今日も今日とて、暗い部屋で、パソコンの画面と各種機械のみが煌々とした明かりを漏らす部屋で、試験管の中にスポイトで吸った液体を落とす。しっかり蓋を締めて中身を振り混ぜて反応を観察し、個性で液体の中身を分析、パソコンに打ち込む。 それが終わったら、次の試験管にスポイトで吸ったさっきと違う液体を落とす。しっかり蓋を締めて中身を振り混ぜて反応を観察、個性を使って中身を分析、パソコンに打ち込む。 この恐ろしく退屈な作業は好きでやっているわけじゃない。 親がヴィランで、この仕事をやっていて、給料が悪くなかった。その子供だった俺は頭の出来も個性も親から引き継いでいたから、給料も悪くないしと、ヴィランに加担しているとわかっている仕事を引き継ぐことにした。 その親はといえば、もう一つ上の管理職で、今は人を顎で使える立場だ。 俺はそこまで頑張りたいとかは思ってない。 ただ、人と話すのは苦手っていうか面倒くさいと思ってる口だし、一人黙々とする作業は退屈だけど気が楽だ。暗い部屋でこうして指示された実験をしているだけが楽だった。それが何にどう繋がるのかとかそんなことには興味がないし、どうでもいい。 (あ。飯食ってない) ぐう、と鳴った腹の訴えにふと我に返って携帯の画面をつけると、もう午後三時だった。どおりで眠いし力が出ないわけだ。 仕方なく白衣を脱いでソファに放り投げ、キッチンで湯を沸かす用意をして、肝心の飯がないことに気が付いた。カップ麺のストックが切れてる………。 伸びっぱなしで鬱陶しくなってきた前髪をがしがしとかきむしる。 面倒くさい。面倒くさいけど、買いに行かないと飯がない。くそ。こんなことなら乾きものの菓子でも買っておくんだった。 仕方なく上着を羽織って外に出ると、陽射しの眩しさに目が死ぬかと思った。「う……っ」思わず呻いてからしぱしぱと目を瞬かせ、眼鏡をかけ直す。 カンカンと古臭い音がする階段を下り、近くのスーパーへ。コンビニは割高だから。 別に、金に困っているわけじゃないけど。無駄に浪費がしたいわけでもないし。 スーパーのカートにカゴをセット、カップ麺をポイポイと放り込み、少し考えて野菜ジュースのボトルも仕方なく入れた。 そこで、どん、と足に何かがぶつかった。 視線を落とすと紅白髪の、なんかいい服を着てる子供が一人いた。幼稚園児かな。「…なに?」我ながら不愛想な声をかけると、子供はきょろきょろと辺りを見回してからこっちを見上げてこわごわと、「ま、いご」「あっそう」どうやら迷子らしい。そう広いスーパーでもないのに。 別に面倒を見る義理もないし、とそのまま無視しようとしたら足にしがみつかれた。……なんだこのガキ。 「店員さんとこ行って、放送かけてもらうから。ほら」 足にしがみついて離れようとしない子供を仕方なく抱き上げ、普段デスクワークばっかりで非力な自分の筋力を痛感しながら、なんとか子供を抱いてサービスカウンターへ。「この子、迷子みたいで」椅子に座らせた子供の頭を叩く。「名前は?」「とどろき、しょうと」「…だそうです」それじゃ、あとは頼みました、とカウンターの向こうのおばさんに手を上げてさっさと引き上げ、カートを押して本来の買い物を再開する。 それで、何の因果か。その子供、轟焦凍とは程なくして再会することになった。 あのときは無垢な子供そのものの顔をした幼稚園児だったが、今目の前にしている子供は、顔の左側を包帯で覆い、暗く淀んだ目をしていた。 「自分からやって来たんだ。お前、知り合いか」 「は? はぁ……知り合いっていうか…」 ついこの間、スーパーで迷子になってたのをちょっと助けただけだけど。それを知り合いというのかどうか。 轟は暗い目で俺を見上げたあとにぎゅっと足にしがみついてきた。「……どうすんのこれ」とりあえず頭を撫でておく。 対して、親父は高そうなスーツで腕組みして、悪い顔でにやりと笑った。