林間合宿でヴィランに襲われ、先輩に薬を打たれてセックスに明け暮れた俺は、気がついたら知らない場所にいて、そこでも先輩とセックスしていた。 ローションで濡れたガーゼで容赦なくちんこをしごかれて「あ、ゃだイぐ、まだイぐ……ッ!」ぶしゃ、と潮を吹いた俺を先輩が優しい顔で見下ろしている。 その指が乳首をつねっただけでも体は跳ねた。 目の焦点がうまく合わない。気持ちよさで手足の指が痺れている。 あまりクーラーの効いてないこの部屋は暑くて仕方がない。暑いのか、熱いのか、わからないくらい。 止まっていた呼吸ではっと喘ぐように息をして、キスされて、舌でさえ性感帯になってしまったらしい俺は先輩に歯を立てられただけで軽くイった。「……ッ」びく、と跳ねた俺の体を細い指が撫でていく。それだけで気持ちがいい。 それは快楽による地獄だった。 終わりのない、気持ちのいいことだけで埋まる地獄の時間。 尿道にカテーテルを入れられて漏らした。そのまま電マを当てられて刺激の強さに叫んだ。前と後ろから前立腺を擦られまくって、一回気絶して、それも首に打たれた注射で強制的な覚醒を促された。そんなことを何度も何度も繰り返した。 「あ、ぅ」 快楽で痺れた体と心に、まともな言葉も思考力も残っていなかった。 目の前に先輩がいて、俺のことを無茶苦茶に犯していて、それが気持ちがよくて、もう、全部、それだけで、満ち足りていた。 見る限り痩せてしまった先輩は、体力が落ちたんだろう。はぁ、と息を吐くと疲れたように俺の横に転がって目を閉じてしまったから、俺は痺れている体で苦労して起き上がって、先輩の上に跨って、まだ硬くて熱い先輩のを自分から中に埋めた。それだけで気持ちが良くて、ぴゅく、と先端から透明な液体がこぼれて落ちる。 気持ちが良かった。 他のことなんて全部どうでもいいと思った。 夢中で先輩を咥え込んで腰を振る。気持ちがいいことだけで頭も体も埋めていく。 自分で自分の気持ちのいいところを擦るっていうのは加減をしてしまう。先輩がしてくれるみたいな刺激は生まれない。「ふ、ゥ」もどかしいな、と腰を振る俺を見上げていた先輩が「轟」と呼ぶ声に霞む視界を凝らす。先輩の手がベッドを叩いている。下りろ、と。 大人しく、言われるがまま隣に転がると、片足を持ち上げられた。それで後ろからずぶずぶと先輩の熱が侵入してくる。「あ、ァあ…っ」ごりごりと気持ちのいい場所を擦られた。気持ちよくて、また、イッた。 「おい。こりゃどういうことだよ。轟焦凍がまるで娼夫じゃねぇか」 落ちてきた声、に薄目を開けると、部屋の入り口に知らない野郎が立っていた。視界が霞んでるのと逆光で細部はよくわからない。 それで、それまでベッドを軋ませて動いていた先輩が止まって、俺の知らない顔で入り口の方を振り返る。「入るなって言わなかったっけ、荼毘」「中に入ってはいねぇだろ。で、首尾は。あんま時間ねぇぞ。死柄木がこええのなんの」先輩が無表情に、俺の顔の横に転がっているボイスレコーダーを手に取って顔を寄せてくる。 轟、と甘い声が頭の中に染み渡る。 「俺の言葉、まねして言って」 「…ことば………」 「俺は、ヴィランになる。言って」 「……おれは…」 そう、言えば。先輩は満足なんだろうか。 俺をヒーローにさせたいから、俺から離れた人なのに。先輩は俺をヴィランにする気になったんだろうか。 もし、あんたが本気でそう思ってて。本気で俺を引き込みたいなら。俺は。 先輩の無表情をじっと見つめて、「なら、ない。ヴぃらんには、なら、な、」最後まで言う前に腰を掴まれてぱんと突き込まれてイッた。「あ…ッ」今の、奥まで、届いた。頭がじんじんする……。 先輩は無表情のまま部屋の入り口に向けてしっしと手を振る。「まだ駄目。もうちょっと虐める」「あ、そ。早くしろよ」呆れたような声のあとに扉が閉まって部屋に暗闇が戻る。 