その夜、隣の村を越え、さらに行った平地で野営していると、遠くに青い色が見えた。
 日は暮れた。空の青じゃない。むしろもっと眩い何か……。

「なんだ。あれ」

 抜けている腰を叩きながらなんとか起き上がると、さっきまでの甘い表情を彼方に放りやったが背伸びしてじっと青い色を見つめた。「炎だ」「は?」「聞いたろう。青い火の玉の話」「聞いたけど…」はだけた着物を直しながら青い色を睨みつける。ここから肉眼で確認できるんだから、あれは火の玉とかいうかわいいレベルのもんじゃない。
 が手早く焚き火に水をかけ、なんとか立ち上がった俺が敷いていたござをくるくると巻き取って荷物をまとめる。「早く離れよう」「ん」鬼、物の怪、妖。なんでもいいが、あれだけ騒ぎにしたら陰陽師どもがやってくる。離れるに越したことはない。
 小さな手に手を引かれるまま暗い街道を歩いていると、目の前に青い炎がぽっと灯った。
 きれいっちゃきれいだが、仄暗い、地獄の底みたいな炎だ。
 その向こうに人がいる。鬼の目には肌が焼けた、そのくせ人間の形をしているナニカが見えている。

「傷つくねぇ。逃げるなよ焦凍」

 相手は俺のことを知っているらしく、指先で青を弄びながらそんなことを言う。
 その焼けた顔を睨みつけてみるが、見憶えはない。誰だ。
 がかざした手に扇子が落ちてくると、相手は降参するように両手を挙げた。その手から落ちた青い炎が草原に火をつけあっという間に燃え広がっていく。

「落ち着けって。悪食の使いで荼毘ってもんだ。
 俺は元お稚児で、今は契約して鬼の力を借り受けてる。アンタならわかるだろ。別に、アンタのものを盗ろうなんて考えちゃいない」
「…………」

 悪食、とぼやいたの瞳が紅い。輝いている。
 久しぶりに見た。やっぱりきれいな色だな。そんな場合じゃないのに見惚れてしまう。
 一つ息を吐いたが扇子をしまった。閉じられた瞼が持ち上がったときには紅い瞳はもう光っていなくて、それがなんとなく残念だ。「話くらいは聞こう」「いいね! 聡明だ」相手はおどけるように肩を竦め、俺を見る。さっきからそうだ。何をガンつけてんだってくらい俺のこと見てやがる。
 つうか、荼毘って確か仏教用語だろ。僧の格好してる俺への皮肉かなんかか?

「鬼の都を破壊、多くの同胞の命を奪った陰陽師どもの罪は重い。
 とくに、轟家。これは皆殺しにすべしと俺らの間では命が出てる」

 轟、の名が出て一瞬でも反応した自分が甘いと思った。
 捨てると決めた名前。捨てると決めた家、家族。一瞬でも浮かんだ顔に歯の根を強く噛み合わせる。
 いつかその日は来る。陰陽師としての轟家。その一員だった俺が鬼になったこと、鬼側に立ったことはいつかは知られることとなる。わかってる。
 今は『行方不明』って扱いかもしれない。それでビラを貼られる程度かもしれない。だがいつかは相容れぬ立場として対峙するときがくる。
 を害した親父を殺すって誓ったじゃないか。
 焼けて爛れてる野郎の話に動揺するな。隙になる。
 拳を握り締める俺の手を小さな手のひらが撫でる。落ち着け、というように。「それで?」「俺も轟家には怨みがあってね。コレもさ、陰陽師とかおびき出すためにやってるわけ」コレ、で指されたのは青い炎だ。どんどんと燃え広がっていく炎は近隣の森にも引火していた。
 見える限りの視界が揺らめく青で埋め尽くされていく。
 その青を背景に長い夜色の髪を揺らすは美しかった。美しい子供。陶磁器の肌の白と紅い目に青い炎が眩しい。