「ナンバーツーの息子だ」「はぁ」「わかるだろう。悪いようにはするなよ」「……はぁ」溜息を吐いて、暗い顔をしている子供を頑張って抱き上げる。 小さな子供をソファに下ろして、父親が言っていた意味を考える。 あの人はもうヴィランだ。染まり切っている。母もそう。その二人が『エンデヴァーの息子』を『悪いようにはするな』と言う。 冷蔵庫からスポーツドリンクを出して注いでやり、「飲んだら」とテーブルに置くと、黙って中身を飲み干していく。…暗い顔はしてるが従順だ。さすが子供。 その従順さにつけ込めと、親はそう言ってるわけだ。 まったくもって面白くない話だ。まだ年端もいかないガキを薬漬けにしろと言ってるわけだから。 俺は、まだそこまで、腐ってないつもりだ。給料がいいからこの仕事をしてるだけ。辞めろと言われたらあっさり辞められる。 空になったコップを揺らした轟がちらりとこっちを見上げてくる。 「ぼく」 「ん」 「おとーさんが、きらいだ」 「そ」 エンデヴァー。万年ナンバーツーで、その人となりはよく知られてる。あれの息子だっていうんならそりゃあ大変だろう、色々と。顔の怪我もそのせいかもしれない。 さてどうするかな、俺は納期もあるし自分の仕事がしたいんだけどな、と考えていると、轟が「あつい」とこぼして服を脱ぎ始めた。「は?」上着のボタンを外して落とし、小さなシャツのボタンを外し、ズボンも脱いで、靴も靴下もポイポイと放っていく。 その腕に小さな注射痕があるのが見えて思わず舌打ちが漏れた。クソなのはうちの親父も同じか。 ふうふうと苦しそうに赤い顔で息をしてぐったりしている轟の体を抱き上げる。とりあえずベッド。「ぁ、つい」「わかってる」「ここ、が、あつぃ」小さな手が押さえたのは下っ腹の辺りだ。ああ本当、まったくクソ親父だな。薬漬けじゃなく快楽漬けにしようってか。 熱いとこぼして泣き始めた轟に、はぁー、と腹の底から息を吐いて、代用品を探した。 ローションなんてものは持ってない。液体。油。ああ、潤滑油ならあったな。コンドームなんてないが仕事用のビニール手袋ならいくらでもある。 捨てても問題ないタオルを何枚か持って来て敷き、腹を押さえて泣きじゃくっている轟のパンツをずり下ろす。 射精だって知らないし、イくことだって知らない。それどころか性的な快感すら知らないはずの小さなちんこが半勃ちになっている。 「今から、ちょっと尻触るけど。痛かったら言えよ」 潤滑油を塗りつけた小さな孔と手袋を確認してから人差し指をゆっくりと挿れると、ぴく、と小さな体が震えた。片手で携帯を操作して前立腺とかいう場所を確かめながらゆっくり指を動かす。 膀胱か、前立腺か、どっちか判別しづらいが、当たりらしい場所は引いた。轟が腹を押さえて「そこ、そこが、あつい」とこぼして腰を揺らす。 最初は指一本でその場所を擦ったり押し潰したりして刺激し、孔の方が解れてきたら指を二本に増やした。 涙目でふうふうと懸命に息をしている轟のちんこから透明な液体が漏れている。 これが気持ちいいのかどうか、わかんないんだろうな。まだ子供だし。 仕方ないから携帯を放ってちんこの方も弄ってやると、轟は「あッ」と声を上げて体を跳ねさせた。「あ、ァ、だめ、いっしょ、だめ」「いいんだよこれで」「な、んか、でちゃぅ」「だせばいい。よごしていい」指で先っぽの方をくちゅくちゅと弄ってやると切なそうに喘いで小さな体をよじらせる。 尻の方も一緒に擦ってやると、轟は体を仰け反らせて「あーッ」と悲鳴を上げてイッた。 透明な液体のついた指を試しに舐めてみる。味はしない。当然だけど。 つぽ、と音を立てて指の方も引っこ抜く。「腹は。まだ熱い?」「……さっき、より、だいじょうぶ」「そ」一回出したから少し落ち着いたんだろう。 そうやって初めての快楽を教えたせいか、轟はことあるごとに俺のところへ来るようになってしまった。 