理性的な意味で大変だった、死柄木弔捕縛作戦の一日目の夜。
 卓球で体を動かして、最後に秘湯と呼ばれる温泉に浸かって、焦凍も満足したんだろう。桃色の浴衣を揺らして機嫌が良さそうに俺と繋いだ手を振って歩く姿から視線を外す。
 ぼんやりしてると忘れそうになるけど。これはヴィラン連合の中心的存在である弔を誘き出して確保するため、旅館をまるごと貸切っての作戦なのだ。

「寝ようか」
「ん」

 携帯でゲームをしてる夏くんの横を通って、月見部屋の家具を端に押しやって運んでおいた布団を敷いていると、焦凍が窓を開けた。そのまま素足でペタペタとベランダに出ていく。
 一つ吐息してから「じゃ、俺たち寝るね、夏くん」と声をかけると「おー、おやすみ」ひらひら手を振られた。そのあとにリモコンでピッと電気が消される。
 夏くんがいる和室とこちら側とを仕切る障子戸をしっかりと閉め、焦凍を追ってベランダに出ると、月見できるように置いてあるリクライニングの椅子に腰かけて座っていた。
 月の下で、焦凍の瞳が金色に濡れて光って見える。


「……シないよ。わかってるだろ」

 しっかりと閉めたけど、ガラスと障子戸を隔てた向こうには夏くんがいるし、二階には冬美ちゃんもいる。そうでなくても俺たちのことはサイドキックの誰かが注視している。
 キスはなんとか誤魔化せても、セックスは誤魔化せない。
 頭の良い焦凍ならわかっているはずなのに、自分から着物の帯を解く。合わせがずれた着物から白い肌が見え隠れする。
 白い指が、はだけた着物の間に入って布を持ち上げ、丸い膝を晒して、白い太ももの内側をなぞっていく。その手つきのいやらしさといったらない。一体どこでそんな煽り方憶えてくるんだって思う。
 熱い、と囁くようにこぼした焦凍から桃色の着物がずり落ちた。
 白い肢体がほんのりとした金色の光に照らされて、この世のものでないような魅惑を纏う。
 ずるいぐらいに眩しくて、寂しいぐらいに澄んだ月の色に染められた焦凍を抱き締めたくて仕方なくなる。
 相手はまだたったの十歳なのに。どうしてこうも惹かれてしまうんだろう。
 ピンク色した乳首をしゃぶりたい。
 白い肌を汗と体液でぐちゃぐちゃにしたい。

(落ち着け。手を伸ばすな。近付くな。まだ誤魔化せるから)

 確かに弔は尻尾を出さない。二日ある作戦時間のうちの一日を使ってしまった。焦りはある。だけどこれは駄目だ。あくまで本当にどうしようもなくなったときの最終手段にしないと……。
 頭ではそうわかってる。理解してる。
 だけど体は正直で、焦凍の肢体を前に、さっきから股間が痛い。今日何度も我慢した分熱が集まるのが早い。

「俺のこと、好き?」

 丸い瞳でこっちを見上げながら問うてくる焦凍にぐっと唇を噛む。
 そりゃあもう、好きだよ。これって犯罪だなって思いながら手を出すくらいには。
 最初はお前の言う好きに流されるままに始まった気持ちだったけど、今は本当に、

「好きだよ」

 できることなら、このままお前とずっと一緒にいたい。あの広い家で家事炊事の仕事をしながら、お前と一緒に春夏秋冬を過ごしたい。
 いつかは冷さんに挨拶して、息子さんを俺にくださいって炎司さんに頭を下げて、いつか、ゆるされたい。そう願うくらいには、好きだ。
 俺も好き、とこぼして笑う焦凍に最後の理性の壁が崩されて、白い体にふらっと寄って行って強く抱き締める。
 まだ春先、風邪を引かれたら困るのに、俺の手は焦凍に着物を着せることなく、白い体をリクライニングの椅子に押し付けるようにして小さな口を自分の口で塞ぐ。まだ子供の体に指を這わせて、コリコリに硬くなってる乳首を指先で弄ぶ。押し潰して、すり潰して、擦り上げて、爪を立てて、ぎゅっとつまむ。
 熱いな、と思う舌と舌を絡めながら、夢中でキスをして、唾液を吸って、もっと奥までいきたいなと焦凍の口の奥まで押し入る。「ふ、」まだ口が小さいから苦しそうに息をしてる、その顔すら俺の熱を昂らせるだけ。
 焦凍のパンツを片手で脱がせてやれば、まだ小さいちんこはそれでも勃っていた。