ぬぽ、と音を立てて先輩の熱が俺から引き抜かれるのと同時に、どろりと自分の中から何かが溢れた。先輩のだ。ずっと中に出されてるから、栓がなくなったから、溢れてしまった。もったいねぇ。腹ん中にためておきたかったのに。 先輩は部屋の冷蔵庫からポカリを取り出すと、呷って飲んで、口移しで俺にも飲ませた。 こくん、と喉を上下させる俺を見つめる先輩の目は優しい。 飲むだけで多少カロリーが補給できる栄養食を渡されて、大人しくすすり、先輩が一服する姿をぼんやりと眺める。 ヴィランになる。先輩が、連合が望む通りの言葉を口にすれば、この時間は終わる。 俺は先輩との時間をなるべく引き延ばしたかった。そこに何か考えがあったわけじゃない。ただ先輩とセックスをしていたかった。それだけだった。 「せ、ぱぃ」 「ん」 「おれ。せん、ぱいの、ことが。す」 言いかけた口を手のひらで塞がれた。やわらかい、でも悲しそうな顔で。 俺の言いたいことを先輩はわかっている。甘くて苦い煙草味のキスと、不安定に揺れている瞳を見ていれば、それくらいはわかる。 先輩だって俺のことが好きだろう。だけど自分がヴィランだからって手を引いた、優しい、人だから。俺のために、この人はこの先を言わせないつもりだ。好きだって言葉を絶対に言わせないつもりだ。 「お前に言ってほしいのは、俺はヴィランになるって一言だけ。それさえ言ってくれたらもう犯さない」 優しい指が俺の腹を撫でると体が疼いた。 栓がなくなって溢れるままになってる後ろの口が寂しそうに収縮するのがわかる。 犯す、なんて言い方をしてるが、俺も望んで犯されてるんだから、これは合意の上のセックスだ。 それでもそういう言い方をするのは、俺がここから助け出されたときにちゃんと言い訳ができるように。俺が『ヴィランに犯されたかわいそうな生徒』で在れるように。 どこまでも、俺のことを考えてる。このセックスも『雄英のヒーロー科の生徒を懐柔する』という目的があって、そのためにしていると、周囲にはそう思わせているんだろう。 本当は、俺も先輩も、ただ体を繋げたかっただけ。 ただ、好きだっただけ。 擦られて、抉られて、突き込まれて、穿たれて、メスイキして痙攣して叫ぶ俺に、先輩がかさついた唇を寄せて囁くように言う。「もうちょっとでヒーローが来るから」「…ッ」「そしたら、さよならだ。轟」首に打たれた新しい薬剤のせいだろう、朦朧とする意識の中で、さよならだ、という言葉だけが頭の中をぐるぐると回って、俺は夢中で先輩に縋りついた。縋りついて、泣きながらセックスをした。 薬のせいだろう、俺の口からはもうまともな言葉は出てこなかった。快楽地獄に喘いで啼いて叫ぶ、そういう自分がいるだけだった。 次に気がついたとき。俺は全体的に白い色の目立つ部屋のベッドの上で点滴の管に繋がれていた。「……?」もそり、と動いて辺りを見回す。 病院の個室。ベッドの上。 先輩が言っていたように、俺はヒーローに助けられたんだろう。憶えてないけど。 一体自分がどうなったのか、あれから何日くらいたったのかを知りたくて、携帯はなかったからテレビをつけると、半壊した神野区、オールマイトがヴィラン連合の首魁と言われる男と戦い、辛勝する姿が繰り返し報道されていた。 ヴィラン連合が。首魁とされる男が捕まった。なら先輩は。先輩は? 『これまでの度重なる情報漏洩は、雄英高校に学生として潜伏していたヴィラン連合の一員、の手によるものと判明』 「、」 先輩の名前に、思考に耽っていた顔を上げる。 テレビには知っている顔が映っている。優男の先輩。外ではそういう顔をしてた。 そうか。俺が秘密にしてても、してなくても、こうなることは決まってたのか。だから先輩は言ってもいい、って。 じゃあ、もう学校に行っても、あの人はいねぇんだな。……もう会えないんだな。本当に。 さよならだ、と言っていた先輩の優しくて甘い声を思い出してぎゅっと拳を握った俺の耳に、テレビから、信じられない言葉が飛び込んでくる。 