父親に殴られた。喧嘩した。家出した。度々言い訳を並べては、その度に腕に注射痕を増やしていく。 轟の父親もろくでもないが、ウチの親も同様だ。ろくでもない生き物だ。「すんなっつってんのに」真新しい注射痕を指でなぞり、赤い顔でふうふうと息をしている轟の服を脱がせていく。 まだ子供のせいか。それとも打たれる注射のせいか。ぷっくりしてきている気がする胸と尻と太ももを見ていると下半身が疼いた。こんな子供相手に。 「轟、ベッド」 「しょうと」 「あ?」 「なまえがい、ぃ」 ああ、そうか。轟じゃ、父親と同じ響きか。「焦凍」ほら、と差し出した腕にしがみつくようにして抱きついてくる焦凍をベッドに下ろし、快楽が欲しくてパクついている尻の孔にビニール手袋をして潤滑油を落とし、指を挿れる。 これまではそれで焦凍の熱は治まっていた。 だが、今日の焦凍は違った。透明な汁を漏らしてイッたあとも「まだ、あつい」とこぼして腹の下の方をさする。しかも言うことが「もっと、ぉく」だ。勘弁してくれよと天を仰ぎたくもなる。 「あんね、焦凍。お前の言う奥は、指じゃ届かない」 「……でも。あつぃ」 「うん。で、指じゃ無理だけど、コレならいける」 あいにくこの研究室兼私室にディルドなんて気の利いたオモチャは置いてないし、それに類似するもんもない。 だから小さな手を握って俺の股間を撫でさせると、不思議そうな顔をされた。「……?」全然伝わってないらしいから、仕方なくベルトを外してジーパンのチャックを下げ、アンダーをずり下ろす。 こんな小さな子供相手に何勃起してんだと自分に呆れるが、しちまってるもんはしょうがない。 焦凍は小さな手でぺたりと俺の性器に触れた。「お、きぃ。はいら、なぃ」「ゆっくりすれば入るし、届く。どうする?」三本に増やした指でぐちぐちと焦凍の尻の中を弄って前立腺をトントンと叩くとエロい顔して腰を揺らす。小さなちんこから透明な液を垂らして、涎も垂らして、性にだらしがない。 「い、たく、ない?」 「約束はできないが、努力はする」 「………、」 そろりと手を離した焦凍が自分の足を抱えた。挿れてくれ、と。 小さな孔から指を抜いて、コンドームねぇな、今度買ってこようと思いながら、俺の人生では初となる挿入をする。 焦凍は子供で孔だって小さい。先っぽ挿れただけでも苦しそうに唇を噛んでるが、先が入ってしまえば、あとはゆっくりずぶずぶと沈んでいくだけだ。「あ、あー、そこ、そこきもち、」腰をガクガクさせながら喘ぐ焦凍の前立腺と膀胱を擦り上げながらさらに奥へ。 とん、と壁のような行き止まりに当たると、焦凍のちんこからだらだらと透明な液が漏れた。世に言うアヘ顔とかトロ顔とかいうのを晒して「あ、あァ、そこ、ぁ、つ、ぃ」自分からへこへこ腰を動かす姿に生唾を飲み込む。 なんて注射をしてんだとクソ親父のことを毒づきながら、焦凍が痛くないよう気持ちのいい場所をゆっくり擦り上げながら腹の奥も叩く。 我慢ができなくなったのか、ちんこを触ろうとする手を握って止める。「だめだ。腹が熱いんだろ。そこでイけ」「う、ぅ」ふるふる首を振る焦凍の手を握ったまま腰を打ち付け、腹の奥、結腸の手前をトントンと叩く。擦る。円を描くように攻めてやると「あーああああァ、あっ、あァ」と小さな口から嬌声が上がった。 小さな手と指を絡めて握り合い、だらしなく喘ぐ口を自分の口で塞いで、ちんこを触らせずに中イキさせるという、子供には酷なことを強いた。 中でイッたことで体が満足したのか、気を失った焦凍から自分のを引っこ抜いてすぐにシャワーを浴び、クソ親父に電話した。開口一番「頭おかしいのかあんた。子供になんてもん打ってんだ」と怒鳴ると、『ああ、アレか』電話の向こうの親父は何がおかしいのか笑っている。 『アレはお前が作ったものだろう』 「はぁ?」 『なんだ、自分が作ってるモノすら把握してないのか? ハッテン場では人気の代物だぞ。