「アンタは回復したばっかで、まだ戦力換算はできないが、志同じくする者として憶えておいてくれよって話だ。
 あっちが先に仕掛けてきた。なら今度はこっちが決起する番だろ」

 なぁ、と焼けて爛れた顔で笑いかけられたが答えず、今度は小さな手を俺が撫でた。
 は唇を引き結んで何か考えていたようだが、小さな手をかざしてふうっと息を吹くと、頭上に暗雲が立ち込めた。ザァ、と通り雨のような強めの雨が降り、青い炎を鎮火していく。
 雨に濡れた黒髪をかき上げる姿をぼやっと眺める。

(きれいだな)

 小さくなっても、元の大人でも。この鬼はいつもきれいで、美しくて、心がもっていかれる。

「話はわかった。考えておこう」

 道化のように一礼した野郎がゲートをくぐって消えると、はぁ、と吐息した幼い顔が俺を見上げた。「焦凍」「あ、」なんかぼやっとしてた。
 サアサアと音を立てて降り続ける雨の中、伸ばされた手を取って、手を引かれるままに屈んで顔を寄せて口と口をくっつけると、焼けて燃えた煙のにおいに混じって白檀のほんのりとした香りがした。
 ぢゅ、と音を立てて唾液を吸われて、さっきなんとか叩き起こした腰が頼りなくなってくる。
 まだぼんやりした頭のまま、屈んでるのがしんどくなって濡れている道に膝をつくと、弱くなってる腰を細い指がなぞっていく。
 紅い瞳が俺を見ている。俺だけを見ている。その事実に背中がすげぇぞくぞくする。
 ぺろ、と唇を舐めた舌がなまあたたかい。

「お腹が空いたなぁ?」
「……さっき食ったろ…」
「そうだね。でもお腹が空いた」

 焦凍をちょうだいよ、と甘く囁く声にじんわりと視界が滲む。快楽への期待で股間に熱が集まってくる。
 半分鬼になったせいか知らないが、俺の性欲ってのは人間だった頃より強く、貪欲になってる、気がする。
 強くなった白檀の香りと、唾液を吸ってくる口付けに応えていると、の領域へと繋がるゲートが開いた。手を引かれるまま中に入って、入れ替わりに空気を読んだ狐がぴょんと外に出て行く。
 小さな小屋と、雑多に物が詰め込まれて溢れているこの場所は、あの頃と比べたら雲泥の差だ。キレイな屋敷はないし、広い庭も、黄金の空も、蛍のような燐光も飛んでない。薄暗くて、狭くて、物で溢れてて、寝床だって埃っぽい布団が一枚敷いてあるだけの場所だ。
 でも。
 どさ、と荷物を落として笠も放り、もどかしいな、と思いながら袈裟を脱いで落とす。「焦凍」おいで、と誘う小さな手が誘うまま布団の上に転がりながら着物を脱ぐ。
 紅い瞳に見つめられるだけで頭の中が蕩けてしまいそうだ。
 香油の容器を手に器用に俺の中を解しながら口付けてくる舌に応える。
 大人の大きさになった指が俺のいいところを擦り上げる。「ふ、」何度も。何度も。さっきもシたから敏感なんだ。そこばっかり触られてたらすぐ出る。
 でも正直、指だけじゃ物足りないんだが、わがままは言えない。
 鬼の飯に性交は必要ない。俺が気持ちよくなって射精したもんを食えればそれでいいんだ。

(これはわがまま。仕方のないこと。指よりも太くて熱いもんで穿ってほしい、なんて)

 ちゅうちゅうと乳首を吸ってた小さな唇が離れた。「いいかげん、指だけじゃ辛いだろう」もっとたくさん擦ってほしいなと思っていたところでそんな言葉と一緒に指を抜かれた。「…?」どういう意味だ、なんで抜いちまうんだ、と尻の方に目をやって見開く。