『しかし、仲間割れでしょうか。先ほど彼の死亡が確認されました』 一瞬、何を言われているのかわからなかった。「は?」渇いた声をこぼしてテレビの音量を上げる。 画面の中ではブルーシートの合間に細くて長い指が投げ出されている一コマが映し出されていて、その指紋が先輩のものと一致したと、テレビは報道する。 『彼は頭部が切り込まれた状態で雑木林に打ち捨てられているのを発見された、とのことです』 「は……?」 『用済み、ということでしょうか。この状況をどう見ますか、宮城さん』 「ちょっと、まてよ」 『ヴィラン連合は恐るべき集団となり果てました。もしかしたら彼は、自ら進んで手を貸していたのではなく、利用されたに過ぎないのかもしれません。 死人に口なし。今となっては、ヴィラン連合に問い質さねばわからぬことですね』 「ちょっと、まて、」 さよならだ、と言っていた先輩の声を思い出す。 そんな。まさか。そういう意味だったとでも? (俺が、ヴィランになるって言ってたら、状況は違ったのか? 先輩。先輩) 点滴の管を引きちぎって病院着のまま病室を飛び出し、個性を使って飛ぶ。「あ、君っ」「誰か、轟さんを止めて!」看護師を振り切って病院を飛び出す。現場とされている雑木林はここから近い。 上から容赦なく照らしてくる太陽が夏らしくギラついていて、煩わしいくらいに世界を照らすのに、俺の視界は暗いままだ。 嘘であってくれ、間違いであってくれと願いながら、キープアウトの規制線のテープが張られた中へ。「こら君!」伸びる手をかいくぐり、青いビニールシートの向こう側に飛び込むと、目についたのは赤黒い血の色。草木にこびりついた一面の錆の色。 ぬるい風が吹いてビニールシートをはためかせ、俺の髪をさらう。 ……先輩の手。ついさっきまで俺とセックスをしてた優しくて甘い手が、短刀を握っていた。 その手は乾き始めた血で黒くなっていて、脳髄や肉片、長くてきれいだった紺の髪が付着してて、先輩が自分で自分の頭を切り刻んだのだ、という事実を語っていた。 きれいだった手に、飛び散った脳に、肉に、白い蛆が湧いている。 「う、」 込み上げた吐き気に口を押さえたが、堪えきれず、膝をついて吐いた。 甘くて苦い、あの煙草の香りはもうしなかった。「、せ、ぱぃ」それでも、這いずってでもあの人のそばにいって、短刀を握ってない方の手に触れると、硬かった。死後硬直が始まっていた。あの優しい指はもうどこにもなかった。 顔の大部分がなくなった先輩に縋りついて、縋りつきながら吐いて、泣いた。 俺は、間違えた。 ヒーローと先輩を天秤にかけて、先輩のことを選べなかった。 なりふり構わずその手を取っていなきゃいけなかったのに、一緒に地獄に堕ちる覚悟でいなきゃいけなかったのに、俺は、そんなことも、できなかった。 「あ、ああ、あああああああああああ」 自分が、許せなくて、右手を胸に押し当ててその氷で自分の体を貫く。 …………気がつくと、そばには気怠そうに煙草を吸う先輩がいて、轟、と俺のことを呼んでいる。 吸う? と差し出される煙草を、俺は受け取って、吸う。苦い。香りばっかりが甘い。 先輩の真似をして、苦い煙草の煙と唾液をキスで流し込むと、少し驚いた顔をされた。あんたにされてきたことを返しただけだっていうのに、そんなに驚くことだろうか。 轟さぁ、という言葉にはいと返して煙草をその手に戻すと、俺のこと好きだよねぇ、と甘い声が耳朶を打つ。 返事は求めていないのかもしれないそのぼやき声に、好きですよ、と返して、もう誤魔化さずにまっすぐ先輩の目を見つめる。いけませんか、と首を捻る俺に、先輩は緩く頭を振ってまさかとこぼして煙草の煙を吐き出して、俺も好き、と笑ってくれる。 そのことに満足した俺は、目を閉じる。 やっと、言えた。よかった。……よかった。 |