(あ、しまった。何も持ってない)

 そのつもりはなかったし、我慢できると思ってたから。ローションもゴムも手持ちがない。
 さすがにナマはまずいしな、と頭が少しだけ冷静さを取り戻したとき、焦凍が落ちていた浴衣を拾って袖からチューブの軟膏とゴムを取り出した。
 俺が何考えてたか、なんてお見通しで、しっかり道具も携帯してる。おかげで冷静になりかけた思考がまたどこかへ飛んでいってしまった。
 期待でヒクついてる孔に軟膏を塗った指を入れながら、小さな乳首をしゃぶる。おいし。「ん…ッ」両手で口を押さえている焦凍には声を我慢しようって意思はあるらしい。
 小さな乳首を両方平等にしゃぶってぷっくりさせてる間、小さな孔をほぐして指が三本入るまで前立腺を虐めた。
 二回くらい透明な汁を垂らしてイッた焦凍の腰がヒクついている。
 やらしいなー、と思いながら指を抜いて、そろそろ爆発しそうで限界だと感じるちんこにゴムを装着。両腕を伸ばして抱きついてくる焦凍の細い足を掴んで、もうどうにでもなれ、という投げやりな気持ちで挿入する。
 声と音を殺さなくちゃならないのはいつもと同じ。
 ただ、状況が違う。ここは轟家の焦凍の部屋じゃない。
 瞳に月を映してる焦凍を抱くのもいいもんだな、なんて、我ながら馬鹿っぽい。

「きもち?」

 さっきまでさんざん指で虐めてた場所を擦ってやるとびくんと白い肢体が跳ねた。「きも、ちひ」蕩けた顔で気持ちいと繰り返す焦凍の中を抉る。好き勝手して溺れたいところをなんとかブレーキをかけて、縋りついてくる焦凍を気持ちよくすることに専念する。
 これは弔を誘い出すためのセックスで、決して溺れているわけじゃない。「あ、きもち、」決して。「そこ、きもひ、ィ」欲に溺れてヤってるわけでは。「も、と、ぉく、も…ッ」決して。欲に。溺れては。「ひもちぃ、アぁ、きも、ひ」いない。はず………。
 半分しか挿れてなかったのに、焦凍が自分から腰を押しつけてきて俺のを根元まで咥え込んだ。「あ…ッ!」軽くイった焦凍とぎゅうっと強く絡みついてくる内側に、噛みついて跡を残してやりたい衝動を堪える。
 肩で息をしながら自分の腹を手のひらでさすって「、ぜんぶ、はいった…」とか言う、切なそうに喘ぐその顔を、めちゃくちゃにしてやりたい。

(動きたい)

 俺の全部を咥え込んだ焦凍と目が合う。
 左右で色の違う、月の光を浴びて黄金を散らした瞳。快楽の涙で蕩けた顔。熱で上気した頬の薄いピンク色。口を開けてしまうのを忘れた舌が猫みたい。

(めちゃくちゃにしてやりたい)

 黙って腰を掴んだ俺に、焦凍が両手で自分の口を塞いだ。
 あとはただ、貪るだけのセックスをした。
 相手はまだ十歳だとか、今は弔を誘き出すための作戦の最中なんだとか、そんなことは全部頭から抜け落ちていた。
 気持ちよくなりたかったし、気持ちよくしてやりたかった。
 俺のことが好きだと、出会ったときからそう言い続けてきた一人の人間を、心と体を愛でて、満たしてやりたかった。
 温泉で綺麗にした肌はすぐに汗に濡れて、焦凍が漏らす精液未満の体液で汚れた。「………ッ!」奥まで突き込んで、痙攣しながらイった焦凍の腹をさする。苦しそう。そういう顔も好き。ちんこはずっと涎垂らしたまんまでだらしない。そういうとこも好き。
 射精する前に中イキ覚えちゃったもんな。俺のせいとはいえ、本当、やらしー体になった。
 こんだけ虐めてんのに、声、ちゃんと我慢できてて偉い。あとで褒めてあげないと。
「お前、そーいうシュミあったんだ。知らなかったぜ」
 落ちた声にはっと我に返って振り返ると、弔がいた。いつの間にか月見台の手すりにしゃがみ込んで、こっちを、というより俺を睨んでいる。憎しみすら感じる赤い瞳で。
 触れた相手を瓦解させる、そういう凶悪な力を持った弔がその手のひらを俺へと向けて手すりを跳んだ、ところで、その体が空中で制止した。「あ?」赤い瞳がぎょろぎょろと周囲を観察するようにあちこちを見やる、その間にまだ蕩けてる焦凍を抱き起こして落ちてる着物を被せる。
 今の今までセックスに溺れてた奴の台詞じゃないけど。作戦通り、かかった。