「あ」

 は体の大きさこそまだ子供だが、そそり立ってるもんは大人のソレだった。
 ぶわ、と体中が熱くなる。
 腹の奥の方が嫌な感じに疼く。ここに欲しい、ここを突いてめちゃくちゃにしてほしいと訴えるように腰が揺れる。「いらない?」太くて大きな熱が尻の入り口をつつく。さっきまで指があったせいか簡単に入りそうだ。
 にこりと笑む顔は天女みたいなのに、不釣り合いなデカいもん持ってて、ずりぃな。鬼にそんなこと言ってもしょうがないんだが。

「い、る。ほしぃ」

 がしやすいように、と両足を抱えて、香油が落ちるのと、くっつけられた熱の先を馬鹿みたいに見つめる。
 早く欲しくて息が浅い。尻の穴がぱくぱくしてんのが自分でもわかる。
 早く、固くて大きい陰茎で、その先っぽで、擦ってほしい。穿ってほしい。
 気持ちよくなりたい。指じゃいけないところまで昇り詰めたい。

「はや、く」

 が俺の中で寝てた期間、目が覚めてからできてない期間を含めると、三年半ぶりにまぐわる……。
 紅い瞳と目が合う。
 紅色の中に俺が映っている。俺だけが映っている。
 体勢的にキツいけど、口と口をくっつけると舌を吸われ、触れていただけの熱がずぷんと体内に埋まる。「ッ、」瞬間の背筋を這い上がるこの感覚をなんて言えばいいんだろう。
 ずぶずぶと埋まっていく熱に悦び震える体を止められない。

の、のだ、おっきい。奥までとどく、)

 人間だったら無理な深さも、鬼だったら届く。
 根本まで全部埋まった熱の先端がゴツンと俺の腹を叩いた。「〜ッ!」それだけで堪えきれず白い体液をこぼした俺に、はゆるりと瞳を細くすると、蛇みたいに長く伸ばした舌で腹の辺りに飛び散った白い色を全部拭って食べていく。
 紅い。血よりも紅くて、夜に光る宝石みたいにきれいな色の目。

「お腹の奥まで犯してあげよう。
 動物みたいに啼いて、喘いで、イき狂っておくれ」

 ずるぅ、と抜けていく熱にひっと息を呑む。
 久しぶりだっていうのには容赦がなかった。へその下あたりがぼっこり膨らむくらいに深く俺に挿入してくる。「か、は…ッ」急に質量でいっぱいになった尻と腹が悲鳴を上げてる。
 苦しい。苦しくて涙が滲むのに、それすらにとってはご飯だ。
 長い舌で涙を舐め取った鬼は、とてもかわいらしいのに、してることはえげつない。
 ゴンゴンと遠慮なく腹の奥を突かれて、人間っていうより動物みたいに叫びながら何度も何度も射精した。もう出ないってくらい吐き出した。
 それでもはやめてくれなかった。
 腹が内側からぼこぼこになるくらい突き込まれて、最後には意識が飛ぶまで、苦しいのと気持ちいいのとで頭ん中が溶けてぐちゃぐちゃになるまで犯された。
 次に目を開けたときには、珍しくしおらしい表情をしたが俺の世話を焼いていた。「大丈夫かい」ひんやりとした指が俺の額を撫でている。
 声が出ない。喉が涸れてる。腰と尻と腹も死んでる。でもベタベタはしないから拭ってくれたんだろう。着物も着てるし。
 何度か咳き込んでからガラガラの声で「いてぇ」と訴えると、壺の水を口に含んだあとに俺に口移しで飲ませるという高度なことをしてきた。
 いつも唾液を吸われる側だし、から施してもらって飲むってことが初めてで、ごくり、と無駄に大きく喉が鳴る。  ただの水がすげぇ美味く感じる。水差しがある環境だったらなかった贅沢だ。

「昨晩もかわいかったね」
「……かわいく、ねぇ」
「かわいいよ。おかげで私はお腹がいっぱいだ」

 とても満足そうなを見ていると、もうそれでいい気もしてくるが。あんなこと頻繁にされてたら体のどこかが壊れそうだ……。