大きな腹を揺らしながら俺が一度目の白濁を吐き出して、それをが舐め取ったあと。の言うもっと気持ちいいことが始まった。
 舌を細く長くしていくを達してぼやっとした意識で眺めていると、その舌が亀頭にぴとりと添えられた。精液を舐め取るため、じゃない。「あ、」なんだ。なんでそんなところ。
 長い舌を蛇みたいにチロチロさせると「気持ちよくなれるから、身を委ねて」言って、ずぷり、と細い舌を尿道に挿れる。
 尻もそうだけど、尿道だって物入れるようにはできてないから、ちょっと痛い。かもしれない……。
 だけどが言うんだ。我慢しよう。
 正直、一回吐き出したくらいじゃ足りないんだ。気持ちよくなれるならなんだっていい。もっとシたい。もっとを感じたい。

(尻のときだって、最初は違和感とかあったじゃないか。きっと同じだ。あんまり意識しすぎず、ゆっくり呼吸。しよう)

 ゆっくり息を吸うことだけを考えていたら乳首をつねられた。俺に一点ばかり意識しないようにって考えたんだろうけど、効果は抜群だ。「ぅ、あ、」長年の手で開かれていった体だ。乳首だって、ずっと弄られてたらここだけでイける。
 乳首きもちぃな、でも陰茎はちょっと、いてぇな、と思いながら喘いでいると、尻を弄られてるわけじゃないのにびくんと体が跳ねた。

「あ…ッ?」

 は動いてない。俺の中に入っちゃいるけど、動いてない。それなのに擦られると気持ちのいいところが今一瞬。
 長い舌を器用に動かしてじゅぷりと俺の内側、奥まで犯す感覚にまた腰が跳ねた。「ぅ、そこ」奥。気持ちいい。

「焦凍の弱いところだよ。前立腺というんだ」
「ぜ、りつ、せ」

 ずるる、と中を動く生あたたかさに腰が揺れて体が震える。
 尻のときもそうだけど、入って来るときより抜けてくときの方が、排泄感みたいなのと混じって。なのに気持ちくて。色々、頭、ぐちゃぐちゃになる。
 今までになかった、鈍い痛みのあとにくる気持ちよさ。
 気持ちがいいところを、前から舌で、後ろから大きな陰茎で突かれて目の前に星が舞った。
 身をよじっても逃げようがない快楽の波。前から、後ろから、ごりごりと気持ちのいい場所が擦られる。
 の言ったとおり、その日の床の時間は忘れがたいくらいの快楽を感じることができた。
 あの夜もすごかったけど、今日は今日で、なんか、すごかった。
 おかげで夕飯時はぼうっとしてしまって、「大丈夫焦凍くん」と出久に何度声をかけられたことか。「大丈夫だ。なんか、悪い」重い腹に片手をやりながらもう片手で食器の片付けをする。
 俺の腹がこんなだから、出久は畑仕事や鶏の世話、動かないとできないことを率先してやってくれてる。だから飯と片付けくらいは俺が……と思ってるんだが。なかなか、うまくいかないな。
 明日の飯飯の準備をして、出久とおやすみの挨拶をしてから小屋に戻ると、屋根の上にが腰かけて待っていた。昼間見たときと着物の柄が変わっている。星が流れる紺色の着物。「おかえり」ぬるい風が吹き抜けて夜色の長い髪をさらって揺らす。
 ただいま、と返しながら、勝己は律義だなとふと思う。朝昼夜がわかりやすいように、この場所を現実世界の空と同じようにしてるらしいから。
 おかげで、月を背負う美しい鬼を見られる。

「入らないのか」
「ここで充分だよ」

 戸を開けた俺にあっさりとした声が降ってきて、む、と眉間に皺が寄る。
 昼間にあれだけシた。気持ちよくなった。お互いたくさん吐き出したし、俺のをが食べて、のは俺の中に出してもらって、お互いに食べ合った。お稚児としての食事はもう終わってる。それはわかってる。けど。

「さびしい、から、いてくれねぇか」

 小さな声でなんとかそうこぼすと、一拍あとに屋根からが降りてきた。とん、と軽い足音で着地すると紅い瞳で俺のことを見上げて言うのだ。「愛いね。お前は」それで小さな手が腹を撫でるから、なんとなく気恥ずかしい。
 女じゃないんだ。そこまで気を遣う必要はない。半分は鬼になったんだし、元陰陽師だ。そのへんの人間よりは丈夫な自信もある。
 でも、それとは別に、気遣って手を引いてもらえるのは嬉しいもんだな。
 がふうっと息を吹き込めば、消えていた囲炉裏に火が灯った。「おいで」ぽん、と布団を叩いたが気がついたって顔で「そばにいるだけだよ」なんて微笑むから視線が泳ぐ。たぶん俺がそういう顔をしてたんだ、と、思う。物欲しそうな顔を。昼間、あんなに気持ちよくしてもらったのに。
 重い腹を抱えながら腰を下ろして、まだ子供の体躯しかないのことを緩く抱き締める。

「好きだ」

 お前になら、何をされてもいい。本当に。
 この腹だって、どうなるのかはわからないが、子供がいるのだとしたら、ちゃんと産むよ。ちゃんと育てる。それが俺の答えだ。
 人間を食糧としている鬼を、俺を食糧としている人ではないこの生き物を、それでも、愛している。心から。
 幼いあの日。顔に火傷を負ったあの日。苦しくて痛いだけだった轟の家から俺を救い上げてくれたこと。一度だって忘れたことはない。
 お前にとっては食糧を得るためだけの行為と微笑みでしかなかったとしても。俺を救ってくれた、優しくしてくれた、あのすべらかな陶磁器のような手を、一度だって忘れたことはない。
 俺にとってこの鬼は神様みたいなものだ。

(何されたっていい。お前の好きなようにしてくれていい。そうされても嫌じゃない)

 あの頃と変わらない白檀の良い香りを堪能していると、「私も、好きだ」とポツリとした声が聞こえて、髪を梳いていた手が止まる。
 俺からはいくらだって伝えてきた好意に、いつも同意はしてくれてたけど。好きだと、はっきりと返ってきたのは、これが初めてだ。
 初めて。好きだって言われた。
 今頃になって顔に上がってきた熱と、体を離したの紅い、真摯な瞳に見つめられて、発火するかと思うくらいに全身に熱が灯る。

「好きだよ。こんなにしてしまうくらいには」

 甘い声と一緒に添えられた小さな手に腹が疼く。重くなる。その言葉すら栄養として吸収しているみたいに。「焦凍」もう片手の細い指が伸びて頬にかかる。ひんやりとした指が熱い肌に心地いい。
 触れ合うだけで離れる唇は、俺を食糧としてだけじゃなく、生き物として愛していると、そう言っている気がした。
 それが、とても、嬉しくて。涙がこぼれるくらいに嬉しくて。
 困った顔をしている鬼に、俺は泣いて、それから笑った。