雌化するってな。おかげで資金は潤沢だ』 つけっぱなしのパソコンの前に行き片手で操作して最近作った薬のリストを呼び出す。成分にざっと目を通す。……これじゃない。まだ打ち込んでないやつか? 机の上に積んだままの書類をばさばさとあさってみるがすぐには出てこない。 転がっているスポイト、液体の入った試験管を睨みつけ、叩き割ろうとして、焦凍が寝てるんだったことを思い出して思いとどまる。 『そのまま快楽漬けにしろ。使い道はいくらでもある』 「……冗談じゃない。あんなガキを囲うほど俺は腐ってない」 『充分腐っているさ。ただ楽に生きるために、、お前は何をしてきた? 何もしてこなかった。そうだろう。親から流れてくる楽な仕事を何も考えずにこなしていた。違うか?』 親父の声が頭に突き刺さる。反論は、思いつかない。 その通り。俺は楽に息をしてきた。そのためだけに生きてきた。そのためだけに毎日暗い部屋でスポイト握って試験管と液体に向き合ってきた。 逃げていたんだ。すべてから。生きるということから。 何も言わない俺に父親は満足したのか、『轟焦凍は使える子供だ。うまくやれ』と言って通話を切った。 沈黙した携帯をソファに放り投げ、よろけながらベッドに行けば、裸に布団を被っただけの焦凍が寝ている。 まだ年端のいかない子供が、大人の俺に犯されて、よがって、喘いで、快楽に溺れている。おまけに俺の薬のせいで雌化が進んで体が変化してきている。 唇を噛みしめ、長くて鬱陶しい前髪をかき上げて考える。 ああ、そうだ。俺は考えないとならない。止めていた思考を、その錆びついた歯車を嚙み合わせ、動かし、考えないとならない。 考えろ。頭は悪くないだろ。考えるんだ。 (このままは、駄目だ) なら、どうするのか。考えろ。 最近になって包帯が取れた焦凍の顔の左側、本人曰く、火傷をしたというその場所を指で撫でるとざらついていた。それで焦凍が薄目を開けて目を覚ます。「…?」ぼやっとした顔で俺を見上げて、無意識なのか、小さな手で俺の指をぎゅっと握る。 このまま薬を打ち続けたら、セックスのことしか考えられない頭になる。男に犯されてよがるだけの生き物になり果てる。それでヴィランの連中の性欲処理係にでもされる。ナンバーツーヒーローの息子がヴィランの性欲処理係。それだけでネーミングバリューありすぎて、親父にはまた金が入るだろう。そんでもってヒーローエンデヴァーは失墜。ヴィランにはウィンウィンの結果が待っている。 「焦凍」 「ん……」 まだぼやっとしている顔の焦凍の額に口をくっつける。「もうここは捨てる」「…?」「親父のところへ帰るのは嫌なんだろ」「うん」「じゃあ、俺と来い」不思議そうな顔をした焦凍がこっくりと一つ頷いたから、まずはシャワーを浴びさせた。 その間に三日分くらいの着替えや下着、財布、通帳、最低限のものを鞄に詰め込み、焦凍には幼稚園の制服ではなく俺の服を着せた。…デカすぎるからまず買い物だな。 机の上で重なっているだけの書類はすべて流しにまとめ、一枚だけコンロで火をつけたものを放り込めば、面白いくらいによく燃えた。 もう世に出回ってる薬なら、やるだけ無駄かもしれないが。やらないよりはマシだ。 俺のぶかぶかのTシャツを着てなんだか嬉しそうにしている焦凍の手を握り、靴を履かせ、目立つ紅白の髪には俺のニット帽を被せた。 大した感慨もなく暗いだけの部屋をあとにし、施錠した鍵は道路の排水溝に棄てた。 外の光は相変わらず目に沁みるが、慣れなくては。もう暗い部屋に閉じこもるだけの生活はできない。 「どこ、いくの?」 「さぁ。どっか行きたい?」 「どこでもいい。といっしょなら、どこでも」 ぎゅっと手を握ってくる小さな手を握り締め、まず向かうのはいつものスーパー。そこで焦凍の服買って。飯食って。公園のベンチで昼寝でもして。全部、それからかな。 |