たちの行為の激しさのせいか曇ってて見にくい。
 白い髪を邪魔そうに払ったは、無理は、してない。ように見える。
 そういや、髪。旅に出る前に少し短くしてやらないとな。
 そんなことをぼやっと考えていたらちんこが抜けてって、指三本で前立腺を抉られた。「アっ!」ビグン、と体が跳ねる。またぐちゃぐちゃにされる。

「ね」
「…ん、」
「こっちからも気持ちくする」

 こっち、と言ったあとに涎を垂らしたまんまの俺のちんこを撫でられて、意味を考えた。「ど、いう」「気持ちくするんだから、怒らないこと」「…?」頭が快楽で馬鹿になってきてることもあって全然意味を理解できず、鏡の中のが俺の背中にキスしているのをぼんやり眺める。
 ぱちゃん、と足元の湯が揺れた。それで視線を落とせば、蛇みたいに頭をもたげた湯が、亀頭を撫でて、尿道。に。
 出すだけで入れるためにはできてない場所にぬるい温度を流し込まれて体が震えた。

「ま、ほぅ、つかうなって…ッ! や、ゃだ、これやら、」
「大丈夫。気持ちくなろ」
「…っ!」

 尿道から前立腺に到達した湯のぬくみ。腹を圧迫してくる手。そこを遠慮なく突いてくる熱に、気持ちよさに、みっともない声が出た。喘ぎ声だってとうてい聞かせられたもんじゃないが(だから人払いをするわけだし)、なんつうか、だみ声みたいな、獣の声みたいな。理性のない動物みたいな声が自分の口から漏れて、そのことに自分でも驚いた。
 涙が止まらない。開いた口から漏れる声未満の音を止められない。それくらい気持ちい。

「あああぁ、ア゛! ああ゛ァ、おッ、ィ、ぐぅ、い……ンあ゛っ!」
「もう一回」
「ゃ、あ、アああ゛〜ッ! ぎもぢ、ぎも、ぢ、ぃ…ア゛が……っ!」
「もう一回」

 回らない口でもう無理だ、もう何も出ない、おかしくなると訴えたが、今日のは自分を通す。だから、尿道から湯を入れて前立腺を圧迫したまんま俺のを扱くし、ケツの奥まで突き込んでくるし、それでどんだけ叫ぼうがやめてはくれない。
 そんな無茶苦茶なセックスをして、先に意識を飛ばしたのは俺だった。
 目を開ければベッドの上で、かろうじて布団がかかっている状態で裸のまんま寝ていた。「…、」視線をずらせば、隣でも寝ていた。俺を運んで転がして、自分も力尽きたんだろう。
 はぁ、と漏れた吐息がまだ熱い気がして、疼いているような気がする腹に手を当てる。

(なんてことしてくれんだ)

 旅に出たら、好きなだけセックスすることも難しくなるだろう。だからその前にシようとは思ってた。思ってたけど。こんなにされるとは、思ってなかった。
 腹を抱えるように丸くなり、平和な顔して寝てるのことを睨みつける。
 腹ん中がぐちゃぐちゃみたいに、頭の中もぐちゃぐちゃだ。
 ……は自分の意思で俺のことを抱いた。今日のはそういうことのはずだ。俺がやめてくれって懇願しても犯し続けた。それは、俺を、犯したいから。抱きたいから。そのはずだ。

(俺ばっかりが好きなんじゃなくて。もちゃんと俺のことが好きなんだよな)

 この間酒場でも訊いたばっかりなのに、またそんなことを考えている。
 きゅうぅ、と疼く腹を手のひらで押さえつけて、細くゆっくりと息を吐いて、深く吸う。深呼吸を何度か繰り返して、前立腺でメスイキしまくってまだ疼いている体を落ち着けようと努める。
 すげぇ気持ちよかったけど。こんなことしたら半日は足腰役に立たないから、次は時と場所を考えろって言おう……。