資料3 『鬼の死について』
 鬼とは大地から自然発生する生物であり、それ以上でも以下でもないことは先に述べた通りだ。
 多くの面で人間より優れている鬼は、我々が忌避する概念(たとえば『死』であったり『痛み』であったり)も超越していることが確認されている。
 たとえば、トカゲの尻尾切のように。鬼は体の失った部位を再生することができる。
 たとえば業火に呑まれようとも、雷に打たれようとも、その肉体は死を知らぬかのように再生する。

 しかし、鬼にも『死』はある。
 人間より優れた生物ではあるが、死が存在しないわけではない。

 一説によれば、完全なる死を迎える前に、己の肉体を捨て他者に寄生(これは動物相手にも当てはまる)
 宿主の生命力を吸い上げることで、再び己が肉体を得るまで、微睡むように眠るのだという。
 つまり、殺しても殺しても、鬼が他者に寄生して回復する限り、鬼は消滅せず、人と鬼のいたちごっこが続くということだ。
 鬼が眠っている間に寄生された動物、あるいは人間を殺すことができてようやく、鬼に本当の意味での死が訪れる。
 しかし、寄生された者を見分ける手立てはなく、また自覚もないことが多く、鬼の宿主を見極めるのは至極困難である。
 何度殺しても、他者に寄生するという回復手段がある限り、鬼は不滅。
 この事実を知れば、鬼退治に精を出す陰陽道を始めとした組織の士気に少なくない影響が出るということで、鬼の死の真実については一部の人間を除いて秘匿されている。