「死柄木弔です、間違いありません! 奴の手は触れたモノを崩壊させます! そのままを保ってください!」

 どこかにいるだろうサイドキックの人に声を上げながら、自分の頬を両手で叩いて快楽から復帰しようとしてる焦凍から萎えた俺のを抜いた。「ん、」こら、エロい声出すな。また勃つから。
 重力関係の個性の人がいるんだろう、弔は空中でみっともなくバタついている。「下ろせ、離せ! 殺してやる!!」怒号のような声に片目を瞑って、焦凍に適当に着物を着せて、自分も適当に着物を羽織って帯を締める。
 騒ぎを聞きつけたんだろう、ガラス戸を開けて顔を出した夏くんを部屋の中へと押しやって、焦凍のことも入れると、今の今までセックスしてたせいで床にへたり込むように座り込んだ。体に力は入らないみたいだけど、物言いたげな瞳が空中で暴れ回っている弔のことを見ている。

「何アレ」
「今回の作戦対象。かなぁ」
「はぁ、へぇ…。じゃあ作戦成功、ってこと?」
「無事に捕まえられれば。あとはプロの仕事で、俺たちはここまで」

 ふぅん、とぼやいた夏くんがちらりと俺のことを見た。それから焦凍のことも。俺と焦凍のはだけてる着物の理由を察している目だ。
 見た目は取り繕えたとしても、性と汗の香りは誤魔化せない。夏くんは男としてそれを察している。
 外で弔が暴れるうるさい声だけのするなんとも言えない沈黙の中、ばたばたと二階から冬美ちゃんが駆け下りてきた。「なんの騒ぎ!?」慌てた様子の冬美ちゃんの肩を叩く夏くんは、それ以上冬美ちゃんを俺たちに近づけさせまいとしてるみたいにも見える。「作戦成功だってさ」「え、そうなの? そっか、それは良かったけど……焦凍? どうしたの? びっくりした?」座り込んだまま動かない焦凍を心配する冬美ちゃんはいい子だ。邪推してない。
 焦凍が「だいじょうぶ」とこぼす、その先で、これもサイドキックの誰かの個性だろう、弔がカクッと意識を失った。
 さすがプロ。弔は凶悪な個性の持ち主だけど、その個性を把握して、きちんと対処できる人を揃えれば、捕まえられるんだ。……無敵じゃないんだ。アイツも。よかった。
 ようやく大人しくなった弔から俺へと視線を移した焦凍が無言で手を差し出してくるから、伸ばされた両腕を取って頑張って抱き上げる。

「新しい部屋、用意してもらうよ。ここじゃ落ち着いて眠れないだろうし」

 任せた、と片手を振る夏くんは、俺たちのことを否定も肯定もしなかった。それはそれでありがたいことだ。
 クエスチョンマークを浮かべている冬美ちゃんを残して本館に行き、事情を説明。俺と焦凍、夏くん、冬美ちゃんの三つの部屋を用意してもらうようお願いすると、こういうことに慣れているんだろう女将さんはすぐに部屋を手配してくれた。
 ありがたく甘え、猫みたいに俺のことを舐めてる焦凍を敷かれている布団の上に下ろす。「お前ね……」舐めたり甘噛みしたり、おかげで首がベタベタだ。
 桃色の浴衣をめくり上げた焦凍がパンツをずり下げて尻を突き出してくる。ついさっきまでシてたからまだやわらかい孔が物欲しそうにパクついてるのにごくりと唾を飲み込む。

「もっと、ほしぃ」

 掠れた声で乞われて、一度は拡散した熱がまた股間に集中するのがわかる。
 ここに来るまで、首舐めたり鎖骨噛んだり、さんざん煽ってくれたもんな。
 弔の邪魔が入ったせいでお互い中途半端だったし。今後しばらくはこういうことができない可能性もあるし。今日くらいは、気絶するくらい、ヤってやろうか。