ドSの道とは何たるものか。サドの星からやってきたサディスティック王子とまで呼ばれる沖田総悟であるが、彼のSはまだまだ甘い。彼自身も、その旨は常日頃から薄々考えていたようであるが。
 どこを通っても金木犀の香る季節。 彼はこのかぶき町を歩いていた。見回りという訳ではない。俗世間ではサボりと呼ぶものである。真選組一番隊隊長ともなると、この黒い隊服を見るだけでギョッとし身を隠す町民など、気にするどころか視界にも入らないようだ。甘ったるい花の匂いが脳みそを溶かしてしまいそうだ、と 右手に持ったそれを見てかすかに笑いながら総悟は自嘲した。



 ピンポーン と、間延びした、どこにでもあるようなチャイムの音が部屋に響く。はベッドに転がって昼寝をかまそうとしていた重い体を起こし、ゆっくりと玄関へ向かった。

「はーい」
「宅配便でーす」
「あ、今開けまーす」

 準備良く、印鑑を手に がらがらと引き戸を開けたは目を見開いた。目の前の宅配人とやらが、刀の先をこちらに向けていたのである。 今の宅配便会社というのはドアを開けたら刀を向けてお出迎えするよう社員を教育しているのだろうか。否、これはあれだ、所謂強盗というやつだ。
 そんな場面にも落ち着いて一息つくことができるのは、ひとえに彼女がこういった状況に慣れてしまったからであろう。

「1秒以内に俺を家に上げやがれィ。さもないと斬る」
「何で総悟くんここに
「はい斬るー」
「ちょ、ま…! 上がるなら上がればいいじゃない」

 当たったらどうするの危ないなぁ と、ぷんすか怒るへ、総悟は呆れたように笑う。「こんな簡単に男を家に上げる方がよっぽど危ねェでさァ。」返事に困って目を見開いたが見た沖田は、器用に左手で刀を鞘に仕舞いながら いつもどおりのうすら笑みを浮かべていた。
 何故彼がここにいるのだろうか。彼に、住所を教えた覚えはない。 総悟が一応は警察官であることをすっかりうっかり忘れていたは悩んだ。

 そこで 彼の右手が握るそれに、はようやく気付いた。


「金木犀だー」
「あァ、来る途中で匂ってたんで。さんにあげやす」
「え、わたしに? いいの?!」
「俺が屯所持って帰ってどうしろってんでィ」
「ありがとう!」

 折ってきたのだろうか。彼がに押し付けてきたのは金木犀の木の枝だった。そういえば最近よく香ってるな、と 受け取った橙色の花に鼻を近づける。枝を折るのは可哀想だが、それよりも彼がわざわざ自分のためにそんなことをしてくれたという事実が素直に嬉しかった。後で自分の部屋へ ガラス瓶にでも飾って生けよう。


「そういえば総悟くんは何できたの?」
「これ渡しに」
「そんだけ?」
「来ちゃいけなかったんですかィ」
「いや、そんなことはないけど」

 大きく首を振る。上がると言った割には玄関から動こうとしない総悟に首を傾げると、彼は靴すら脱がないまま、言った。

「じゃ、俺はそろそろ帰りやす」
「え、もう?」
「へェ? 帰ってほしくない、と」

 ここで そんなこと言ってない!と叫ぼうかとも思ったが、は何も言えずにただ立ち尽くす。そんな様子を総悟の方も不思議に思ったらしく、きょとんとして彼女の顔を覗き込んだ。
 帰らないでって言ったらここに居てくれるんだろうか。否、「へェへェ、さんは俺のことが大好きなんだなァ」とからかわれて終わりに違いない。は日頃の彼とのやり取りから想像した。
 それに、彼は隊服のままだ。仕事をサボって来たのだろう。そんな彼を引きとめるのは少々気が引ける。


「ううん、わざわざありがとね」
「…何でィ、つまんねェや」

 じゃあまた、と片手をあげて彼は去っていった。手元に残った甘い香りをもう一度吸い込むと、は沸き上がるあたたかい気持ちを押さえもせず にへらと笑った。



 ――帰らないで、とでも言われたかったのだろうか。どこか物足りなさを感じつつ彼女の家から帰路に着く。物足りない反面、満足いかない展開に、上等だ と燃える血の気の多い自分もいる。そんな彼の足取りは、軽い。
 俺はまだまださんに甘ェな。そんなことを考え にやりと笑う。本来の彼の予定では、だいたい一週間も会わなければ寂しくなってあっちから会いに来ると踏んでいたのに。(そしてそこを散々いじろうと考えていたのに。)どうやら逆になってしまったらしい。

 何だかんだ言って総悟ものことが好きで仕方がないのだ。だが自分の 会いたいという想いやら衝動やらをも我慢しなければ、彼女のあの 恥ずかしがって泣きそうになる真っ赤な怒り顔も見ることができない。 真のドSになるには、まだ彼は甘いようだった。





チョコレートパフェよりも 甘 い











(091018:麗綺しなさんへ総悟記念です!← ありがとうございました〜 * シラトリ)

-------------

シラトリさんにいただきました相互記念の総悟夢です!(笑
総悟の勉強になりますシラトリさん…!私もがんばって書いてみなくては〜
お言葉に甘えてほぼそのままです。なのでちょっぴり仕様がシラトリさん宅っぽくなりました←

こんな素敵夢を書かれるシラトリさんのサイトはココから飛べます!是非遊びに行ってみましょう〜